山梨学院の曲者・菅野秀斗 卓抜したバットコントロールは独特の感性から生まれた
山梨学院の打者では高校通算34本塁打の野村健太が注目されるが、同じく大きく注目したいのが二塁手の菅野秀斗(かんの・しゅうと)だ。前橋育英戦では4打数4安打4打点を記録するなど、関東大会では12打数7安打、4打点と大活躍を見せた。
何といっても魅力が内外角、低めを拾い長打・安打にできる打撃技術、イチローばりにボール球だと思うコースを拾って安打にしてしまう反応の良さ、俊敏な二塁守備、走塁を見ると、まさに野球センスの塊という表現がぴったりだ。
年間、球場で多くの選手を見てる中でも、菅野というプレイヤーは他の選手にはない独特の感性を持っていて気になって仕方ない。
そんな菅野の考えを知るべく、これまでのルーツ、取り組みを追った。
小倉氏からどんな教えを学んだのか?

菅野秀斗(山梨学院)
4人兄弟の末っ子で、兄は野球、父も社会人野球までやっていたという野球一家の下に生まれた菅野。
「物心がつく頃には野球をやっていました」と振り返る。日野市立南平小では軟式野球でプレーし、日野市立七生中では八王子シニアに所属する。八王子シニアのチームメイトには谷 幸之助(関東一)がいた。
谷を含め個性的な選手が多く、主将を務めた菅野はまとめるのに苦労したと振り返るが、それでも信頼感は厚く、谷は「やっぱり自分の練習はしっかりとやっていましたし、3年生でチームを引退しても菅野は練習をしっかりとやっていましたよ」と菅野の取り組む姿勢を評価していた。
そして3年時にはいくつかの強豪校からの誘いを受け、誘われた学校の練習を見て、山梨学院に進むことを決断した。

秋季関東地区大会での菅野秀斗(山梨学院)
アピールしたのは、バッティング。2年春からベンチ入りを果たした。
「最初はバッティングを買っていただいていました。そこでチームに貢献して使っていただけるようになったと思います」
2年夏には甲子園デビュー。高知商との打撃戦に敗れたが、4打数2安打2打点を記録。
「率直にいって楽しかったです。チャンスで回ってきたりして、正直緊張というよりは楽しめていたので、そういうモチベーションでいたから打てたのかなと思います」と淡々と甲子園デビューを振り返った。
そして新チームではコーチに就任した小倉清一郎氏から多くの事を学んだ。小倉氏からは配球、フォーメーションなどを学んだ。特に二塁手である菅野はフォーメーションについて厳しく指導を受けた。
「教えてもらう内容は本当に高度で、フォーメーションについてはこんなやり方があるのか!と驚きを隠せませんでした」
フォーメーションを学びつつ、打撃では打撃フォーム、配球の読み方も指摘を受けた。
菅野自身、長打・短打を打ち分けられる選手になりたいと思いから小倉氏からそれができる打ち方を学んだ。ただ小倉氏の教えが100パーセント合ったわけではない。正直に言えば合わなかった。
名コーチの指導は受ければすぐに打てる特効薬ではない。ただ菅野は自分の引き出しを広げる意味で学ぶことができたと振り返る。
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菅野秀斗(山梨学院)
「小倉さんに教えてもらって悪い方向に行ってしまって、これではダメというものが分かりました。例えば、このポイントでとらえようとするのはダメとか、悪いのが分かったので気をつけるべき点が分かって良い方向にすすんだと思います。自分でも修正ポイントが分かるようになり、修正できるようになりました」
菅野は秋の大会では本調子ではないと振り返りながらも持ち前の野球センスの高さで結果を残していく。関東大会の初戦・中央学院戦で菅野は驚きの打撃を見せる。第1打席、内角に来たフォークボールを拾って、二塁打にした打撃があった。明らかにボール球。なぜあんな打撃ができるのだろうか。
「正直、ボール球を打ってしまったので、打撃内容は良くないです。あの打撃を振り返ると、思わず体が反応しました。なぜできるのかというと、中学の時はボール球を拾って打つのが好きで、遊びでそういうのもやっていたのでそれがつながったかなと思います」
遊びでできるセンスの良さが菅野にはある。そして前橋育英戦は大当たりだった。第1打席は中前安打を放つと、第2打席は左前適時打、そして第3打席は左中間へ適時二塁打。第4打席はライトへ二塁打と4打数4安打4打点とヒーローとなった。この試合を振り返ると、内外角に反応し、さらにレフト、ライトへ長打を打つという100点の打撃内容だった。
「逆方向にしっかり打てたというのは自分の中で意識していたことだったので、それが試合で実践できたというところはよかったです。また第4打席についてですが、満塁で自分がホームラン打ったらコールドだったので狙いました」
菅野は年間通して安打を重ねるが、その要因の1つとしてタイミングの取り方が上手いことが挙げられる。タイミングの取り方はどう意識しているのか。
「自分は足でタイミングをとります。そのため足を柔らかく使うということを意識しています。上半身よりも下半身を意識して普段から練習しています。下半身がいい動きをしているときに打てるので、下半身が大事です」

秋季関東地区大会での菅野秀斗(山梨学院)
自分のフォームポイントが分かっている選手は強い。関東大会で大当たりしていた菅野の打撃内容について吉田監督はこう評価する。
「菅野の場合、バットを寝かせて、スイングに入りますが、良い時はヘッドが投手方向に向けすぎずにスイング軌道に入ることが出来る選手です。関東大会ではそれができていたので、打てたと思います」
誰が見ても関東大会での菅野は「スーパー菅野」に見えたが、菅野曰く打撃の完成度は70パーセント。まだまだ高みを目指している。
そして当面の課題は二塁守備。吉田監督は「スローイングが課題だと思います。ここを乗り越えないといけない」と守備面は厳しく評価。
菅野も「自分はあんまり肩が強くないので、そこが欠点ですね。肩が強ければゲッツーをとる確率も高くなったりするので肩は強くしたいなと思います。あとは守備範囲の広さには自信があるので、広げていきたい」と体の強さ、肩の強さのレベルアップを求め、日々のトレーニングに励む。
また打撃も試行錯誤を続ける。小倉氏の教えで構えた時の重心の位置を変え、甲子園では低くしていたが、関東大会では高くしていた。しかし今はさらに重心の位置を変えている。
「今は調子によって下げたり上げたりしています。最近見始めた高橋由伸さんの打撃スタイルは憧れていて、最近ではトップの位置を耳に近づけるようにやっています。バッティングを自分の形にして、自分の理想的な中距離・長距離を打てるバッティングをしたいなと思います」
センバツでは「打てれば打てるだけ、全打席ヒットを狙っていきたいです」と高い目標を掲げた菅野。それを狙えるだけの素質はあるだろう。菅野の歩みを聞いて感じたのは自分の色、考えを貫くこと。
小倉氏の教えも自分なりに取捨選択をして、レベルアップを遂げた。果たして菅野は甲子園の舞台でどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。
文=河嶋 宗一