音楽プロデューサーとしてCHEMISTRYやいきものがかりの結成、デビューなどで手腕を発揮する一方で、半世紀を超えるアマチュア野球観戦により野球の目利きでもある一志順夫。連載コラム「白球交差点」は、彼独自のエンタメ視点で過去と現在の野球シーンとその時代を縦横無尽に活写していきます。
DH制がなければ大谷の二刀流も実現しなかった
今年連盟結成100周年を迎えた東京六大学野球が、来シーズンからDH(指名打者)制を導入することになった。一方、高校野球でも7回制とともに、DH制の是非について議論されてきたが、来春センバツ大会での導入を視野に具体的な検討段階に入ったようだ。
U-18 日本代表を率いた経験のある明徳義塾・馬淵 史郎監督も「7イニング制よりもDH制が先やと思います」と提言するなど、指導者からは以前より待望論もあった。全日本大学野球連盟に加盟している27連盟のうち、現時点でDH制を採用していないのは、東京六大学と関西学生の2リーグだけ。東京六大学が導入に踏み切る以上、もう1つの関西学生も追随する可能性は高いだろう。
学生野球の父・安部 磯雄を信奉し、意外にも伝統保守派である早大・小宮山 悟監督は「ピッチャーが打席に立つ野球をしてきたのを諦めるのは残念」としつつ、「世の中の流れなのでやむをえない。高校生の勧誘で“打つだけ番長”を獲れるメリットは出てきた」と語った。
確かに、DH制がなければ、大谷 翔平の二刀流も実現しなかったわけであり、近代ベースボールの多様性を担保するうえで、もはや否定論者は少数派になっているはずだ。
大谷翔平のMLBナショナル・リーグも、2022年からDH制導入に踏み切っている。こうなると、DH制を採用していないNPBセ・リーグのガラパゴス化が、どうしても悪目立ちしてしまう。
意外に思われるが、セ・リーグでも巨人の原 辰徳前監督は盛んにDH制導入を提唱していた。隠然たる影響力を誇ってきた渡辺 恒雄氏の発言力が低下してきたタイミングということもあるのだろうが、2020年のオフには、巨人・山口 寿一オーナーが新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、セ・リーグ理事会に暫定的なDH制を提案したものの、賛同を得られず見送られている。