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樟南と鹿児島実の2強時代から神村学園が台頭して三すくみ状態に(鹿児島)

2017.01.15

 鹿児島の野球をリードしていったのは鹿児島商である。戦前からの市立商業学校なのだが、長い間、県内の野球をリードしていた。それに一中(現鶴丸)、二中(現鹿児島甲南)が絡むというものだった。さらにはそれを追って、市立高校の鹿児島玉龍出水商といったところも頑張っていた。

70年代以降の鹿児島勢の躍進

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鹿児島実業

 とはいえ、鹿児島県勢が甲子園で実績を示してきたのは70年代以降で、71年夏鹿児島玉龍がベスト8に進出し、74年定岡 正二投手を擁する鹿児島実が優勝候補の東海大相模を延長の末に下すなどしてベスト4に進出したころからだ。定岡人気もあって、一気に注目されるようになった。

 こうして、鹿児島県の力関係は市立勢の鹿児島商から徐々に鹿児島実に移っていった。さらにもう一つの勢力として枦山 智博監督が就任した鹿児島商工が加わってきて、三つ巴の状態になってきた。とくに鹿児島商工は80年代に入ってから力をつけていった。この3校の県内の争いが結果として鹿児島県のレベルもあげていったということが言えるのではないだろうか。

 ちなみに当時、この3校の帽子のマークは鹿児島商が商業の「S」、鹿児島実が実業(business)の英語で「B」、鹿児島商工が「K」だったのも面白かった。要するに、県内での区別がわかりやすいということが最優先となっていたのだと考えられる。

 その後、鹿児島商が徐々にフェードアウトしていって2強の時代へと突入していく。
鹿児島商工樟南と校名変更したのは福岡 真一郎田村 恵(現広島スカウト)のバッテリーが3年生となった94年である。優勝も狙えるチーム力との大会前からの評判も高かったが、下馬評通りに勝ち上がって決勝に進出した。決勝戦では九州対決で佐賀商の前に屈するものの、新校名はしっかりと全国に印象づけた。
鹿児島勢としても初めての決勝進出であった。

 全国での戦いぶりからすれば県内で一番リードしているはずの鹿児島実だったが、気がついたら樟南に先を越されてしまった感じになってしまった。ところが、その2年後に鹿児島実はしっかりと逆襲する。96年春下窪 陽介投手を擁して智弁和歌山を倒してついに全国の頂点に立ったのである。県勢初の全国制覇となり、改めて鹿実野球健在を印象づけた。特に、白地に黒の太文字で力強く「鹿実」のユニフォームは改めて、鹿児島県の高校野球のリーダーであるという印象を与えてくれた。

[page_break:三すくみ状態の鹿児島県の勢力構図]

三すくみ状態の鹿児島県の勢力構図

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神村学園ナイン(2016年秋季県大会準決勝より)

 こうして、鹿児島県の2強は、その後はますますマッチレースの様相が強くなっていった。鹿児島商も復活を狙い、照国から校名変更した鹿児島城西や鹿児島実川内分校から独立して、川内実を経て校名変更したれいめい、あるいは鹿児島工鹿屋中央なども加わって、高レベルでの競り合いを演じていくようになった。

 ところが、そこへ突如新勢力として神村学園が台頭してきたのだ。03年に女子校から男女共学となり、創部していきなり2年目で秋季九州大会を勝ち上がってベスト4。一気に翌春05年のセンバツ出場を決めると、甲子園でも快進撃を続けて準優勝。全国にその存在を知らしめた。すさまじい勢いで全国の頂点近くまで駆け上がっていったところが出現したのだった。

 元々、女子校時代にも女子硬式野球部があり、女子高校野球の先駆的な存在でもあった。神村学園は以降、10年の間で春5回、夏3回という甲子園出場実績をあげている。こうして今や、鹿児島実樟南に割って入る勢力となったのだ。
そして、この三すくみ状態が継続され、そのまま鹿児島県の勢力構図となっている。

 ところで、鹿児島の地は実は日本の野球にとっては名付けの親の地でもある。というのも、「baseball」を「野球」と訳した人といわれているのが中馬 庚(ちゅうまかのえ)で、鹿児島二中に在籍していた。それから第一高等学校へ進んで東京帝国大の学生となり、その時代にベースボールを野球と訳したとされている。そういう意味では、日本の野球にとって鹿児島県は特別なところということが言えるであろう。

 ところで、その中馬 庚の母校・鹿児島二中は現在の鹿児島甲南で、旧制時代の伝統はしっかりと引き継がれているという名門である。通称「甲鶴戦」と呼ばれている鶴丸とのスポーツ交歓対抗戦は、両校関係者だけではなく、鹿児島市内の名物行事一つといわれている。その看板が両校の野球の対抗戦と応援合戦である。

 また、公立校としては14年春に21世紀枠代表となった離島の鹿児島大島、武岡台錦江湾などが健闘している。また、最南端の枕崎も地元では「マッコー」の名で親しまれ、人気がある。

(文:手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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