巨人・大勢の恩師が率いる京都共栄。指揮官が語るチーム強化計画
練習風景
龍谷大平安や京都国際など、強豪校が数多く存在する京都府の高校野球。その中で甲子園常連校の間に割って入ろうと奮闘を続けているのが、福知山市に所在する京都共栄だ。甲子園出場経験こそないが、2019年夏には4強入りするなど、府内では度々上位に進出している。
昨秋からは兵庫の西脇工を2013年夏の甲子園出場に導き、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝メンバーの巨人・大勢投手(西脇工出身)を育てた木谷 忠弘監督が就任。悲願の甲子園出場に向けて強化を進めている。
西脇工で15年勤めていた木谷監督は異動が現実的になり、次に勝負する場所を考えていた。そこで以前からよく練習試合を組んでいた京都共栄と縁があり、昨年4月に赴任。秋までは大阪の公立進学校である春日丘を甲子園出場に導いた実績を持つ神前 俊彦前監督を部長として支えた。
そして、秋季大会終了後に木谷監督の就任が決定。「なんで野球をやっているのかを含めて、練習の内容や意味合いですとか、やるメニューですとか、考え方も含めて一回キチンと整理した上で再スタートを切りたいなと。整理の部分に力を入れましたね」とまずは様子を見ながら、焦らずに強化の道を模索することにした。
その中でも練習メニューに変化はあるようだ。「リーダーとしての資質が高い」と木谷監督が評価する主将の河波 憲伸(3年)は「監督が変わってからトレーニングが中心なって、スイングスピードやウエートの重量が2ヶ月で最高で10キロも増えた者もいます」と語る。
取材日も内野手がノックを受けている間に外野手が体幹トレーニングやウエートトレーニングを行うなど、効率的に体を鍛えている場面が見られた。「パワーは去年と比較にならないくらい強くなっていると思うので、その辺りが試合で長打力や守備力という部分でいかんなく発揮できたら」と河波は春以降の戦いに期待感を抱いている。
打撃練習の様子
夏からレギュラーが総入れ替えとなった昨秋は初戦で強豪の立命館宇治と対戦し、4対9で敗戦。公式戦の経験値が少ないことを木谷監督は課題に感じているが、「色んな経験を積んだ時にどんな反応が起きて、どんな成長が起こるかなというところで考えると、非常に楽しみなところはあります。投手陣が伸びてくれば、試合内容もガラッと変わったものにできると思います」と春以降の成長に期待を寄せている。
投手陣は力投派の廣瀬 晃人投手(3年)と技巧派の塩見 晋の介投手(3年)の両右腕が軸。力のある直球を投げる右腕の神内 秀投手(3年)や井出 一斗投手(2年)がさらに伸びてくれば、投手力はかなり向上すると木谷監督は考えているようだ。
野手では守備の要となる吉見 大捕手(3年)と遊撃手の佐々木 舶翔内野手(3年)が中心選手として期待されている。
吉見はスローイング能力に優れている。副主将を務め、打ってもクリーンアップに座る攻守のキーマンだ。「守備でもバッティングでもチームを引っ張っていく存在になります」と語るなど、プレーでチームを牽引していく存在となってくるだろう。
佐々木は堅実な守備を持ち味とする。この冬には社会人野球チームの練習に参加。「練習の雰囲気や声の出し方がとても勉強になりました」と学んだことをチームに還元している。その姿勢は、「リーダーとしての自覚がどんどん出てきました」と河波が認めるほど。高いレベルの野球を体験したことは佐々木自身だけでなく、チーム全体にも好影響を与えているようだ。
攻撃面で中心となるのが、秋は3番を打っていた西澤 蒼太(3年)。「強く振れるところが何よりも良いところ」と木谷監督が評価する強打者で、取材日の打撃練習でも力強いスイングを見せてくれた。
打撃練習にも工夫がある。週に2回ほどは市内にある福知山SECカーボンスタジアムを使用できるが、それ以外の日に使用する学校のグラウンドは陸上部やサッカー部と共用となる日も少なくない。そこで、神前前監督時代に作られた鳥かごで打ち込んだり、ハーフ打撃でテニスボールを打つなど、場所と時間を有効活用した打撃練習を行っている。
「工夫すれば、この環境の中でも色んな練習ができると思うので、とにかく時間と場所と人を遊ばせない感じですかね」(木谷監督)と無駄な時間を作らないことに力を入れているようだ。
「とにかく様子を見ようという思いが強かったので、春から冬まで経験して来年に向けてこう改善しようとか、こういう風に取り組んでみようということが頭の中に湧いてくる。そんな1年でしたね」と赴任1年目を振り返った木谷監督。課題を見つけて改善を促し、着実に強化を進めようとしている。
京都府は伝統的に南部のチームが強く、北部では峰山と福知山成美しか甲子園の出場経験がない。その中で京都共栄が3校目の甲子園出場校になれるだろうか。河波は次のように意気込みを語ってくれた。
「今のしんどい練習や苦しいトレーニングを乗り越えるからこそ甲子園という目標がついてくると思っています。目標達成よりは目の前のことを全力でやることを意識しています。家族や指導者や学校の方々にもしっかり感謝をして、その人たちの期待にも応えられるように全力でプレーをしていって、最高の結果になれるように頑張っていきたいと思います」
京都の勢力図を変える可能性を秘めている京都共栄。16日の春季大会初戦では府立工業に12対2の7回コールド勝ちを収めている。ここからどこまで勝ち進むことができるのか。今後の戦いに注目だ。
(取材=馬場 遼)