2005年から活動している兵庫神戸ボーイズは、「文武不岐(ぶんぶわかたず)」という指導方針のもとで普段練習、大会を戦っている。が、高校野球をはじめ多くのカテゴリーでよく聞かれる文武両道ではなく、「文武不岐(ぶんぶわかたず)」という言葉を指導方針にしているのは、山下展誉総監督の話より、強いこだわりが見えてきた。
「私たちの活動は、学校生活の上に成り立っている。あくまで義務教育である中学校が土台なので、その優先度を間違えてはいけない。それは高校野球でも同じですし、私は選手たちに大学野球までは続けてほしいと思っていますので、こういった方針で活動しています」
なので、兵庫神戸ボーイズでは勉強への指導も力を相当入れており、「オール3以上、5教科で300点以上を目指して指導しています」という徹底ぶり。実際に取り組む選手たちからすれば大変で、山下総監督も「勉強って誰も好きじゃないんですけど」と理解はしているが、手を抜かせないのには、自身の経験が関係しているそうだ。
「中学、高校、そして大学と何かスポーツを貫いた人は、精神力が違うと仕事をしていると感じます。だから日本代表になった、全国大会に出場したとかのキャリアはどうでもよくて、やりきったかどうか。そのために学力が必要だと感じています。
実際、息子たちは大学まで野球をやり切りましたが、背番号はもらえませんでした。それでも周りのサポートに徹して仲間たちを支えていたそうです。そんな選手でしたが、就職先は東大や京大の学生ばかりがいる企業に採用してもらいました。異例の採用だったようですが、大学まで野球をやり切ったことを評価してくれたそうなので、やはり大切なんだと感じて、選手たちに指導をしています」
だから兵庫神戸ボーイズは文武不岐の指導方針のもとで選手たちを育てており、選手たちも指導者の教えに応えている結果、卒業した選手たちのおよそ86%は大学野球まで継続しているという。
ただ文武不岐を貫くだけで大学野球を継続できるほど簡単ではない。相応の技術などプレーも備わっていなければいけない。その点についても、山下総監督はしっかりと指導をしているという。
「大谷 翔平がやっていた目標達成シートで、選手それぞれが目標を立てて、それを実現するために何をしないといけないのか。気持ちの部分をしっかりやりますし、体づくりについてもデータを中学1年生から取り続けたり、トレーニング機材を揃えてあげたり。トレーナーについてもプロ野球選手にパーソナルの指導した実績ある方を2人来てもらうようにしています」
特にデータという点においては、3年間計測した身体能力からAIで身長がどれくらいまで伸びるのか算出。そこに学校の通知表も各選手から報告を受けているので、進路の話になった際は、すぐに選手の現在地がわかる状態。ゆえに話し合いは早く進むので、関係者からも驚きの声をもらうという。
ただこうした取り組み「1日でも長く野球をしてほしい」という思いを持つ山下総監督からすれば、決して特別なことではない。実際、山下総監督はケガに対しても強い警戒心を持っており、選手たちに自身の足にフィットさせるようにスパイクの履くように指導するなど丁寧にアドバイスを送っている。
さらに4月中旬に開催され、ベスト4入りを果たしたのじぎく大会からチームとしてアシックスの新作スパイク・NEOCONNECT(ネオコネクト)を試す考えだという。
通常のスパイクとは違い、前足部分は金具歯4本を配置して、かかと部分は樹脂スタッドを4つ配置する。今まであまりなかった2種類の歯が使われるハイブリッドソールを採用していることが特徴的な一足となっている。
前足部分に金具歯を使っていることで、パフォーマンスに対するサポートをしてくれるのはもちろん、かかと部分には樹脂スタッドを採用しているので、軽量化に繋げるだけではなく、地面からの衝撃を緩衝してくれるという足に優しい一面もあるスパイクとなっている。
その他にもアッパー(足の甲)部分は2種類の素材を使って、フィット感を高めるなど創意工夫を凝らした一足に、使っている選手たちからは「クッション性があって走りやすい」という声があれば、「これまでに比べて、足の負担が減っている感覚がする」というような話をする選手たちがいた。ネオコネクトの効果は実感しているようだった。
選手たちの様子を見ていた山下総監督も「(選手たちの)反応は良かったですね」と様子を振り返りながら、自身も初めて見たときは「びっくりしました」と現役時代にはなかったスパイクに驚いたという。同時に足に対して優しい機能が備わっていることに、「いいことだと思いますし、負担を少しでも軽減しパフォーマンスアップに繋がってくれたらと思います」と期待をしているようだった。
集大成の夏に向かっていく兵庫神戸ボーイズ。主将である河上秀平内野手は、「昨秋に比べて声は出ていますし、チームの一体感は強くなってきた」とチームの完成度は高まってきたようだ。
一方で「終盤に得点を取れないのは、今後のテーマです」と課題をはっきりと語る。改善するために、「走り込みで体力をつけることが出来ればと思っています」とフィジカル強化で、最後まで戦い抜けるようにするつもりだ。
ただ山下総監督は「うちは勝利至上主義ではないですし、選手たちにとって本当のステージは高校、大学です」ということで、目先の結果に必要以上に執着していない。
「社会人野球までやっていたコーチが多いので、野球の基本を教えていますけど、高校以降に向けて体、気持ち作りをしっかりやることを大切にしています。ですので、まずはケガをしないようにしながら、選手たちが希望する高校へ行けるように必要な指導、そして練習を積むことが出来たらと思います」
選手たちの将来のため、出来る最善を尽くす。プレーはもちろん体づくり、気構えやケガ防止。そして勉強とあらゆる面でサポートをする兵庫神戸ボーイズから、どんな選手が巣立っていくのか。これからのチームの活動に注目し続けたい。
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