Column

かつてベンチ入りは14人。50年かけてベンチ入り20人になった高校野球には様々なドラマが

2023.08.21


控え選手がもたらしたドラマ

この夏の甲子園(第105回全国高校野球選手権記念大会)からベンチ入りの人数が18人から20人に増枠された。3年前から導入されている投球数制限への配慮や、暑さ対策などがその理由だ。もともと現場から増枠を望む声が強かっただけに、今大会に出場する各校の監督も歓迎している。

監督にとって地方大会のベンチ入り20人を決めることは、かなりつらい決断である。そのうえ、晴れて甲子園出場が決まれば、さらに削減を要求された。しかも、全国大会までの間が短いため、すぐに決断することを求められる。これは、決断する監督にとっても、外される選手にとっても悲劇である。

この大会からベンチ入りの選手が18人だった南北北海道と鳥取の大会も20人なる。好不調や負傷などにより選手を入れ替えるチームもあるだろうが、地方大会と同じメンバーで甲子園に行くことが可能になった。

私が高校野球を見始めた50年以上前は、ベンチ入りは14人だった。控えはたった5人だったわけだが、当時は、エースが1人で投げ抜くのが当たり前。控え選手が試合に出る機会は限られていた。

特に最終番号である背番号14の選手が試合に出ることは、ほとんどない。かつて朝日新聞の記者として高校野球報道の中心にいた好村三郎が1976年に刊行した「汗と涙の高校野球」(山手書房)という書籍には、「背中で泣いていた14番」という文章があり、こう書かれている。

―「14」は、だれよりも、ベンチで声を張りあげ、自分の力不足に、歯ぎしりしながら戦いにのぞんでいる。―

14番は特に出番が少なかったが、他の控え選手もそう変わらない。もっとも、控え選手が成し遂げたドラマもあった。1962年のセンバツで優勝した作新学院(栃木)は、春夏制覇を目指したが、甲子園に来てからエースの八木沢壮六(元ロッテ)が赤痢と診断され隔離された。しかし控えの加藤斌も好投手であり、加藤の活躍もあり、作新学院が史上初となる春夏制覇を達成した。

また64年、当時の高知(高知)は後に「ミスター・ロッテ」としてプロ野球を代表する強打者になる有藤通世がエースで4番だったが、1回戦で死球を受け入院。2回戦では主将の三野幸宏まで死球を受け入院したが、2年生の光内数喜の好投もあり高知が初優勝。将棋に例えて「飛車角抜きの優勝」と言われた。

76年夏の決勝戦、桜美林(西東京)とPL学園(大阪)の試合は、桜美林が延長11回、本田一の安打でチャンスを作り、菊池太陽の二塁打でサヨナラ勝ちして優勝した。本田も菊池も途中出場。控え選手の好打が優勝を呼び寄せた。

沖縄水産・大野の酷使→複数投手の時代に

甲子園大会の出場校数は30という時代が長かったが、78年の第60回大会から各都道府県から一代表(北海道と東京は2)で、49校という現行の制度になった。それにともない、ベンチ入りの人数も1人増え15人になった。

第60回大会はPL学園が夏の大会初制覇を果たす。西田真二(元広島)-木戸克彦(元阪神)のバッテリーが、打っても木戸が3番、西田が4番だったPL学園は、2回戦から登場し、決勝戦までの5試合、試合途中での選手交代が1度もなかった。

そのPL学園は87年に立浪和義(中日監督)らを擁し春夏制覇を果たす。この時のPL学園は野村弘(元横浜)、岩崎充宏、橋本清(元巨人など)という3人の好投手を使い分けた。もっともこうした投手起用は、「PLだから可能」という認識で、例外的な存在だった。

ベンチ入り15人時代を象徴するように、91年の朝日放送系の「速報 甲子園の道」のエンディングや高校野球中継のオープニング曲のタイトルは、「YELL~16番目の夏~」(歌手・井上晶己)だった。この歌は最後に「16番目のキミでも ぜんぶだいすき」と結ぶ。高校野球ソングの中でも名曲の一つだと思う。

「YELL」が歌われた91年の夏の決勝戦で沖縄水産(沖縄)のエース・大野倫(元巨人など)は、故障を抱えながら登板し、大阪桐蔭に敗れた。大野は県大会の時から肘の故障を抱えていたが、本大会でも1人で投げ続け、1回戦で10安打、2回戦で11安打、3回戦は7安打だったが、準々決勝は10安打、準決勝は14安打、決勝戦は16安打と打たれ続けた。そして大会後、疲労骨折をしていたことが判明する。

この出来事を契機に、投手の故障に対する議論が高まり、93年から甲子園大会に出場する全投手の肩や肘の検査が始まり、重い故障が見つかった場合は投球禁止になった。それと同時にベンチ入りの人数は16人に増えた。

実際には、大野は顕著なケースであったが、それ以前から投手の故障は問題になっていた。74年に金属バットが導入されるまでは、夏の大会の優勝投手は、技巧派が圧倒的に多かった。しかし金属バット時代になると、力対力の対決が多くなる。特に82年の第64回大会で、筋力トレーニングで鍛えた池田(徳島)が強力打線で全国制覇すると、高校野球にもパワー対決の時代が到来した。そして投手の負担が増すようになる。

86年の第68回大会で優勝した天理(奈良)の本橋雅央も肘の故障を抱えながら投球した。82年に池田が優勝してから、準決勝に大量点の入る試合が目立つようになる。それとともに、投手の起用の仕方も変わり始める。

95年の第77回大会で優勝した帝京(東東京)は、白木隆之、本家穣太郎という2人の投手をめまぐるしく交代させた。2回戦の日南学園(宮崎)戦は2対1の投手戦だったが、帝京は白木と本家を何度も入れ替え、延べ5人の投手を起用した形になった。そのたびに内外野の選手のポジションも変動した。

97年の第79回大会で初優勝を果たした智辯和歌山(和歌山)は、藤谷俊之、児玉生弥、中山貴文、清水昭秀、高塚信幸(元近鉄)と5人の投手を起用した。

チーム事情などで千差万別ではあるが、この頃から複数の投手を起用するチームが目立つようになってきた。2001年の第83回大会で全国制覇を果たした日大三(西東京)は、近藤一樹(元オリックスなど)、千葉英貴(元横浜)、清代渉平という3人の投手を使い分けて優勝した。

ベンチ入り20人時代 高校野球はどう変わるか⁉

そして03年の第85回大会からベンチ入りの人数は18人に増やされた。さらに20年から投球数制限が設定されたことが、今回の20人への増枠につながった。

1週間に500球以内という制限であるが、投手の少ない公立校などで負担に感じる学校はあるものの、多くのチームは制限に関係なく、複数の投手を導入しているケースが目立つ。エースに力を発揮させるためにも休養の必要性という認識が深まったこと、国際試合の増加で、投球数制限が認知されてきたこと、それに近年の猛烈な暑さで、1人の投手に任せるのは、あまりに酷な状況になったことなどがある。

複数の投手を起用するようになって、投手のスタイルも多様化してきた。木製バットの時代は、下手投げ、横手投げの投手が多くいたが、パワー時代を迎え、そうした投手は激減状態になりつつあった。1人か2人の投手だと、どうしても球威のある速球派を投入することが多くなるからだ。しかし複数投手の起用が定着すると、相手の目先を変える意味でも、下手投げや横手投げの出番が増える。これは野球の国際化を考えても、日本や韓国特有のこうした投手が増えることは、望ましい傾向である。

また、2番手以下の投手で打撃が良ければ、野手として起用し、そのポジションからマウンドに上がることが一般的だったが、近年は、登板の予定があれば、攻撃力の低下を我慢しても、ベンチに控えさせることが増えてきた。野手からマウンドに上がるのは、準備不足で故障を招いたり、パフォーマンスが落ちる懸念があったりするからだ。その分、野手の活動幅は広がる。かつてのように、スタメン9人で戦うケースは少なくなり、控えの選手をフルに活用するケースも多くなった。

それにかつてのようにベンチ入りの人数が15人と16人だと、控え投手以外は、複数の役割をこなすマルチな能力が求められた。ベンチ入りの枠が20人に増えても、そうした選手の需要は変わらないだろう。

それでも増えた2人の枠に、スペシャリストを起用する可能性も出てくる。それを促すのが、今年から延長戦即タイブレークになったことだ。この夏は地方大会からタイブレーク制のドラマが多かった。今後タイブレーク対策に本腰を入れるチームも増えるだろう。そこで、バントのスペシャリストや走塁のスペシャリストなどの出番が出てくる。

障害予防や暑さ対策で投球数制限やタイブレーク、ベンチ入りの人数の増加などが行われることは、高校野球に大きな変化をもたらすだろう。その変化にうまく適応したチームが、今後の高校野球界をリードすることになる。高校野球を長年見てきた私としても、どう変わっていくのか、非常に興味があるところだ。

記事=大島 優史

この記事の執筆者: 田中 裕毅

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.27

【京都】龍谷大平安、京都成章、北嵯峨などが2次戦進出戦に挑む<春季大会>

2024.04.27

【大阪】3回戦は28日に大阪桐蔭、履正社が登場、29日には上宮-関西創価など<春季大会>

2024.04.27

横浜に入学した「スーパー1年生5人衆」に注目せよ! 佐々木朗希二世、中学日本代表の二刀流など明日の慶應戦で活躍なるか!?

2024.04.27

【滋賀】シードの滋賀学園、彦根総合が登場<春季県大会>

2024.04.27

【広島】広陵は瀬戸内と、広島商は崇徳と夏のシードをかけて激突<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.22

【九州】神村学園、明豊のセンバツ組が勝利、佐賀北は春日に競り勝つ<春季地区大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!