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昌平?浦和学院?花咲徳栄?三つ巴の争い、本命なき埼玉は混戦の予感

2023.07.08


第105回全国高校野球選手権埼玉大会は花咲徳栄の5連覇以外、本命と言われている高校がすんなり甲子園へ進むことが少ない県である。思えば昨年も大本命・浦和学院が決勝で聖望学園に敗れた。今年の本命は昨秋・今春共に埼玉を制した昌平になるが、秋・春・夏「完全制覇」した高校となると直近では1991年の春日部共栄まで遡ることとなる。浦和学院花咲徳栄との差は僅差である。昌平は無事に初の甲子園切符をつかむことができるか。

昌平〜大宮南ブロック

「完全制覇」を狙うAシード・昌平はとにかく投打共に選手層が厚く戦力的には申し分ない。投手陣では、ゲームメイクできるエース左腕・渡邊 俊輔投手(3年)を筆頭に最速143キロ、184センチの長身右腕・佐藤 立羽投手(2年)、2年生左腕・石井 晴翔投手に安定感タイプの右腕・佐藤 勇心投手(3年)、最速140キロの二刀流左腕・山根 大翔内野手(2年)など選手層は厚い。

打線もU-18日本代表候補にも選ばれた齋藤 陽貴捕手(3年)を筆頭に金子 晄也内野手(3年)、甲斐 陸斗外野手(3年)、菅沼 航平捕手(3年)、酒井 啓多外野手(3年)など上位下位どこからでも長打が飛び出し穴が見当たらない。昨秋のメンバーに加え、今春で前述の山根や1年生・櫻井 ユウヤ内野手などの新戦力も加わった。唯一、今春の泣きどころであった2番・金子、4番・齋藤の間を打つ3番打者も、今春はケガのため不在であった昨秋3番の小林 驍汰内野手(3年)が復帰するといよいよ盤石の状態となる。

昌平の初戦の相手は早大本庄。決して組み易い相手ではないが、このブロックでまずマークしなければならないのは昨夏の覇者・聖望学園か。今春は飯牟礼新監督を招聘したばかりで練習試合もままならない状態であったが、現在はだいぶ落ち着いているはず。投手陣は橋爪 雅治投手(3年)、井上 大仁投手(3年)の両右腕に2年生左腕・向深澤 要投手(2年)の3人が中心。打線は現状、柳 京四郎内野手(3年)や百済 廉矢外野手(3年)など3年生が中心となり、飯牟礼監督は選手の自主性を重んじるなど戦い方もだいぶ変化しただけに不気味な存在である。

ただし、聖望学園のブロックは難敵揃いである。初戦の相手は今春ベスト8進出と大会を盛り上げた台風の目Cシード・大宮南。昨夏、山村学園を苦しめた技巧派・高山 寛大投手(3年)を擁し、誰もが走れる機動力を有するだけに好ゲームが予想される。ここを勝ち上がっても、4回戦で2年生エース清田 光投手(3年)を擁する試合巧者・浦和実と、長身右腕・橋本 海里投手(3年)を擁し花咲徳栄を破るなど昨秋ベスト8の滑川総合の勝者とぶつかる。好左腕・黒須 翔斗投手(3年)擁する鷲宮や、昨秋、山村学園を苦しめた打の春日部、粘りの野球が信条のDシード・川口、昨秋ベスト4の東農大三、古豪・熊谷商川越工細田学園なども侮れない。

上尾〜大宮東ブロック

このブロックはBシード・大宮東、Cシード・上尾と公立上位校がいるが、このブロックで一番怖いのはもちろん花咲徳栄である。

今年の花咲徳栄は、増田 空内野手(3年)、齋藤 海外野手(3年)、柴田 樹捕手(3年)、新井 大貴内野手(3年)など旧チームのスタメンが半数残る。さらに石塚 裕惺内野手(2年)や目黒 亜門外野手(2年)など有望な2年生の存在もあり、昨秋の県大会のシード決め投票で1位に選ばれるなど前評判は高かった。

問題は投手陣だ。旧チームと比べ金子のような柱がおらず、秋・春共に公立校に敗れるなど、これまであまり見られなかった不安定な戦いを見せている。まずは投手陣の整備であろう。昨夏の経験もある左腕・飯島 大聖投手(3年)と右腕・木田 康介投手(3年)が現状エースを争う状況である。ここに上原 堆我投手(2年)や和久井 大地投手(2年)の両2年生右腕が絡む形になる。最速140km左腕・高橋一英投手(3年)も見たい投手である。

打線は今春ケガで不在だった新井が復帰。さらに今大会は横浜から昨年6月に転校してきたプロ注目・小野 勝利内野手(3年)の出場が可能となる。彼が4番に座り打線はさらなるパワーアップが期待できる。それだけに、4年ぶりの甲子園へ誰がエースとして安定感のある投球をするかが鍵であろう。

順当に行くと、花咲徳栄とベスト16でぶつかるのは上尾川口市立の勝者か。Cシード・上尾は今年、2年生左腕・飯島 恒太投手(2年)がチームを引っ張る。打線は旧チームに比べそこまでの破壊力がないだけに小技と機動力、そして主砲・駿河 咲希也外野手(3年)の奮起に期待したい。

その上尾と初戦で激突するのが、昨夏1,2年生中心で挑んだ前評判の高い川口市立である。彼らは順調に成長し特に現2年生のポテンシャルは高い。投手陣は上村 俊平投手(3年)と水澤 和之投手(3年)が中心。何より今春はケガのため欠場していた184センチの長身右腕、今年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも出場したオリックス・宇田川 優希投手(八潮南出身)の弟・宇田川 健投手(2年)の復活は大きい。他にも飯出 裕己投手(2年)や高木 綾太投手(2年)の2年生コンビも登板機会を伺う。打線の柱は昨夏1年生で4番を打っていた主砲・西澤 剛内野手(2年)が軸となる。秋・春と前評判ほどの結果を出せていないだけに今大会に期するものはあるはずだ。

ベスト8で待ち構えるのはBシード・大宮東である。大宮東は今年、2年生左腕・冨士 大和投手(2年)がチームを引っ張る。今春はほぼ1人でマウンドを守ったが、流石にベスト4で息切れした。夏1人で投げ切るのは難しいだけに今春は故障で不在だった昨夏の登板経験もある森川 晟投手(3年)の復活が待たれる。打線も白田 友輝内野手(3年)、桑野 倖成内野手(3年)、恩田 愛斗外野手(3年)の上位打線に迫力があるだけに森川の存在が鍵か。その他好投手・前原 智希投手(3年)を擁する山村国際や、浦和麗明叡明、Dシード・秀明英光も忘れてはいけない存在だ。

浦和学院〜狭山清陵ブロック

このブロックは何といっても昨夏の雪辱、昌平戦のリベンジに燃えるAシード・浦和学院であろう。戦力的には旧チームほどの爆発力はないが、まとまっている。投手陣は最速140キロ超えの投手が多く、左腕・伊藤 充輝投手(3年)と右腕・田中 樹人投手(3年)の左右両輪が柱だ。ただし他にも二刀流の渡邉 聡之介投手(3年)や左腕・鈴木 夕稀投手(3年)、右腕・月野 龍投手(3年)など選手層は厚い。

昨秋は投手陣に引っ張られていた打線も一冬を越えパワーアップした。昨夏のレギュラー小林 聖周外野手(3年)に喜屋武 夢咲外野手(3年)、濱野 祐真外野手(3年)、篠塚 大雅捕手(3年)ら3年生はもちろん、主砲・三井 雄心内野手(2年)、月山 隼平内野手(2年)、西田 瞬内野手(1年)など1,2年生が成長しチームに活気を与えている。また、昨秋の懸念材料であった正捕手の固定も、そこへ篠塚が座ることで落ち着きが生まれ不安は解消されている。

その浦和学院とベスト8でぶつかる相手として、まずCシード・狭山清陵を挙げたい。見方 駿平捕手(3年)、井上 尚之内野手(3年)、鈴木 弾士郎内野手(3年)など旧チームからのレギュラーも多く、打線は上位下位関係なく長打が出る。投手陣も最速146キロ右腕・八巻 弓真投手(3年)を筆頭に、鎌田 結葦斗投手(3年)や鈴木 大地投手(3年)など旧チームの頃から公式戦登板経験のある投手が多く、前述・見方は捕手としても二塁送球タイム1.78と強肩。今春も県初戦で春日部共栄を破ると、ベスト8で昌平と接戦で敗れはしたが自信は深めたはず。

その狭山清陵と順当に行くとベスト16で当たる可能性が高いのが、狭山ヶ丘埼玉栄の勝者だ。狭山ヶ丘は1年春から登板経験のある最速143キロの長身右腕・加藤 健太投手(3年)が最後の夏を迎える。その狭山ヶ丘と初戦でぶつかるのが埼玉栄だ。今年の埼玉栄は打のチームだ。今春も浦和学院に敗れはしたが、7対11と打ち合いを演じてみせた。投手陣の柱が欲しい。この勝者は最速140キロ右腕・木村 一輝投手(3年)を擁する正智深谷との対決が濃厚。その他、本庄第一やDシード・立教新座本庄東鈴木 百太投手(3年)を擁する深谷商も虎視眈々と上位を伺う。

西武台〜市立川越ブロック

Cシード・西武台、Dシード・山村学園、Bシード・市立川越春日部共栄など強豪校が並ぶ本命なき激戦ブロック。

西武台はプロ注目・金田 幸大内野手(3年)を筆頭に渡邉 楽意外野手(3年)、杉本 誉士外野手(3年)、太田 誉内野手(3年)、神杉 勇波外野手(2年)など、どこからでも長打が飛び出す打力がウリのチーム。投手陣は大山 英一朗投手(3年)と2年生・大竹 悠太投手(2年)の両右腕が軸。ただし、初戦の相手が難敵・武南だけに簡単には行かないであろう。

山村学園は投打のバランスが良く、昨秋は関東大会ベスト8進出。今年は旧チームと違い、どちらかといえば投手力の比重が大きい。例年通り選手層は豊富で2年生左腕・西川 歩投手(2年)を筆頭に川窪 晴貴投手(3年)、中嶋 瑞樹投手(2年)、前田 虎汰郎投手(2年)、青木 孔志投手(2年)、川村 歩夢投手(3年)と左右に枚数が揃っている。これにケガで出遅れていた昨秋のエース・右アンダーハンドの鹿島 駿吾投手(3年)が復活するようだと、今年もマシンガン継投ができるだけの布陣である。

打線も一昨年夏を経験している高野 壮瑠内野手(3年)、今岡 達哉内野手(3年)に田中 大貴外野手(2年)、横手 勇人内野手(3年)、藤原 将輝捕手(2年)、三上 颯太外野手(3年)、山﨑 一真内野手(3年)など、どの打者もツボにくれば一発を秘めている。さらに今春は1年生の巧打者・横田 蒼和内野手(1年)が加わった。

ただし、初戦の相手はあまり相性が良くない川越東が相手だけに楽観視はできない。この試合を制しても続く相手は春日部共栄が濃厚。春日部共栄林 大斗投手(3年)、永井 泰清投手(3年)の両右腕が軸。特に永井は独特のフォームから投じるホップ成分の多い直球が武器なために今大会のキーマンになる可能性がある。打線も小林 夢行外野手(3年)、平尾 拓翔外野手(2年)、伊藤 悠哉捕手(3年)、鳥谷越 大成内野手(3年)らが破壊力を秘めており接戦となるのではなかろうか。

市立川越南 創太外野手(3年)、畠山 敦志外野手(3年)、田島 翔大捕手(3年)など旧チームのメンバーが半数残っており攻撃面は計算できる。問題は投手陣であったが、技巧派左腕・西見 一生投手(3年)と右腕・小田 遥斗投手(3年)が今春成長。西見は一球ごとに投球タイミングを変えるなど工夫した投球をみせ、今春ベスト16で花咲徳栄に勝利した。

順当に行くとベスト16で最速138キロのエース一郎丸 弘輝投手(3年)を擁するDシード・春日部東と当たる。一郎丸は伸びのある直球が武器で、打線も足を絡めつつ盛んにスラップなどで相手を揺さぶる打者が多く、春季2回戦の聖望学園戦で昨秋のリベンジを果たすなど上位進出は可能なチームである。このブロックは他に星野慶應志木にも注意が必要だ。

今大会の特徴一つとして初戦で強豪校が激突することの多いことが挙がる。そのためこれまでに挙がっていない高校が上位進出することも十分考えられる。昌平が当初の目論見通り「完全制覇」で初の甲子園切符をつかむことができるのか。それとも浦和学院花咲徳栄がそれを阻むのか。また、公立高校の復権はあるのか。混戦が予想される埼玉大会がいよいよ開幕する。

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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