法政二vs横浜桜陽
神奈川の古豪・法政二がコールドで開幕戦勝利 春の王者を前に「臆することはない」
法政二3番・井上結聖
<第104回全国高校野球選手権神奈川大会:法政二7-0横浜桜陽>◇9日◇1回戦◇横浜スタジアム
神奈川大会が開幕し、[stadium]横浜スタジアム[/stadium]での開幕戦で、法政二が横浜桜陽を下して勝利を飾った。
昭和の神奈川の高校野球の一時代を築いたことで有名な法政二だが、各打者のスイングを見ていると、鋭くシャープなスイングをしていた。
主将で3番に座った井上結聖外野手(3年)は、「自分のスイングができずに、武器である長打を出すことができなかった」と悔やんでいたが、3打数2安打2打点という結果で勝利に貢献した。
予め足を開いて重心を少し下げた状態からノーステップでタイミングを取り、軸回転で鋭く振りに行くスイングは、名門の主将で中軸を任されるのも頷ける。このフォームは2年生秋の県大会前から固まり始めたが、その前までは足を上げてタイミングをとっていた。
それまで打ちたいフォームでバッティングをしていたが、踏み出した右足で我慢ができずに突っ込んでしまい、持ち前のフルスイングできなかった。結果、長打が飛ばせず、チームへの貢献もできなかった。
特に緩い変化球には突っ込んでいたところがあり、井上は「打ちたいフォームと、打てるフォームは違うんだ」と気づかされ、中学時代に実践していたというノーステップに切り替えることを決めた。
試してながら練習量をこなしていくと次第に課題が改善されて、ノーステップが「打てるフォーム」だということがわかり、横浜桜陽戦でも結果を残すことができた。
勝ったとはいえ、横浜桜陽・小島良太投手(3年)の前に中盤に苦戦を強いられた。「初戦の硬さがあったと思います」と公式戦ならではの雰囲気に苦戦したことを振り返る。本来であれば「逆方向へ単打で繋ぐ」というのが法政二の野球だが、力を発揮できなかったことを反省し、「フライアウトは修正したい」と課題を明確に語った。
次戦は春の優勝校・桐光学園だ。「春は東海大相模、桐蔭学園と対戦しているので、臆することはなく、自分たちの野球をやりたい」と自信はある。横浜スタジアムで開幕戦を戦った経験を糧に、強敵に向かっていく。
試合は初回に法政二5番・安井大翔外野手(3年)が三塁打を放ち、先取点をもぎ取ると、6回にも3番・井上の適時打などで3点を追加。6対0と試合の主導権を握ると、7回にはダメ押しとなる1点を加えて、7対0の7回コールドで横浜桜陽を下した。
[page_break:170センチの小さなエースがハマスタで見せた巧みな投球 11人の下級生に示した3年生の背中]170センチの小さなエースがハマスタで見せた巧みな投球 11人の下級生に示した3年生の背中
横浜桜陽先発・小島良太
横浜桜陽は、ベンチ入り登録14人で、そのうち3年生は3人だけと下級生主体のチーム。まだ若いチームではあるが、エースナンバーを背負った小島良太投手(3年)は最上級生として後輩たちを引っ張る投球を見せた。
立ち上がりこそ3点を失ったが、2回以降5回まではスコアボードに0を並べた。
最速110キロ前半と球速こそ速くない。ただカーブ、チェンジアップ系の緩い変化球を低めに辛抱強く、低めに集める巧みな投球が冴える。
低めに集まっている分、ゴロはもちろんだが、強引に打ってフライアウトが増えた。途中から法政二のベンチから「逆方向に打て」との声も聞こえ、単打で繋ごうとしているのがわかったが、小島の絶妙な投球術の前にホームが遠のいていた。
そのなかでもポイントになったのはスローボールだ。
春の大会で結果を残せなかったことで、危機感を抱いていた小島は自身の投球を見つめ直して、スローボールを使うことを決めた。もちろん、持ち球にあるカーブも視線とタイミングを外すには有効だが、「目線とタイミングを思い切りずらして打ち損じを増やす」ために使うことを決心。
加えて、春の大会を終えてから勉強して引き出しを増やした配球を駆使して、チェンジアップ系の変化球を多投。「チームを勝たせるため」と心に言い聞かせて、我慢強く低めに集め続けたことで打たせて取ることを体現した。
チームの勝利に貢献できずに敗れたことに悔しさがあるものの、小島もこの好投に「昨夏は相洋に2回13失点でしたので、この日は6回まで6失点に凌げたのは良かった」と成長したことに満足をしていた。
新型コロナウイルスで3年間は思い切りできたわけではない。また横浜桜陽は3年生が3人だけで、残りのベンチ登録人数11人は下級生と引っ張ることも苦労があった。それでも「色々ありましたが、3人でやってこれて楽しかったです」と高校野球生活に後悔はないようだった。
「スタンドの人に応援してもらうような雰囲気を作りたい」ということで、毎回全力疾走で爽やかにベンチに戻ってきた。170センチの小さい背中を見た後輩たちが、何を学んで新チームに繋げるのか。横浜桜陽の次の戦いは、もう始まっている。
(取材=田中 裕毅)