都立雪谷vs都立足立西

整列する両校の選手たち

　新年度の始まりとともに、春季東京都大会はスタートする。

　3月初めに組み合わせが決まった時から、足立西がブロック予選を勝ち上がれば、珍しい双子の兄弟監督対決が実現するのではないかということで、関係者の間では注目されていた。足立西が代表決定戦で順天を下して本大会進出を果たしたことで、芝兄弟監督の対決が実現した。

　戸籍上は雪谷の芝浩晃監督が兄で、足立西の芝英晃監督が弟である。ともに江戸川→順天堂大で、兄は富士～桐ケ丘～江戸川を経て雪谷で今年5年目を迎える。弟は新任が小山台でその後は荒川商～江戸川定時制～九段中等を経て兄と同時期に足立西に異動となった。この2人は、もちろん練習試合では、これまでも何度か実施しているが、公式戦での対決は初めてだという。

　兄浩晃監督は「何か不思議な感じというか、変な感じでしたけれども、生徒たちは面白がっていたんじゃないでしょうか」と苦笑。弟英晃監督は「兄弟対決は、それはそれで楽しいですけれども、春だからよかったです。負けても続きがありますから…。でも、夏だと、正直当たりたくないですね」と漏らしていた。そして、お互いに「どちらもが(母校の)江戸高でなくてよかった」と、お互いがニュートラルな立場での公式戦となったことを歓迎していた。

　試合は、いい雰囲気のものだった。それぞれのチームが、お互いに公立校として真面目に一生懸命、部活動として野球に励み親しんできている。そんな思いがはじけて、それぞれのプレーにも十分に出ていた。キビキビとして清々しい戦いともいえるものだった。お互いに手の内もよく知っているだろうが、妙な駆け引きもなく、自分たちの野球を貫いて行っていたという姿勢もよかった。そんな両チームを春の穏やかに陽光と外野後方の桜が温かく包んでいた。

　春季大会としては、とても心地のいい気分を味合わせてくれた試合だったと言っていいのではないか。少なくとも私はそう感じた。

　雪谷の目指す野球は、「多少の失敗は恐れることなく、自分たちの判断と考えでサインに頼らない自主的な野球」である。そうした意識で挑んだこの日の試合では、5回盗塁を試みて4度刺された。しかし、その失敗を責めるのではなく、「どうしたらセーフになれたのか」ということを考えることである。それを芝浩晃監督は求めている。

　これに対して、4度雪谷の盗塁を刺した足立西の管野捕手は肩がとてつもなく強いというものではないが、正確な送球が功を奏した。また、投手のクイックと遊撃手加藤拓也君のタッチプレー動作の素早さも光った。足立西の芝英晃監督は「管野の神懸かり的な送球もあったのですが、盗塁阻止は共同作業のアウトですから」と、プレーの流れの良さを評価していた。

終始落ち着いた投球で1失点完投した大澤君

　この試合、「2～3点のロースコアゲームになると予想していた」という雪谷の浩晃監督。一方、足立西の英晃監督は「このところ打線も好調だったので、ある程度は打ち合う展開になっていって、6～7点くらいの戦いになるのではないかと思っていた」と、その思惑は異なっていた。そして、結果的には思惑に近かった雪谷の勝利となった。

　雪谷は2回、死球の松下君が捕逸で進むと、6番青山君の右前打で帰って先制。さらに3回にも四球の石田君を二塁に置いてセンスのいい2番横尾君が右中間へ三塁打して2点目。

　追いかけたい足立西は5回、失策の走者を二塁に置いてもっともシュアだという加藤拓也君が左前打で帰して1点差とする。しかし、その後は雪谷の大澤君に抑えられて1点止まりとなってしまった。大澤君は身体は大きくはないが、大きく割れる縦のカーブの使い方が上手く、巧みに相手打線の打ち気を外していった。

　そして雪谷は6回、3番日沼君が中前打すると、4度目のトライで始めて盗塁を成功させ、さらに右飛で三塁へ進む。一死三塁となったところで、青山君が右犠飛で帰して貴重な追加点となった。大澤君は7、8、9回を足立西打線に安打を許すことなく抑えてそのまま逃げ切った。

　両校は、新チームとなって8月と3月に練習試合を組んでいる。その時はいずれも足立西が勝利したという。それだけに、英晃監督は「公式戦で勝てなくては、結局、どうしようもないですからね。もちろん、選手たちも自信を持って挑んだとは思いますが…」と、悔しがった。そして、「この後は雪谷に勝ち上がって欲しいですよ」とエールを送った。

　雪谷は、この4月から元阪神→日本ハム→巨人で投手として活躍した伊達昌司コーチが府中西から異動となった。芝浩晃監督とは江戸川時代に続いて2度目のタッグを組むことになる。今後の、雪谷の活躍がさらに気になるところでもある。

（取材＝手束仁）