試合レポート

牧野vs関西大倉

2015.09.19

辻本キャプテン率いる牧野がつかんだ奇跡の勝利

夏の大会後、2年生でただ一人部に留まったキャプテンの辻本 淳之介(牧野)

 関西大倉を6対4で破った瞬間、牧野スタンドの保護者は涙ぐみ、キャプテンの辻本 淳之介(2年)は溢れる気持ちを抑え切れずに肩を震わせていた。涙の理由は、公式戦での勝利は2013年の秋以来で2年生にとっては入学後初勝利だったから、だけでなくほんの1ヶ月前のことを考えれば公式戦に出場出来たこと自体が奇跡に近かった。

 夏の大会が終わった直後、旧チームからレギュラーだった宮木 亨(2年)を含む4人の2年生が部を離れた。3学年を合わせて26人だった牧野は3年生の引退と4人の離脱で部員数はわずか5人に。部に残った2年生は辻本ただ一人だった。その人数では当然実戦に即した練習は行えず、寝屋川と合同練習をするなどはしていたが、基本的にはグラウンドの角でこじんまりとした活動を続けていた。

「帰るつもりは無いから」部を離れる際、4人は辻本にそう伝えていた。それでも完全に心が離れたわけではなく各自体を動かしたり、LINEでチーム状態やバッティングの調子を尋ねるなど気にかけていた。
磯岡裕監督は本気で連合チームでの出場も考えたが、4人が復帰する見込みがあることを知り、また残った部員やマネージャーの希望も単独チームでの公式戦出場だったため牧野として挑むことを決めた。

 4人がチームに戻ったのは9月5、6日に行われた文化祭後、このタイミングでさらに1年生が1人加わり部員数は10人となった。7月12日にに敗れてから約2ヶ月後、ようやく新チームでのスタートを切った。おそらく全国でも最も遅い始動となったチームは大会2週間前に初めて練習試合を行い、先週の練習試合で初勝利。ギリギリのところでチームとしての体裁を整え公式戦に臨んだ。

 2年ぶりの勝利を目指す牧野は3回、エラーで出塁した下部 優作(1年)を一塁に置いて中山 陽太(1年)が左中間へタイムリーツーベースを放ち1点を先制。4回に同点とされるが5回に宮木がヒットで出塁し二塁に進むと、2つのバッテリーミスで勝ち越しの生還。この後、二死満塁とチャンスを作ると7番・奥田 瑞生(1年)のセンター前タイムリーと8番・谷口 翔哉(1年)の押し出し四球でさらに2点を追加。投打にセンスの光る宮木が4回を1失点に抑えると5回はアンダースローの青木 聡汰(1年)がカウントを悪くしながらも3人で抑え3点リードして試合を折り返す。


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2015年秋季大会

一度は部を離れた宮木 亨(牧野)

 関西大倉にとっては普段とは違うことの連続だった。新チームの練習試合の成績をダブルヘッダーの1試合目だけ、つまりフルメンバー同士の試合だけに限れば9勝3敗と好成績を残し、部員数も牧野の10人に対し43人。前評判では有利ながら序盤は三振ゲッツーや送りバント成功後に離塁が大き過ぎたために刺される痛恨の走塁ミスでチャンスを潰す。
クリーンアップを打つ力のある正遊撃手・白井 浩一郎(2年)が体育の授業中に足をねんざし、代わってスタメン出場した1年生のエラーから先制点を奪われ、続けざまのバッテリーミスで勝ち越し点を献上。上宮報徳学園という強豪私立相手に好投した戸川 大雅(2年)は球威で押し込む場面が少なく、前半だけで4失点。終盤に先発・戸川と捕手の野崎 裕一郎(2年)のバッテリーを入れ替える采配を見せた亀山 誠監督が舌を巻いたのは牧野の継投策だった。

 5回裏からマウンドに上がった青木がアンダースローで投げ始めたのは夏休みの始め頃。人数が少ないため全員が投手の練習をしていた時、遊び半分で下から投げてみると思った以上に良い球が行き磯岡監督の目に留まった。投手経験は小学校や中学校の時に少しやったことがある程度でもちろんアンダースローは初めて。変化球はスライダーのみと球種は少ないが打者の打ち気を逸らす投法に加えて、時にはクイックで投げるなど器用さを持つ。

 6回に一死から2つの四球でランナーをためると宮木が再びマウンドへ。送りバントで二死二、三塁となると関西大倉の5番・角 勇仁(2年)の放ったライナー性の打球がレフト線を襲う。しかし、普通なら1点差に迫る2点タイムリーツーベースとなるような打球をサード・辻本の指示であらかじめライン際に寄っていたレフト・青木が難なくキャッチ。抜群のポジショニングでピンチを切り抜けた。

 7回には再び青木がマウンドへ。しかし先頭打者から連打を浴びると三度、宮木がマウンドへ。アウトカウントに関係なく一、二塁になったら宮木と交代する、これがチームの決め事だった。レフトの青木が登板する度に宮木はセカンドへ、セカンドの下部はファーストへ、ファーストの奥田はレフトへ。青木がピンチを招き宮木がマウンドに戻る際にはこの逆回しを繰り返した。アンダースローからオーバースローへ、真逆の腕の位置からの投球にタイミングを惑わされた関西大倉打線は終盤に3点を奪ったものの何度もチャンスを作りながらもう一押し足りず。

 牧野のマウンドには5回から8回まで青木が上がっていたが最終回だけは8回にリリーフした宮木がそのままマウンドへ。エースがきっちり3人で締め2点差で逃げ切りに成功した。

「信じられない。頑張ってきて良かったな」試合後、長く孤独な夏を過ごした辻本は短い言葉に実感を込めた。
「次の試合もやることは一緒。気を抜かずに全力でやれることをやっていく」実りの季節へ。牧野の秋はまだまだ続く。

(文=小中 翔太


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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