球界を代表するリーダーシップを発揮し続けた嶋基宏 捕手歴わずか4年でプロ入りした名捕手がやってきた信頼される会話と捕球技術
2017年以来となるワールドベースボールクラシック(WBC)で、世界中の野球ファンが連日熱狂した。日本は史上最高と称されるメンバーが集結したこと、これまでの大会以上に注目されることになった。
そんな侍ジャパンに2017年のWBCで招集されていたのが、今回特集する嶋基宏氏だ。当時はコンディション不良で大会直前で出場辞退したものの、監督だった小久保裕紀氏からは精神的支柱としても期待された。
2022年で現役を退き、2023年からはバッテリーコーチ兼作戦補佐となる嶋氏が、現役16年間で培ってきた経験を語ってもらった。
コミュニケーションが信頼される捕手への第一歩

嶋基宏
楽天、ヤクルトと2球団で数多くの投手を受けてきた嶋氏。だからこそなのか、「(捕手は)難しいポジション」と苦労も多いと話すが、続けて「その分やりがいがあります」と大変なことが多いからこそ、面白さが詰まっているようだ。
特に「ヒーローインタビューでピッチャーが『完封できたのは捕手のおかげです』と言ってくれるのは嬉しい」と相棒からの称賛の声が、何よりもエネルギーになっているが、投手から信頼を勝ち取ることができなければ、褒めの一言どころか試合にも出られない。
嶋氏はまずコミュニケーションを取るところから、投手との距離を縮めていく。
「投手との共同作業で相手打者を抑えるので、少しでも同じ時間を過ごして、いろんな話をしますね。捕手は色んなことを観察して気づくことが大事だと思うので、投手に限らず、アンテナを張ることは大事にしています」
投手とコミュニケーションを取るところから、常に気配りをして動いている。「調子いいと聞く耳を持たないけど、悩んでいると意見を聞く」と毎日投手の様子を見て、タイミングを見計らって、相棒のサポートをしているという。
ちょっとしたところだが、投手のことを思って地道な行動を続けるから、嶋氏は人望を集め、現役時代は5度の選手会長を務めるなど信頼されるポジションを任される球界屈指の捕手になったに違いない。
信頼される捕球は膝に肘を乗せること

嶋基宏
投手からの信頼を勝ち取るためには、技術力も当然必要だ。嶋氏といえば、國學院大進学後から捕手にコンバートされた経歴で、中京大中京時代(愛知)は内野手だった。3年生の時にセンバツに出場しており、当時は二塁手で出場した記録がある。
アマチュアでの捕手歴は大学でのわずか4年で、NPBの世界で試行錯誤を繰り返して球界屈指の名捕手になった。技術力について話を聞いても確かな裏付けがあったが、最も大事にするのは構え方だった。
「ワンバウンドを止めないといけないので、特にランナーがいる時はどこに来ても動けるようにしなければいけません。かつ投手にとって投げやすい構え方をしてあげないといけません。ただ投手によって好みは様々ですので、コミュニケーションを取って理解しないといけないと思うんです」
構え方はキャッチングにも繋がってくる。
「僕の場合は構えた時に、肘が膝の上に乗るくらいの距離で、ミットを構えます。腕を伸ばした分だけ、捕球した時に球の威力でブレてしまいます。身体から離れた場所で捕球して良い捕手はいませんので、近くで捕れた方がいいです」
とはいえ「(膝に置いても)捕りに行って伸ばしてしまうので、人それぞれですけどね」と球界屈指の名捕手でも捕球の難しさがあり、あくまで自分の構え方を探すことが大事であると主張したが、「最初から肘を伸ばしていたら、捕るときも伸びてブレます」と重ねて捕手にとっては基本とも呼べる技術の重要性を説いた。
だから、近年流行になっているフレーミング技術に対しては「投手が乗ってくるなら良いと思います」と話すものの、一定以上の捕球技術の基本の必要性を話す。
「ミットの芯で捕球できないのに、フレーミングばかりやっても成長しないと思います。だから、最初はミットの芯で捕球すること。その次にピタリと止める技術があって、その先にフレーミングだと思うんです。その順番を間違えてはいけませんし、キャッチボールからしっかり意識して取り組むことですよね」
そんな嶋氏のミットは、ミズノから2022年より本格発売となったキャッチャーミット専用・號シリーズの型を使用している。3つのパターンに分けて作られたシリーズで、嶋氏はオーソドックスで安心感があり、どんなプレーも安定させたい選手向きの型。捕手として、まだどんなプレーに重きをおきたいか決まっていない場合でも扱いやすい、サイズもポケットも中間のM-R型(Middle & Regular型)だ。
「僕のミットはみんなが使いやすいものだと思います」と実際に使っている本人も、誰でも使いやすい型だと感じているものの、「使うときは浅めに入れて遊びを作ることで、ゆとりをもっています」と使い方に強いこだわりがあった。
「捕りやすいものを選んでほしい」と球児へミット選びのアドバイスを送ったところからも、捕りやすさと使いやすさが両立したミットが理想であり、號シリーズはベストに近いのだろう。
2023年シーズンからは選手ではなく、指導者として迎える。第二の野球人生が幕を開けることになるが、最後に捕手をやる球児たちへメッセージをもらった。
「夏は暑いですし、ファウルチップは当たれば痛いですし、捕手は苦労が多いです。光が浴びにくいポジションですが、捕手だけがわかる喜び、嬉しさが増えれば楽しくなると思います。大変ですが、強い気持ちを持ってコツコツ頑張ってほしいです」
コーチとなった球界を代表する名捕手は、次世代の名捕手の育成のために、今日も信頼される基本技術を伝え続けていく。
(取材:田中 裕毅)