これまでなかったスパイクに驚きの反応

細やかな指導のうえに、走力のあるチームカラーが築かれている江東ライオンズ。体への意識を高く持っているため、スパイクについても注意を払っていると思ったが、そうではなかった。しかし、現場のことをよく知る加藤さんにとってそれは、驚くことではなかった。

――スパイクについては何か気を付けていることはあるのでしょうか。
田本:走塁を大切にしており、スピードにも関わるので、軽さは気を付けていると思います。ですが、その上でさらにこだわっている選手は、それほどいないと思います。
ただ野球は地面を蹴る、踏ん張る、切り返すといった足底を使うスポーツなので、私は現役時代から意識していますが、とにかく選手たちには自身の足に合ったスパイクを履いて、裸足のように使ってほしいですよね。

加藤:江東ライオンズに限らず、選手たちがスパイクに対して意識が低いのは、他のところでも同じです。なので、目を向けようとしている田本監督、江東ライオンズの姿勢はスパイクの開発者としてうれしいです。

――開発者として、やはりケガに対する意識は物足りないと感じる部分はありますか。
加藤:どうしても軽いように感じます。肩や肘のケガは大きく取り上げられますが、実は下半身のケガも少なくないです。それで結果的に練習ができずに、棒に振る時期が長引くケースが多いです。
だからプロの選手たちになると、バットやグラブ同等かそれ以上に重要視されている方も多く。足元への意識、ケガへの意識はすごく強いように感じます。そのあたりは全然違いますね。

田本:結局、ケガをしていたら練習を止めないといけないですし、経験が積めない。感覚も鈍ってしまいますよね。それで一冬越えても、思ったような成長をできないチーム。巻き返そうとしてケガを再発させたり、夏にピークを持ってこられずに苦しんでいるチームはいっぱいいます。

――プロ選手たちの言葉で、学生たちにも意識してほしい、という言葉はありましたか。
加藤:スパイクの選び方について、自分の足のサイズの合っていないものを選んでしまうプレーヤーが多いのですが、阪神・近本(光司)選手は「足に合っていないと、スパイクの機能を発揮できない」という話はされていました。高いレベルのパフォーマンスを発揮する点で考えても、選手たちには参考になると思います。

田本:おっしゃるとおりですね。全然違うと思います。

――スパイクのトレンドや開発は足への負担軽減を意識しているところもありますか。
加藤:スパイクは選手たちの能力を伸ばすことが重要なので、市場も軽量化が年々注目されており、ずっとトレンドだと思います。弊社ももちろんより能力を発揮できるようなスパイクを開発していますが、中足部のアーチ部を支えるなど足へのサポートも重要視しております。そういった考えがあるなかで今回のネオコネクトの開発につながりました。

――ネオコネクトは、どうして開発されたのでしょうか。
加藤:野球のケガのなかでも下半身も多いですし、練習時間が長い。実際、甲子園で足をつってしまう選手が何人か出ています。そういった選手たちをケアする意味でも、近本さんが話していましたが、「ある程度、出力を抑えられる。コントロールできる」スパイクで、長く野球をやってほしいと思って開発を始めました。

――野球界にはあまりなかった一足だと思いますが、どんな特徴があるのでしょうか。
加藤:かかと部分が樹脂スタッドになっているのは見た目でも大きな特徴です。金具歯は地面にしっかりと刺さるため地面を蹴る力が必要になります。一方で樹脂スタッドは、地面に刺さり過ぎないため蹴る時のパワーロスが抑えられる。そのバランスをとって、必要なところに、必要な機能を備えた一足です。

田本:いや、ユニークですね。足裏見て気が付きましたが、金具歯4つだけなんですね。現役時代は最大で8つあったと思いますし、それを使ったことがあったので「半分じゃん」っていうところでユニークだと思いました。でも必要なところに金具歯を必ず搭載して、それ以外は樹脂スタッドで保護されているので、先ほどの話は納得できます。

――樹脂スタッドが地面に刺さりすぎないことで、パフォーマンスにどう影響すると思いますか。
田本:金具とそれほど変わらないと思います。私が現役時代のころは、硬い人工芝のグラウンドがあって、アップシューズで守ることもありました。それを考えれば足への負担もかからないし、どのグラウンドでもマルチに対応できるんじゃないかと感じます。最終的にトータルで足への負担軽減に繋がるような気がしています。

加藤:実は樹脂スタッドならではの工夫を少ししています。金具歯は刺さる、一方で樹脂スタッドは刺さり過ぎないので、グラウンドの状況に関係なく一定のバランスで前傾姿勢で立てるようにしています。

田本:パワーポジションのつくり方とか、つま先重視で走る前傾姿勢を作ることは教えていて意識させています。これから走り方や体づくりは変わってくるはずなので、道具もアップデートしてフォローしてほしいと思っていましたけど、もうそういったところまで開発されているなんて凄いと思います。

田本監督が話したように、技術力向上のために、フィジカル強化はどんどん発達してくるだろう。そうなると、道具も対応しなければいけない。2024年から導入された新基準バットもそうだ。打球速度が速くて投手が危険といったことで導入されている。

スパイクも、暑さ対策の一環で白スパイクが解禁されたがこれは見た目の変更にすぎない。 しかし、今後機能面でも変化が起こる可能性がある。アシックスが開発したネオコネクトは、その狼煙かもしれない。

その答えはまだわからないが、ケガなく充実した野球人生を送るために、ネオコネクトを選んでみてはどうだろうか。

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田本剛監督:江東ライオンズ監督。自身も江東ライオンズ出身者で、当時同級生は元阪神・荒木郁也さんがいる。10年間のコーチを経て、2021年より監督就任。教え子にはソフトバンク・佐藤航太投手らがいる。

加藤祐也:アシックスでシューズの開発を担当。2025年2月から発売された新作スパイク・NEOCONNECT(ネオコネクト)の開発に携わる。