速さだけではない…仙台育英の令和的投手管理術【中編】
今年はエース・伊藤 樹、主砲・吉野 蓮などタレントを擁して宮城県大会9連覇。そして東北大会も連覇達成。OBには佐藤 由規、上林 誠知、郡司 裕也など数多くのプロ野球選手を輩出。高校野球に携わる人間であれば全員が知っている名門・仙台育英。
須江航監督が2018年1月に着任して今年で4年目。「過去3年間からアップデートしているので、濃い内容ができています」と十分な手ごたえを現在のチームに対して感じている。
前回は今年のチームの始まりから、野手に求める要素に迫った。今回は投手に焦点を当てながら、仙台育英の強さをさらに深堀りしたい。
前編はこちらから!
・好投手、好打者、強打者揃いの仙台育英。真のウリは?【前編】
一週間300球の球数制限
伊藤 樹(仙台育英)
現代では継投策がスタンダードとなったが、19年夏甲子園でベスト8に勝ち進んだ時の仙台育英は、複数の投手を使って勝ち進んだ。
須江監督は継投策は有効な戦略だと考えている。
「短いイニングで強いボールを投げられるので、抑えやすいです」
毎年、好投手が多い仙台育英だが、投手たちにはどんなことを求めているのだろうか。
「まずは球速ですね。回転軸や回転数ももちろん大事です。それらも計測はするんですが、球速はわかりやすい数字ですし、やっぱり速いボールは打ちにくいので」
そのうえで大事になる次なる要素が、ストライク率と被打率の2つだ。
「まずストライクゾーンで勝負できるかと言うことですよね。たとえボールが遅くてもゾーンで勝負できるなら評価できます。逆にボールが速くてもゾーンで勝負できないとテンポが悪いので、評価は良くないです」
被打率に関しては、投手起用のタイミング、適正を見極めるファクターとなっている。ランナーを背負った状況で、どれだけランナーを進めてしまったのか。被進塁率と呼ばれる要素も見ながら、どの投手をベンチにいれて、どのタイミングで登板させるのか。投手それぞれの適性を見極めるようにしている。
そのうえで投手陣のローテーションを毎週組み、投げる日を決めて1週間は300球という制限を設ける。決められた制限の中で投手陣は日々レベルアップを図っている。この取り組みをどう感じているのか。
「課題を克服するためのメニューを組んだり、仲間と感覚を共有する時間があるので、良い競争をしながら練習できると思います。球数も制限があるから計画的に投げられますし、自分では制限をかけにくいのでありがたいです」(伊藤樹)
[page_break:試合オーダーは一週間前に発表]試合オーダーは一週間前に発表
伊藤 樹(仙台育英)
野手、そして投手ともに数字を出すなど明確過ぎるくらい選手たちに基準を提示している。それは試合でも同じことが言える。須江監督は遅くても練習試合であれば1、2週間前にはオーダーを発表するのだ。
「大会だったら、組み合わせが決まったら何点ゲームになるか予想したうえでオーダーを決めます。けが人が出た場合の交代も考えて、そこから投手陣のローテーションや継投まで決定して大会前に伝えます。
練習試合であれば投手は必ず2週間くらい前には伝えます。野手は怪我などいつ何が起こるかわからないので、少し違いますが」
実は須江監督は選手たちに対して一定数の出場機会を与えられるように起用している。それは公式戦や練習試合、紅白戦含めてとなるが、全員に常にチャンスを与えられるようにしている。そうすることで試合を通じてどのようなパフォーマンスを見せるのか。出場機会も平等にすることで、均等に選手を見極めている。
ただ多くのチームがオーダーを試合前に伝えることが多い中で、須江監督はどうしてそういった取り組みをするのだろうか。
「選手は試合で結果を残したいのに、登板日を知らずに投げ込み過ぎると、いざ試合で投げる投手はつらいですよね。プロだって中5日と6日では全然違いますよね。だから事前に伝えてあげることで、きっちりと準備して計画立てて練習してもらえる環境を整えています」
ここまで選手ファーストに具体的かつ詳細に計画性をもってチームを運営する。前例にないようなチーム作りがされている仙台育英。だが、こうした取り組みの目的は何なのか。その真意を須江監督はこのように語る。
「高校時代、どうやったらベンチ入り出来るか考えて練習をしていたんです。そういった経験もありますが、こちらから提示してあげないと、間違った方向に努力をしてしまうと思うんです。
『努力は嘘をつかない』という言葉はありますが、正しい努力をしないと嘘をつかれます。だから計画を立てて実行することが必要です。なので、明確な目標が大切なんです」
だから、仙台育英では『日本一からの招待』という言葉を掲げたうえで、計画を立てていく。そこで出た答えが日本一の競争であり、誰にでもチャンスがあることをわかってもらうために数字を出すことで、それぞれで現在地を理解させて練習を充実させるのだ。
そのおかげもあり、「疑うことのない基準があるので、素晴らしい練習ができています」と効果を実感している。
(取材=田中 裕毅)
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