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甲子園優勝投手・今井達也は攻めの姿勢を貫くことができるか?

2017.03.26

 今井達也作新学院→西武1位)は2016年夏の甲子園大会に彗星のように現れた。栃木大会でもチームトップの4試合(21回3分の2)に登板しているが、入江大生関連記事が3試合(10回3分の1)、宇賀神陸玖が3試合(9回3分の2)投げているので、絶対的エースとは言えない。それが夏の甲子園大会はほぼ1人で投げ抜き、防御率1.10に抑えている。

今井の持ち味がいかんなく発揮された昨夏の甲子園

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作新学院時代の今井 達也

 甲子園大会初戦、2回戦の尽誠学園戦ではストレートが最速151キロを計測し、変化球は130キロ台後半のカットボールのキレが素晴らしく、ストレートは高めのボール球を打者に振らせる手元での伸びがあった。3回戦花咲徳栄戦は4回以降、リリーフ登板した左腕・高橋昂也(広島2位)関連記事との投げ合いになり、ストレートは高橋が最速146キロ、今井が152キロというハイレベルな戦いになった。高橋の縦変化に対して今井も王道のストレート、カットボールに114、5キロのカーブ、120キロ台前半のチェンジアップなど縦変化を交えたピッチングを展開、2失点で完投勝ちした。

 準々決勝木更津総合戦も好左腕、早川隆久関連記事との投手戦になった。作新学院が早川の立ち上がりを攻め、1回は入江がソロ、3回は山ノ井隆雅が2ランホームランを放ち、これで勝負は決した。今井のピッチングで驚くのは180センチ、72キロの細身に似合わない後半の馬力の強さで、110球を越えた9回裏に150キロ台を連発、最速152キロも120球目に計測した。

 中1日空いた準決勝明徳義塾戦では、作新学院打線が火を噴いて5回を終わって9対2と大量リードしたこともありこの回限りで降板、大会に入って初めて他の投手にマウンドを譲った。決勝北海戦は4回までは投げ急ぎが目立ち、本来の下半身がリードして上半身を前に出していくフォームが見られなかった。それが5回以降は本来の形を取り戻し、ストレートのスピードもぐんぐん速さを増していった。130キロ台中盤のチェンジアップとカットボールをセットにした左右の揺さぶりも見事で、奪三振は4回までの2個に対して5回以降は7個を数えた。その結果球はストレート3球、カットボール4個で、今井の持ち味が遺憾なく発揮された内容と言っていい。

 大会後には高校日本代表に文句なく選出され、大学日本代表との壮行試合では8回からリリーフに立ち、2回を1安打、5三振に収めて無失点。5三振の中には京田陽太日本大→中日2位)関連記事から奪った1個も含まれている。

[page_break:今井がプロで活躍するには??]

今井がプロで活躍するには??

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今井 達也(埼玉西武ライオンズ)

 この今井がプロでどれくらいやれるのか、というのがここからの話だ。プロに入ったばかりの投手が苦労するのがコントロール。高校野球のストライクゾーンはプロにくらべてかなり狭い。ボール1個、というより、主審によっては2個分くらい差があるように思う。コントロールを気にするあまりスピードに価値を見出さなくなり、多くの投手がアマチュア時代より5、6キロスピードを落とす。今井も夏の甲子園大会の与四死球率が3.73と高いが、ここで注目したいのが4つの死球である。「四球率」だけなら2.63と低いのが、死球が加わって「与四死球率」が3.73に跳ね上がっている。

 今井の死球は攻めの姿勢の意思表示でもある。花咲徳栄戦は4番西川愛也(二死一、三塁で内角カットボール)と1番千丸剛(150キロのストレート)、木更津総合戦は5番細田悠貴(二死二塁で144キロのストレート)、明徳義塾戦は3番西浦颯大(2番にホームランを打たれた直後の変化球がワンバウンドになって当たる)でわかるように上位打線にぶつけている。それだけでも攻める姿勢は伝わってくる。そして、死球が多いというのはある程度コントロールが備わっている証である。4死球のうちコントロールミスと言えるのは西浦への1球だけ。今井がプロでもやれると思う最大の理由が、この中心選手への死球の多さである。

 ボールの質は文句ない。ストレートは打者の手元でホップするような伸びがあり、球速は最速152キロと超高校級。変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップに、右打者の内角低めに小さく沈むツーシームを備え、それらをコントロールする技術もある。始動から投げた球がキャッチャーミットに到達するまでの投球タイムは2.1~2.2秒台で、これは下半身主体のピッチングができていることを意味している。一塁に走者を置いたときのクイックタイムは1.0秒台でプロの一線級クラス。一塁けん制の動きも早い。ディフェンス面で自滅する要素が少なく、プロ基準で見てもある程度の完成度を有しているのが強みと言える。

夏の甲子園大会
尽誠学園(2回戦):9回、5安打、13三振、2四球、0自責 ※完封
花咲徳栄(3回戦):9回、6安打、10三振、2四球、2死球、2自責
木更津総合(準々決勝):9回、6安打、9三振、3四球、1死球、1自責
明徳義塾(準決勝):5回、5安打、3三振、3四球、1死球、1自責
北海(決勝):9回、7安打、9三振、3四球、1自責
※合計:41回、29安打、44三振、13死球、4死球、防御率1.10

◇侍ジャパン壮行試合
大学日本代表:2回、1安打、5三振、0四死球、0自責、防御率0.00

U‐18アジア選手権
台湾(オープニングラウンド):4.1回、6安打、3三振、2四球、1死球、0自責
台湾(決勝):5回、1安打、3三振、3四球、0自責
※合計:9.1回、7安打、6三振、5死球、1死球、防御率0.00

(文=小関 順二

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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