第87回選抜高校野球大会の選考を振り返る【東海、北信越、近畿 編】
東海、北信越、近畿地区 出場校一覧
選抜大会 | (参考)選手権大会 | ||||||
地区 | 区分 | 高校名 | 都道府県 | 出場回数 | 過去の戦績 | 出場回数 | 過去の戦績 |
北信越 (2枠) |
私立 | 敦賀気比 | 福井 | 2年ぶり6回目(夏春連続) | 7勝5敗(最高ベスト4) | 6 | 11勝6敗(最高ベスト4) |
私立 | 松商学園 | 長野 | 24年ぶり16回目 | 13勝15敗(準優勝1) | 35 | 25勝34敗(優勝1準優勝2) | |
東海 (2枠) |
県立 | 静岡 | 静岡 | 16年ぶり15回目(夏春連続) | 7勝14敗 | 23 | 22勝22敗(優勝1準優勝2) |
県立 | 県岐阜商 | 岐阜 | 2年ぶり28回目 | 46勝24敗1分(優勝3準優勝3) | 28 | 39勝27敗(優勝1準優勝3) | |
近畿 (6枠) |
私立 | 天理 | 奈良 | 3年ぶり23回目 | 26勝21敗(優勝1) | 26 | 45勝24敗(優勝2) |
私立 | 立命館宇治 | 京都 | 5年ぶり3回目 | 0勝2敗 | 2 | 0勝2敗 | |
私立 | 龍谷大平安 | 京都 | 3年連続39回目(3季連続) | 29勝17敗(優勝2) | 33 | 59勝30敗(優勝3準優勝4) | |
私立 | 大阪桐蔭 | 大阪 | 2年ぶり7回目(夏春連続) | 12勝5敗(優勝1) | 8 | 29勝4敗(優勝4) | |
私立 | 奈良大附 | 奈良 | 初出場 | – | – | – | |
私立 | 近江 | 滋賀 | 3年ぶり4回目(夏春連続) | 3勝3敗 | 11 | 9勝11敗(準優勝1) |
東海地区の選考状況 枠2・候補校11
東海・北信越・九州地区小委員会の出席選考委員14名(片岡成夫委員長)
安本竜二(静岡)
まず片岡委員長が大会全体を総括した。「愛知県勢が初戦で全て敗退という波乱。好投手、強打者が存在感を見せつけてくれた大会だった」。
出場枠は2。ベスト4の2校が決勝進出校を上回る材料がなく、例年通り優勝校と準優勝校が順当に選出された。
優勝した静岡は、昨夏の甲子園経験者6人が残り県大会から評判通りの強打を見せつけた。東海大会では全試合二桁安打で、大会全体の10本塁打中7本が静岡打線の放ったものだった。内山竣、堀内謙伍、主将・安本竜二のクリーンアップの力強さと、リードオフマン・7757をはじめとした足を使った多彩な攻めも見事だったと文句なしの評価を得た。投手陣は1年生右腕の村木が軸。182センチから直球、カーブ、スライダーなどをコントロール投げ分け、3試合全てに先発。ただ決勝では4回を3失点で降板となり、スタミナ面が少し不安材料と課題も挙げられ、春以降は「リリーフ投手の成長に期待」とコメントも付け加えられた。
県立岐阜商は大会注目度NO.1の高橋純平投手を擁し、僅差のゲームを確実にモノにして準優勝を果たした。主将でもある高橋は、最速152キロの直球を主体にフォークとスローカーブを交えたピッチングで準決勝までの3試合を完投。1失点で34奪三振と圧巻の内容だった。決勝では連戦の疲れもあって5回1失点で降板し、リリーフの2投手が打たれての逆転負けだった。片岡委員長は高橋に対しても、「150キロ台の直球を武器にして一段とスタミナ強化を含めた成長を期待します」とメッセージを送った。
北信越地区 枠2・候補校16
東海・北信越・九州地区小委員会の出席選考委員14名(片岡成夫委員長)
平沼翔太(敦賀気比)
片岡委員長はまず、「昨夏の選手権大会において、地区代表5校すべてが初戦突破しベスト4に2校が進出。北信越地区のレベルが上がっていることを強く感じている」と印象を話した。
北信越地区も出場枠は2で、東海地区と同じくベスト4の2校が決勝進出校を上回る材料がなく、例年通り優勝校と準優勝校が順当に選出された。
優勝したのは敦賀気比。「終わってみれば強さばかりが目立った大会だった」と他校を大きく上回るインパクトだったことが強調された。準決勝まで3試合連続コールド勝ち、決勝も6対0と圧倒的な強さで勝利した。昨夏甲子園ベスト4の原動力として活躍したエース・平沼翔太が健在で、北信越大会では全試合に登板。カーブ、スライダー、チェンジアップを有効に投げ分けて4試合2失点と好投した。打線もチーム打率4割2分7厘で、1試合平均8得点と強打を見せつけた。守備もサードの篠原涼主将をはじめ。内外野ともに堅守だった。
準優勝の松商学園は絶対的な柱こそいないもの、全員野球で粘り強い。さらに好守のバランスが良く、4試合中3試合が1点差勝ちと競り合いでの強さを発揮した。特に準々決勝の石川金沢戦で、9回に3点差を逆転してサヨナラ勝ちをしたのは見事だったという声が多かった。タイプが違う3投手の継投で勝ち上がり準優勝を果たした。だが1試合平均6失点を喫した部分が投手陣の課題だという意見もあった。
<コラムに登場した学校の野球部訪問を紹介!>
第158回 敦賀気比高等学校(福井)
近畿地区 枠6・候補校17
東北・近畿地区小委員会の出席選考委員13名(杉中豊委員長)
舩曳海(天理)
杉中委員長はまず、「兵庫を除いた各府県1位校は順当に勝ち上がった」と大会全体の印象を話した。また、「準決勝の日が天候に恵まれず。第1試合で2時間18分の中断があった。水たまりを修復するため、龍谷大平安と立命館宇治の生徒多数がグラウンドに展開し、整備を手伝っていた光景は壮観であった。彼らのおかげで準決勝が完了できた」との言葉も強調された。
優勝した天理は準々決勝で森浦大輔が大阪桐蔭を2失点に抑えて完投。準決勝では齋藤佑羽が龍谷大平安を1失点に抑えた。両左腕のボールを低めに集めたピッチングは見事だったと評価された。攻撃では勝負強い貞光広登主将と冨木崚雅が打線を引っ張り、上位から下位までのムラもなく、近畿大会のチーム打率は3割5分4厘を記録した。齋藤は投手でありながら2番に入り、隙のない走塁と好打で打撃でも繋ぎ役を果たした。
準優勝の立命館宇治は左腕の山下太雅が4試合全てで完投した。「コントロールに不安があるものの、要所では変化球を駆使して粘り強いピッチングができる投手」という評価。攻撃では4試合で4割7分4厘の高打率をマークした4番・伊藤大賀を中心に、クリーンアップはもちろん、上位から下位までを問わず球に逆らわない力強いスイングを見せて投手を援護。戦う毎に力をつけていった印象だった。
3番目はベスト4から龍谷大平安が選出。左腕の高橋奎二が3試合全てで完投した。昨年よりも一回り大きくなってはいたが、安定感では優勝した前回大会を上回れなかった。しかし球威は昨年よりも増しており、調整次第では全国レベルの有力投手であるのは間違いないと評価に揺らぎはなかった。攻撃では勝負強い4番・西川寛崇と5番・城島大輝が中心で、走塁も積極的。「守備力が整備されれば、春連覇の期待がかかる」との言葉が添えられた。
ベスト8ながら優勝校に1点差の惜敗だった大阪桐蔭の実力が評価されて4番目として選出された。昨夏の甲子園を経験した左腕・田中誠也は、2試合での防御率が1.93と安定した数字を残した。4番・青柳昂樹を中心とする打線は、昨夏の優勝メンバーには及ばないものの、どこからでも攻撃できる強力打線との印象だった。
ベスト4の奈良大附は5番目での選出。守りのチームで、エース右腕の坂口大誠はノビのある直球を軸にスライダーとチェンジアップを交えて2試合を完投。「素晴らしいコントロールを持つ」と絶賛された。攻撃では初戦で試合を決める本塁打を放った3番・8663主将と4番・中谷廉が打線を引っ張る。課題として挙げられたのは下位打線の強化という点だった。
注目された6番目の枠には近江が入った。エースの小川良憲は140キロ前後の直球とキレの良いスライダーが持ち味の将来楽しみな本格派右腕。準々決勝こそ力みから本来の力を発揮できなかったが、初戦でPL学園相手に見せた投球術が選出への大きな決め手となった。
[page_break:近畿地区6校目の選考経過からのメッセージを読み解く]※近畿地区6校目の選考経過からのメッセージを読み解く
記者会見での質問に答えた杉中委員長は、近江、箕島、北大津に加え、1回戦敗退ながら兵庫1位だった神戸国際大附も選考の土俵に残っていたことを明かした。ただ、ベスト8組を上回る試合ができなかったことで最初に選考から外れた。この試合では投手陣が四死球で崩れて押し出しなどで得点を献上した点が顕著だった。
このように、今回の近畿地区選考では【投手の安定感】が大きなキーワードになった。杉中委員長は箕島を粘りの野球が身上、北大津を打力が持ち味と評し、結果的には近江だけが4校の中で投手力を評価されていた。ただし小川にも敗れた立命館宇治戦で四球をきっかけに打たれたというマイナスポイントがある。そのマイナスを上回る材料になったのが初戦でのピッチング。相手校が社会的に注目されてしまったこともあり、例年と違う異様な雰囲気の中での試合となってしまったが、小川は冷静さを失わない見事なピッチングを見せた。これが視察した選考委員のハートを掴んだように思える。夏の甲子園で修羅場を経験した小川の成長の賜物とも言えるのではないだろうか。
もう一つ、選考の中で懐疑的に見られがちになるのが21世紀枠の存在だ。一般枠と21世紀枠では同時進行で選考が開始されるが、時系列では21世紀枠の方が早く決まる。段取りとして21世紀枠で選出されなかった学校は一般枠選考に組み込まれるため、このように思われるのは致し方ない。今回の記者会見でも桐蔭が先に選ばれた点についての質問が飛んだ。これに対し、杉中委員長は「影響はまったくない」と否定し、桐蔭が選ばれなかったら箕島、選ばれたら近江という議論はしなかったという意思を示した。結局のところ、桐蔭は近畿大会に出場しておらず、もし後から選考に組み込まれたとしても一般枠としては選びようがないという事前の認識があったということなのだろう。秋の大会を直接視察しない21世紀枠と、直接視察して選考の材料とする一般枠をはっきりと分けて考えることが大事であり、地方大会で優勝した学校ばかりが覇を競う夏の選手権との差別化を図る選抜大会の特徴は示されているように思う。
今回、補欠校となった箕島は「桐蔭に勝ったのに」と悔しさがあるかもしれないが、近畿大会の準々決勝でなぜ勝てなかったのかという点に重きをおき、夏に向かって課題に取り組んでほしい。夏は、地方大会優勝=甲子園出場となるのが紛れもない事実である。
<コラムに登場した学校の野球部訪問を紹介!>
第35回 大阪桐蔭高等学校(大阪)
第90回 近江高等学校(滋賀)
第142回 龍谷大学付属平安高等学校(京都)