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米国撃破!快進撃のU-18馬淵ジャパン、悲願の世界一へ「あえてスモールベースボールで挑んだ」本当の理由

2023.09.05


現在開催中の第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ。高校日本代表は宿敵・アメリカを4年ぶりに撃破し、WBCフル代表に続く世界一獲得に向けて順調な出だしを切っている

チームを率いる馬淵史郎監督といえば、明徳義塾での采配のとおり、緻密な駆け引きで勝負する「スモールベースボール」。代表でもその考えはブレることはなく、高校通算140本塁打の佐々木麟太郎内野手(花巻東・3年)らのプロ注目のスラッガーを選ばなかった。
WBCで栗山JAPANが見せたパワー重視の野球とはまったく異なるスタイルで勝ち進む馬淵JAPAN。改めて選手選考の意図を探った。

厳しい投球制限に「まずは投手を選ばなくては」

自身2度目のU-18を率いることとなった馬淵監督は22日、代表決定時、このようなコメントを残している。

「昨年ワールドカップを経験させてもらい、改めて日本の勝機は『投手を中心とした守りと走力を最大限活かした緻密な野球の実践にある』と実感しました。選手委員の方々には、私が目指す野球を十分に理解してもらい、最終的な 20 名を選考していただきました。日本のマナーや野球への取り組み方を世界に発信していきたい。短期間でチーム力を上げるため、選手と積極的にコミュニケーションを図り、スタッフ、選手の一体となり、全国の野球部員を代表して戦うという誇りを持って大会に臨みます」

この言葉通りの選考となった馬淵JAPAN。まずは投手から見ていこう。

馬淵監督は20人の代表選手を、まず投手から選んだという。
「今大会は10日間で9試合、かつ球数制限も厳しい。『40球以上投げると中1日登板間隔をあける』『105球投げると降板し、中4日』とルールも厳しくなっているので、投手をとにかく入れないと回らない。投手もできて、野手も出場できる選手を多く選びたいと考えました」(馬淵監督・以下同)

■投手9名

武田 陸玖(山形中央)
髙橋 煌稀(仙台育英)
木村 優人(霞ヶ浦)
安田 虎汰郎(日大三)
矢野 海翔(大垣日大)
中山 優月(智弁学園)
前田 悠伍(大阪桐蔭)
森 煌誠(徳島商)
東恩納 蒼(沖縄尚学)

9人のメンバーの中で、打者を兼任できるのは武田、木村、中山の3人だ。その中でも馬淵監督は武田を一次合宿の時点から絶賛。
「打者として一級品ですよ。構えからインパクトまでのスピードは合宿参加者の中ではNO.1。選ばれることがあれば、外野の練習もやっておいたほうがよいとアドバイスしました」と、すでに内定したかのようなコメントを残していた。実際に武田は強化試合から指名打者としても3番、5番、6番で起用され、中軸を任されている。

野手選考の5条件「ユーティリティ」「隙をつく」「走力」「1番打者」「守備力」

投手の次に馬淵監督が選んだのは捕手だったという。

■捕手 3名
尾形 樹人(仙台育英)
新妻 恭介(浜松開誠館)
寺地 隆成(明徳義塾) *一塁手として起用

バッテリーですでに12人。野手の枠は残り8人しかない。
「残り8人で7ポジションを守ることを考えて編成すると、ユーティリティな選手、色んなポジションを守れないと選べないのが実情です」

選ばれたのは、まず複数ポジションを守れる選手。さらに、以下のようなコンタクト力の高い選手が必要とされた。
「高校野球では、長打も脚力もある1番や3番タイプが多いほど、強いチームになると私は考えています。1番打者は調子が良ければ3番も打てますので。
また、相手のスキをつけるような選手も必要。去年のU-18のオランダ戦は1対0、わずか1安打で勝ちました。藤森(康淳・天理→法政大)のドラックバント1つで勝てたんです。世界には160キロを投げる投手がたくさんいます。彼らを打ち崩すのは簡単ではありません。内野安打で勝敗が決まることがあるわけですから」
昨年、日本はこの大会で3位に輝いたが、馬淵監督は、「オランダ戦が勝ててなければ、5,6位だった」と振り返っている。

さらに外野手にはスピードも求めた。
「あとは、足の速い外野手ですね。外野のミスは失点に繋がります。プロ野球もそうですが、外野の上手い、下手で差がつくんです。外野は足を基準にして、3人を選ぶことになりました」

こうして内野手、外野手は、ほとんどが各チームで1,2番打者が選ばれたのだった。

■内野手 5名
山田 脩也(仙台育英・2番打者)
髙中 一樹(聖光学院・1番打者)
緒方 漣(横浜・1番打者)
森田 大翔(履正社・4番打者)
小林 隼翔(広陵・4番打者)

■外野手 3名
橋本 航河(仙台育英・1番打者)
丸田 湊斗(慶応・1番打者)
知花 慎之助(沖縄尚学・1番打者)

森田は甲子園での活躍や、長打力、そして強肩が光る三塁守備も評価された。小林は4番を打っているが、本質的には中距離打者で、一次合宿から高い守備力とメンタリティの強さを評価された選手だ。

馬淵JAPANの選考基準をまとめれば、①複数ポジションを守れる器用さ②走力③相手のスキをつくうまさ④守備力⑤パンチ力も備えた1番打者タイプ、となる。佐々木麟太郎真鍋 慧広陵・3年)といった一塁手スラッガーが漏れるのは必然だったと言えるだろう。

智将を悩ます「厳しすぎる投球制限」

このような基準をもとに選ばれた代表選手たち。国内合宿の2試合では、予想通りというべきか、エンドランやバントを多用する試合運びが光った。特に26日の駒澤大戦の2回裏、1死一塁から6番に入った武田の場面で、ヒットエンドランを仕掛け、武田はヒットを放ち、一、三塁のチャンスを作り、7番小林がヒットを打って点を取る場面もあった。どの試合でも積極的に走り、チャンスを広げる意図が見えた。

さらに守備重視で選んだ結果、早稲田大とのオープン戦ではセカンドに入った緒方が処理が難しい打球を軽快な足運びでアウトにするプレーもあった。馬淵監督は「ああいうプレーでアウトにできる選手を選んでいます。これで崩れたら、今年のチームは勝てない」というように、ここまで指揮官の期待に応えているといえるだろう。

そんな中で馬淵監督を最も悩ませたのは、投手起用だった。前述のとおり、昨年よりも投球制限のルールは厳格化されている。
■去年までのルール
1球から49球 休養日なしで連投可能
50球から104球 中1日
105球以上 中4日
■今年のルール
1球から40球 連投OK
41球から55球 中1日
56球から75球 中2日
76球から90球 中3日
91球から105球 中4日

ここには累積の球数も該当する。たとえば、初戦で25球投げた投手が、翌日16球投げて降板すると、累積41球となり、中1日の休養が必要となる。この厳しいルールの中で、使える投手は9人。しかも10日間9試合の過密日程をこなさなければ、優勝はできないのだ。

29日の壮行試合の試合後の記者会見でも馬淵監督は「本当にこのやりくりが難しいんです。試合中も比嘉コーチ(公也・沖縄尚学監督)とローテーションについて話していました。メインとなる投手をどこにぶつけるかも大事になります」などと投手起用の難しさを記者会見で長々と語っていた。

悲願の初優勝へ! “2度目の経験”がモノをいう

ほかにもU-18独自のルールはある。試合は7イニングと短いため、序盤の失点がより重いものになってくる。MLBでも採用されている「ピッチクロック」(20秒以内に投手は次の投球に入らなければならない)も導入され、対応に追われた。さらにルールブックに記載されていない国際大会ならではの「アンリトゥン・ルール」も存在する。
馬淵監督は「昨年代表を率いたことで、国際大会独自ルールへの適応や、優勝するために、どの試合を注力するべきなのか、理解できました。国際大会は本当に厳しい戦いです。初めての方ではとても適応することはできないのではないか」と去年からの経験を活かすつもりだ。
高校野球界で、長く勝負師として活躍してきた馬淵監督。そこに国際大会を経験してきた知見が加わった。
今回31回を迎える大会で、いまだ日本の優勝はない。悲願の世界一へ――。日本の「切り札」はどんな采配を見せてくれるだろうか。

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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