Column

佐藤世那、苦しみながら掴んだ甲子園決勝のマウンド 次に目指すは世界一の称号

2015.08.27

 今夏の甲子園準優勝した仙台育英(宮城)。甲子園で全試合に登板したエース・佐藤 世那は、自己最速を更新するなど、好投し続けた。しかし、東海大相模(神奈川)との決勝は、6対6の9回に勝ち越し本塁打を浴びるなどし、6対10で敗戦。宮城はもちろん、東北勢の悲願でもあった甲子園優勝には手が届かず、「東北のみなさんに申訳ない」と涙した。
それでも、東日本大震災からの復興に向かう、宮城、東北を沸かせた事実は色あせない。地元凱旋から2日後にはU-18ベースボールワールドカップのため、再び、大阪へ。次は世界を相手に戦う。

味わってみたかった甲子園決勝のマウンド

佐藤 世那(仙台育英)

 [stadium]甲子園[/stadium]に出発する前、佐藤はこう話していた。
「決勝までいきたいですね。1回、味わってみたいですよね、甲子園の決勝がどういうものなのか」
ニッと笑った顔が忘れられない。

 この言葉は自信があって出たものではないはず。1つの願望として口をついた言葉だったと思っている。それがまさか、現実になるとは―—。

 昨秋、佐藤はまさにチームの大黒柱だった。

地区予選か
ら公式戦は全て先発し、13完投。そのうち、7試合を完封した。県大会では4試合連続完封で、37回1/3連続無失点を記録。東北大会でも快投した。八戸学院光星(青森)との準決勝では自己最速を144キロに更新すると、大曲工(秋田)との決勝では4失点したものの、チームを2年ぶりの優勝に導いた。

 明治神宮大会では、優勝候補に挙げられた近畿大会優勝天理九州大会優勝九州学院を撃破。決勝では、関東大会優勝浦和学院を7安打1失点に抑え、2年ぶりの日本一に。そして、独特のフォームと、「世那」という名前で知名度は急上昇した。

 その4ヶ月前、宮城大会4回戦の東北学院戦。3対3の同点で迎えた延長13回に勝ち越し本塁打を浴び、そのまま敗れた。12年ぶりの4回戦敗退だった。
「夏までは、打たれたくない、失点したくない、四球を出したくないなど、嫌な方向にしか考えられなかったんです。それが、秋はいい方向にしか考えなくなりました」

 マウンド上で前向きに考えられるようになったこと、そして、2種類のフォークを投げ分けられるようになったことで秋の躍進につながった。
ところが、明治神宮大会後、キャッチボールをしているとヒジに痛みが走るようになった。「冬オフの間にあまり投げず、時間があれば治るかなと思っていました」。しかし、なかなか痛みは収まらない。年が明け、病院でMRIやレントゲンで検査をすると、右ヒジの剥離骨折が判明した。


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[page_break:ケガ、不調続きの春季大会~宮城大会を乗り越えて]

 これだけ投げれば、投球過多は否めない。しかし、投げる機会をどれだけ抑えておけばヒジを痛めずに済んだかは、誰にも分からない。
キャッチボールも控え、ボールを投げない期間が続いた。この間、もう1つの問題が起こった。それは、肩甲骨の柔軟性の低下。フォームのバランスも崩した。センバツ大会1回戦神村学園(鹿児島)を完封したが、2回戦敦賀気比(福井)に敗れた。

 今春の県大会決勝後、佐藤はこう話した。
「ボールがいかない中で頭を使って打ち取ることができました。今後は、ヒジ、肩を万全にして、身体のキレも出して、細かい動きができるようにしたいです。秋よりも腕が振れなかったですし、体重が前に乗らなくなりました。腕も後ろまでいかなくなった。ヒジを怪我してから、肩甲骨が硬くなったんですよね。ヒジを休めるつもりが……。センバツ大会では、ヒジの痛みはなかったんですが、思うような腕の振りができませんでした。だから、今は腕の振りが戻ってくればいいなと思います。まだ、身体と一致しているボールはありません」

 そして、目標は「日本一が一番。それしか目指していませんが、まずは出ることですよね」と苦笑。「どういう状況でも1点を取るのが難しいと思われるピッチャーになりたい」と理想を続けた。

ケガ、不調続きの春季大会~宮城大会を乗り越えて

佐藤 世那(仙台育英)

 ところが、6月5日の東北大会初戦。対盛岡大附(岩手)で先発したが、5回途中、8安打7失点で降板した。この東北大会以降、佐藤は練習試合のマウンドに立つことはなかった。ゴムチューブや器具を使ってのトレーニングや左手でのキャッチボールをしながら、「センバツ大会前よりも投げられなくてウズウズする」と話していた。

 7月7日開幕の宮城大会を前に、練習試合登板は1試合。それも、わずか2イニングだけ。万全ではない中、甲子園を懸けた戦いに挑むことになった。
結局、6試合中、登板は4試合。その間、百目木優貴が好投を見せ、チームを救ったが、佐藤にとっては苦しい宮城の夏だった。準々決勝は初回に先頭から3連打を浴び、2回6安打2失点で降板。準決勝も初回に先頭から2連打を浴びた上、2四球を与え、押し出して1点を献上したところでマウンドを降りた。その日、学校に戻り、選手のみでのミーティングを終えると、佐々木 順一朗監督が言った。

「(決勝は)7割方、世那を先発させようと思うけど、お前らはどうしたい?去年から世那に任せて来た。甲子園に行くなら百目木を先発させた方がいいが、そのまま甲子園が決まっても、不安を残したまま甲子園に行くことになる。世那がどれだけ打たれても、打ち勝つしかない。それでもいいか」


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 昨秋は佐藤がチームを引っ張った。だから、今度は20点、30点取られても、野手がそれ以上の点数を取って助けなさい、というメッセージだった。決勝は、それまでとは別人のような投球で5安打完封。自ら満塁弾を放つなど、バットでも貢献し、2年ぶりの甲子園出場を決めた。
佐々木監督は、「世那と(右足小指骨折の)大河は甲子園からでいいよ」と宮城大会での貢献は低く見積もっていたのだが、指揮官の読み通り、甲子園で見事に復活した。

次は世界一を目指して

佐藤 世那(仙台育英)

 3回戦花巻東(岩手)戦以外は全て先発完投。初戦明豊(大分)戦では自己最速の146キロを計測した。特に注目を浴びたのは、早稲田実業(西東京)との準決勝清宮幸太郎との対決だった。佐藤は「一発が怖いし、流し打ちも出来るいいバッター」と、清宮の印象を語り、「気持ちで負けないようにしたいですね。インコースは使っていかないといけない。フォークは頭にあると思う。三振は狙わず、打ち取ることを考えたい」と話した。

 対清宮で注目はされたが、佐々木監督が「(清宮は)9人の中の1人」と答えたように、仙台育英としては、あくまで対早実。佐藤も「一人ひとりに注意しないといけない打線」と警戒した。集中力を高め、丁寧にピッチング。5回まで内野安打3本に抑え、併殺は3つ奪った。3回二死満塁では、一発けん制も成功させるなどし、勢いのあった早実を完封した。

 しかし東海大相模(神奈川)との決勝では5回までに6点を失った。それでも、味方打線が援護。6回には、二死満塁で1番・佐藤 将太が走者一掃の同点三塁打。真紅の大優勝旗が見えかけた。しかし9回、先頭の小笠原 慎之介に勝ち越し本塁打を許すと、さらに3点を失い、突き放された。

 昨夏の宮城大会4回戦敗退から、明治神宮大会優勝にまで駆け上がった。その後、右ヒジを剥離骨折。その影響でフォームに悩んだ。春、夏と暗闇の中にいた。そんな中で発した「甲子園の決勝を味わってみたい」という言葉が、現実のものとなった。

「東北のみなさんに申し訳ない」と涙した決勝翌日の21日に[stadium]甲子園[/stadium]から帰ると、その2日後には、慌ただしく再び大阪へ。女房役の郡司裕也、そして平沢大河とともに「IKUEI」のユニホームから、「JAPAN」のユニホームに着替えた。中学以来の国際大会に向け、「どのポジションになるか分からないが、任されたところでしっかり投げたいです。大崩れせず、安定したピッチングをしたいと思っています」と意気込んだ。日本一にはなれなかったが、世界一になるチャンスはある。世界を相手に佐藤はどんなピッチングを見せてくれるのだろうか。

(文・高橋 昌江

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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