【侍ジャパン18U日本代表 大会総括】世界最強の野球国になるために 日本が乗り越えなければならない課題とは
準優勝に終わった日本。今大会だけを振り返ればいろいろな課題はある。日本が目指す道とは、世界最強の野球国となることだ。そのために、これまでの大会を振り返ると、共通した課題も見つかった。また、過去には、現在の日本球界に大きな功績をもたらしている18U世代もあった。今回は、今後、侍ジャパン18Uは、何を目指すべきなのかに迫っていきたい。
国際大会を経験する意義、そして育成とは
侍ジャパン18U日本代表は、優勝も目指すが、同時に育成も宿命づけられる世代でもある。では、育成というのは具体的にどんなものなのだろうか。
・国際大会そのものを経験することでその後の成長の糧とすること
・木製バットに順応し、その次のステージへのアドバンテージとすること
国際大会では日本と違い、高校生も木製バットを使用する。写真は18U日本代表で4番を打つ岡本選手(智弁学園)
国際大会はいろいろなモノに慣れる必要がある。気候、食事、言語、マウンド、グラウンドコンディション、ボール、ストライクゾーンなど日本の野球とは全く違う。そういうギャップからストレスになって、思うように力を発揮できない選手も多い。
選んだ首脳陣は日本で魅せるパフォーマンスを10として期待しているが、環境面の戸惑いで、半分しか力を発揮できないこともある。それはもったいないが、若いうちに、そういった経験は次のステージで日本代表を目指すには良い経験になるので知った方が良いだろう。
また、木製バットの対応は早ければ早い方がその後の活躍につながる。今回、代表選手から、いつから木製バットの練習を始めたか聞いてみた。地方大会が終わって、すぐに木製で練習をし始めた選手もいれば、チームとして木製バットの練習に日頃から取り組んでいる選手もいた。
だが、練習と実戦とどちらの方が順応が早いかといえば、当然、実戦である。韓国、台湾の選手は140キロを超える速球を投げて、キレのある変化球を投げる。そんな相手に対し、木製バットで挑戦できるのは18U代表に選ばれた選手たちの特権だ。
今後、18Uの選手たちが将来のトップチームで対戦することがあるかもしれない。若い年代のうちから国際大会を経験することは、大きな意義がある。
今年から侍ジャパンの動きが本格化し、各世代を盛り上げようという機運を感じる。だからこそ、大会へ向けての準備、選手選考は重要となってくる。
選手選考は、勝つための選手選考をすると同時に将来のための育成世代であることも考慮していくべきだ。今後、トップチームに加わる可能性があることを考えて、技能、体格ともに優れた選手を選ぶ必要性はあるのではないだろうか。
AAA選手権(18U)とWBCをともに出場した7選手を紹介!
ここから過去のアジア選手権、世界大会を経験し、その後、プロ野球界に入ってから、WBCに出場した選手、投手5名と野手2名を紹介していきたい。
高校時代から日の丸を背負い、プロ入り後はWBC日本代表にも選出。そして今やMLBを代表する選手へと成長したダルビッシュ 有選手(写真は第21回世界AAA大会@台湾)
■松坂 大輔(横浜-西武ライオンズ-レッドソックス-メッツ)
第3回アジアAAA出場
第1回~2回出場
■福留 孝介(PL学園–日本生命-中日ドラゴンズ-)
第1回アジアAAA出場
第1回~2回出場
■杉内 俊哉(鹿児島実-三菱重工長崎-ダイエー・ソフトバンク-巨人)
第3回アジアAAA出場
第1回~3回出場
【独占インタビュー:2014年08月04日】
■ダルビッシュ 有(東北-北海道日本ハムファイターズ-テキサスレンジャーズ)
第21回世界AAA出場
第2回出場
■涌井 秀章(横浜-埼玉西武-千葉ロッテ)
第21回世界AAA出場
第2回~第3回出場
■田中 将大(駒大苫小牧-東北楽天ゴールデンイーグルス)
第6回アジアAAA出場
第2回~第3回出場
【独占インタビュー:2013年03月02日】
■村田 修一(東福岡-日本大-横浜ベイスターズ―読売巨人)
第3回アジアAAA出場
第2回出場
【独占インタビュー:2013年07月19日】
■岩村 明憲(宇和島東-東京ヤクルト-レイズ-パイレーツ-アスレチックス-東北楽天ゴールデンイーグルス-東京ヤクルトスワローズ)
第2回AAA出場
第1回~2回出場
日本は投手を中心に人材が集まっている
大学時代に野手に転向した村田 修一選手(東福岡 – 日本大学 – 横浜 – 巨人)。プロ入り後本塁打王を獲得するなど日本を代表するスラッガーとしてWBCの代表選手にも選出された。
村田は高校時代、最速140キロを投げる右の本格派右腕だった。日本球界はいかにして、投手を中心に人材が集まっているのが分かる。
高校生の時点で、140キロ超の速球が投げられ、なおかつキレのある変化球を両サイドに散らせて打ち取る投球術を持った高校生は全世界を見ても数少ない。これは日本の大きな強みである。
野手だと福留、岩村のみ。しかし、過去10年間と限定すると、この2人は含まれない。つまり近年、AAAを経験して、トップチームに選ばれた野手は1人もいない現実である。
福留は高校時代からスラッガーと騒がれ、最後の夏の大阪大会では7本塁打を放ち、ドラフト時には7球団も競合した逸材である。
岩村は第2回AAA選手権に出場。前年の1995年全日本野球選抜では4番を務めるほど長打力に群を抜いた逸材。最後の夏は愛媛大会準決勝で敗れ、甲子園出場はならなかったが、ヤクルトスワローズに2位指名を受け、2004年に44本塁打を放つなど、セリーグ界を誇るスラッガーに成長を遂げた。
その福留・岩村を最後に、18U選出の野手で、トップチームであるWBCに出場した選手がいない。つまり育成としては全く分断されている状態なのだ。トップチームと18Uの連動性を出していくのも、今後の日本球界にとって大きな課題ともいえるだろう。
また、18Uの選考メンバーは、甲子園組が中心になりやすい。2012年~2014年の代表メンバーの夏の甲子園出場者は、
2012年 18名(未出場者2名)
2013年 17名(未出場者3名)
2014年 12名(未出場者6名)
集大成をかける夏の甲子園。確かにチーム力、個人の能力が高い選手が集まりやすい。2012年においては、夏の甲子園出場者18名、未出場者がたった2人とほぼ夏の甲子園出場者で占められた。しかし、すべての選手が、地方予選敗退組より実力が上回るともいえない。結果的に、2012年は6位に終わり惨敗を喫した。
やはり選考委員会でも、国際大会で勝つために、実力者を選ぶ風潮になってきたのか、2013年は3名、今大会は夏の甲子園未出場者は6名と徐々に増えてきた。結果としては準優勝に終わったが、選考姿勢としては悪くないだろう。
[page_break:トップチームになるほど、甲子園出場歴は全く関係ない]トップチームになるほど、甲子園出場歴は全く関係ない
さらにWBCに出場した野手の経歴、甲子園出場歴を調べてみた。
・ 野手はプロにどういう経歴で入ったか。【高卒・大卒・社会人・独立】
・ 3年夏に甲子園に出場しているか、していないかで調べた。【あり・なし】
やはり18U日本代表の選考において、夏の甲子園出場が大きなアドバンテージになるからだ。
今後、日本代表TOPチームの中心選手として活躍が期待される中田 翔選手(大阪桐蔭 – 北海道日本ハムファイターズ)。
全体で見ると、47名のうち高卒選手は21名で、44%と高卒選手が占める割合が一番高い。高卒選手だと中田 翔(独占インタビュー:2009年・2014年)、内川 聖一(独占インタビュー:2012年【前編】【後編】、イチロー、城島 健司、坂本 勇人(独占インタビュー:独占インタビュー:2013年06月04日)と、毎シーズン打撃部門に上位に連ねるスター性のある野手が多いのが魅力だが、最後の夏に甲子園出場しているのは全体で約7名。トップチームになるほど、甲子園出場歴は全く関係ないことが分かる。
また野手として唯一、AAAとWBCを経験した岩村と福留は長期的に活躍しているのを見ると、やはり長打力があり、スケールある野手はトップチームで活躍しやすい傾向にある。
『野手の成長過程は中々予想出来ない』という難しさはあるのだが、選考過程でトップチームとの連動を考えた時、一つの参考資料になるかもしれない。
また木製バットとはいえ、長打力で存在感を示したいところだが、今大会の日本代表は0本塁打に終わった。優勝した韓国は1本、3位の台湾は4本放ったことを考えると、やはり寂しい結果であり、準決勝、決勝ともに打てずに苦しい試合展開となった。
この結果を見ると、日本は打てる人材がいない国なのかというと、そんなことはない。2013年の第26回18U野球ワールドカップは、野手を中心に人材が集まった年だった。
[page_break: 野手の選考は2013年18Uが理想形]野手の選考は2013年18Uが理想形
2年連続で18U日本代表に選出された森 友哉選手(大阪桐蔭 – 埼玉西武ライオンズ)。当時からその打撃センスは突出していた。
この大会では渡辺 諒(東海大甲府-北海道日本ハムファイターズ)、森 友哉(大阪桐蔭―埼玉西武ライオンズ 独占インタビュー:2014年03月18日)が本塁打を放ち、コールドゲームが4試合。韓国(試合レポート)、キューバの強豪国にも10対0のコールド勝ちをしているのだ。
今年の日本代表は台湾(試合レポート)には3点、韓国(試合レポート)には1点しか取ることができなかった。同じ準優勝とはいえ、中身は全く違うものである。
その年にドラフト指名を受け、プロ入りした野手は8名。投手を合わせると計10名。これは松坂 大輔などがいた1998年世代の13名に匹敵する。今後、大学、社会人を経てプロ入りする可能性はあり、松坂世代を抜くかもしれない。
プロ入りした選手たちは早速、一軍、二軍の舞台で活躍を見せている。
一番活躍を見せているのは森 友哉で、史上初の高卒新人代打本塁打3本、球界46年ぶりの高卒新人3試合連続本塁打とド派手なデビューを飾っている。
他では、楽天に入団した内田 靖人(常総学院-東北楽天ゴールデンイーグルス 独占インタビュー:2013年10月21日)は91試合に出場し、打率.221、7本塁打。4番を任されることも多くなり、将来期待の和製大砲として順調な成長を見せている。
甲子園4強に導き、俊足巧打の大型遊撃手として評判だった奥村 展征(日大山形―巨人)は、打率.226、2本塁打と打率面の数字は低いが、すでに81試合出場、264打席に立ち、1年目としては順調なスタートを切っている。
渡邉 諒は怪我もあり、現在46試合出場にとどまっているが、打率.250、4本塁打と二軍でもそれなりの数字を残している。また強肩強打の捕手として評判だった若月健矢も、二軍捕手として最多の55試合に出場し、5本塁打を記録している。
高卒野手はプロの投手、木製バットの対応に苦しみ、1年目は打率が1割台、本塁打も打てないというケースが圧倒的に多いのだが、彼らの場合はそんなことはなく、早速、出場機会を多く与えられ、本塁打を記録するなど、それなりのパフォーマンスを披露し、来年へ大きな期待をかけられる活躍をみせている。
[page_break:全国の逸材を集結させるためには]全国の逸材を集結させるためには
3年夏は甲子園に出場することはなかったが代表に選出された松井 裕樹選手(桐光学園 – 東北楽天ゴールデンイーグルス)。徐々にプロでも頭角を表しつつある。
そこを考慮すると、野手の選考というのは、高卒からNPB入り出来る技量があり、1年目から二軍でもレギュラーに名を連ねるほどの人材を中心とした選考が望ましいだろう。また、このメンバーを中心に昨年、世界準優勝していることを踏まえると、勝利と育成のバランスは2013年の野手選考は理想的といえる。
投手では、松井 裕樹(桐光学園-東北楽天ゴールデンイーグルス)も高卒新人ながら、田中 将大以来、7年ぶりの球団史上2人目の100奪三振を達成した。前回大会は個人の才能が高く、即戦力度が高い人材が集まったことが伺えるのではないだろうか。
この中から何人がトップチームに選出されるかは分からない。高卒選手の成長の予測は難しいので、このまま順調にいくとは限らない。
だが、プロ入りした選手が13名いる松坂世代は、その後、タイトルホルダーになった選手が4名(松坂、杉内、村田、新垣)いる。プロ入りした人数が多ければ多いほど、プロ入り後の活躍は期待しやすいのだ。昨年の18Uも、松坂世代と同じ流れになることを期待したい。
一方で、今年の韓国代表は12名がドラフト指名をされており、最も才能が高い18人が名を連ねていた。日本も優勝を目指すだけではなく、18Uから将来のトップチーム代表候補、NPBで活躍出来る人材を育成するには、この大会は高卒からプロ入りが期待出来る技量、ポテンシャルを持った人材を中心に選出する必要性はより高まってきているのではないだろうか。
全国の逸材を集結させるには、高校野球の現役監督中心のスタッフ構成では限界がある。やはり現役監督はチームを預かっている立場上、ネットワークが限られてしまう。また大会期間中はチームを離れてしまい、新チームの合流が遅れるので、着実としたチーム作りが出来ないリスクもある。
それであれば、選考スタッフを配置し、全国を回るのもひとつの方法かもしれない。侍ジャパンのもと、高野連とNPBがどれだけ連携を取りながら、強化を目指すことが出来るか。まだまだ逸材は全国に眠っているはずだ。
そして、プロ入りを目指す高校球児も、ぜひ日本代表に目を向けてもらいたい。今までの国際大会は甲子園出場者が中心で占められていた。だが、今年は未出場者が全体の3分の1である6名の出場と地方敗退組にも大きなチャンスがあった。門戸は開かれつつある。
昨年プロ入りした選手が1年目から一軍、二軍で活躍をみせているように、国際大会出場がすべてではないが、高校生の間に国際大会を経験することは、大きなアドバンテージになっていることは間違いないだろう。
世界最強の野球国へ。野球界が本気で歩み出す時がきた。
(文=河嶋宗一)
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