Interview

福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一 選手 (後編)

2012.12.09

第117回 福岡ソフトバンクホークス 内川 聖一 選手 (後編)2012年12月9日

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 後編は、内川聖一選手のバッティング理論をたっぷり伺います。
 福岡ソフトバンクの主力打者・内川選手は、2008年、2011年に二度の首位打者に輝いていますが、初の首位打者を獲得した年の前年、これまでの野球人生でどん底を経験しています。その時に、内川選手を変えてくれたコーチからの言葉。また、その後の決意とは?

 後編も高校球児の皆さん、必見の内容です!

内川選手のバッティング理論が知りたい!

――まずは、内川選手の体の開かないバッティングのポイントを教えてください。

福岡ソフトバンクホークス 内川聖一選手

内川 聖一選手(以下「内川」) よく指導者の方は、『ピッチャー寄りの肩を開くな』と教えます。右バッターなら左肩、左バッターなら右肩ですね。でも、僕はどちらかというと反対側の肩を出さなきゃいいと思っているんです。
 バッティングの理論って、人によっては、『ここで肘を入れろ』とか、『最短距離でバットを出せ』と言いますが、僕は打ちに行く時に、ピッチャーとは反対側の肩を動かないでバットを出すためにどうするかということを考えています。
 バットを持っていて、来たボールを打とうとする。その時にピッチャーとは反対側の肩を出さずに、芯で打つためにどうするかというと、肘が入ってくるんです。横から見ると、体の中に自然と肘が入ってくるんですね。
 僕は右バッターなので、右半身は、出ていく力がいるし、左半身は戻ってくる力がいります。そうすると、力のポイントは体の中心になりますよね。
体を開かずに打つというのは、ちょうど(体の)中心で打ったものが、フォロースルーになって離れていくというイメージなんです。

――内川選手のフォームの中で、球を捕えるポイントというのは?

内川 僕が一番良いと思っているポイントは、左足の前で打つこと。ステップした左足のちょうど延長線で力が入っていくのが一番良いと思っています。
 どちらかというと、僕はそれよりも、前に出ないようにしようと思って打っているんですよね。よく右打ち上手いですねとか、90度広角に使って打ちますよねと周りから言われるのは、前に出ること、それこそ引き付けて打とうと思っているので、ちょっと詰まったあたりとか、右への当たりが多くなっているんじゃなかなと思いますね。

――真っ直ぐだけでなく、同じ意識で、変化球にも対応できるコツはありますか?

内川 みんなボール球を打とうとするんですよね。そうではなくて、僕はまずしっかり、『ここのポイントは、こういう打ち方をするんだ』という形を作ることのほうが先だと思うんです。
 インコースを俺はこうやって打ちたい、真ん中はこうやって打ちたい、アウトコースはこうやって打ちたいというのがありますよね。まずは、自分の打ちたいところに、ボールを入れてあげればいいんです。
 みんな来たボールに対して、一生懸命打ちに行こうとするから、ポイントが崩れてしまう。もちろん、相手ピッチャーも崩そうと思って投げてますから、ポイントが崩れてしまうことはあるんですけど、『自分がこういうふうに振るんだ』というところにボールを入れてくればいいんですよ。
 一生懸命、前で打とうとか、後ろで打とうとかするから、ボールによって操作される。それだと、自分が惑わされていくだけ。ようは、自分が打つゾーンって決まってるので、そこの範囲の中に入ってくるものを自分が気持ちよく振れるスイングの形のところに入れてあげればいい。つまり、逆の発想だと僕は思うんです。

[page_break:内川選手が自分の形を作り上げた練習法]

内川選手が自分の形を作り上げた練習法

――自分のバッティングを習得するために、どんな練習をすることが上達を早めるのでしょうか?

内川 まずは、普段の練習でも、これまで話したようなポイントで打つんだという意識を持つことが大事ですね。

 また、具体的な練習方法としては、速いボールをパンパン打つことも大事ですけど、僕は遅いボールもしっかり引き付けて、そのボールをどうやったら強く打てるのかを考えてバッティング練習をしています。
 速いボールは、反発力もあるので、ある程度、自分の勢いを使ってでも打てる。でも、その勢いを使わずに自分がどうやったら強い打球を打てるのかっていうのは、やっぱり遅いボールを打つのが一番いいことなんじゃないかなと僕は思います。
 真っ直ぐの遅いボールをヘタしたら1時間でも2時間でも打っています。これは、プロに入ってからやり出した練習ですが、僕はそこで自分の形を作り上げてきました。

「トスバッティングは3方向から」

――トスバッティングで、オススメの練習法はありますか?

内川 トスバッティングはすごく大事だと思いますね。1対1でもちろんやることも大事ですけど、3対1、2対1でやっていました。3人でやっていると、自分のバットにどういうふうに当たったら、自分の打球がどういうふうに飛ぶのかが分かるんです。

 3人で三方向から投げて、例えば1番(一塁手方向)から来たボールを2番(投手方向)に打つにはどういう角度でバットを出さなきゃいけないのか。2番(投手方向)から来たボールを3番(三塁手方向)に打ち返す、3番(三塁手方向)からからくるのを2番(投手方向)に打ち返すといったように、自分が打ちたい、または相手によって自分のバットの角度を変えなきゃいけない、そういった練習を重ねることで、自分のバッティングの“バットを使う角度”というのを覚えることができる。
 自分がそこに打つんだという方向に、自分のバットの角度を出してあげないといけない。自分がどの角度に打ちたいのか、じゃあこの角度でバットを出してあげればいいんだな。この角度で当てればいいんだなというのを自然と覚える練習にはなると思います。

――高校時代は、どんな意識でバッティング練習をしていたのでしょうか?

内川 僕の高校時代は、ホームランの打ち損じがヒットだと思ってやってました。今は、プロで結果を残すためにヒットをどう打つかを考えてやっていますが、高校時代はバックスクリーンにどうやって放り込んでやろうかと思って打っていました。
 というのも、高校時代はホームランが打てて、長打力があることが自分のウリでもあり、そこを買われてプロになりましたから、長打力を伸ばしたかった。でも、プロに入ってからは、その考えじゃダメじゃないかなと感じたんです。
 そこに気付いてから、首位打者を獲れました。それが2008年のことなので、プロ入りして7年目のことですね。

[page_break:内川選手を首位打者に導いたコーチからの言葉]

内川選手を首位打者に導いたコーチからの言葉

――内川選手が、安定した打率を残せるようになったのは、首位打者を獲った前年の8月からでしたね。

内川 ちょうどその前に、ファームに落とされているんです。入団してから、ケガ以外の理由でファームに落とされたことはありませんでした。でも、この年、初めて自分の調子が悪く、『力が足りないからファームに行って来い』と言われた時に、このままでは自分の野球人生が終わるなと思ったんです。

「自分の長所が相手にとっては短所だった」

 それで、じゃあどうしなきゃいけないのかという時に、横浜にヤクルトから杉村さんがコーチに来られて、その時のアドバイスがきっかけとなりました。これまで、自分の長所だと思っていたことが、『それ、お前の短所だぜ』と言われたんですよね。
 それまでは、バッティングに自信持ってやっていましたし、自分のバッティングが絶対だと思ってましたから、多分一軍にいた時にその言葉を聞いていたら、杉村さんのその言葉を受け入れることも出来なかった。
『これまでお前がやってきたことをやって、(相手チームは)お前をアウトにしようとしているんやぞ』と。相手チームから見た時に、自分の長所だと思ったことが、短所だと言われた。自分の考え方を変えなきゃいけない、自分が変わらなきゃいけない時に、変わる要因になる言葉をもらえたのはすごく大きかったですね。

――そこから、どう変わっていったのでしょうか?

内川 もうその年、ダメだったら、辞めるつもりだったんです、プロを。もう7年間やって、毎年レギュラー候補として名前をあげてもらって、でも結局レギュラーになれずにシーズン終わってみて、それに飽きてきた部分があった。

 その翌年、オフシーズン中に実家から自主トレ先に行くときに、『今年ダメだったら、辞めるわ』って親に伝えました。

 自分の中でこんだけやってレギュラーなれんのやったらしょうがない。そういう覚悟を決めて、一年間やってみたいっていうのもありましたし、自分の中では、そういうことを言ったときに、『何言ってるの?もっと頑張りなさいよ!』と言ってもらうことを期待していたけど、『まぁいいんじゃない。もうあんたが全部やったことやったんだったら、それで帰ってくればいいじゃない』と言われたんです。その時、もしかしたら俺、まだ全部やることやってないんじゃないかなという気持ちになったんですよね。

――その年、2008年に内川選手は初の首位打者を獲得したのですね。シーズン打率.378。得点圏打率は.449と高い数字をマークしました。その後も、3年連続でシーズン打率は3割超えを記録するなど、活躍を残しています。

「最低限のパフォーマンスを上げることが大事」

内川 首位打者を獲ってから、自分の中で変化もありました。常に新しいものに興味を持ったり、前の自分よりも上にいってやろうという思いがさらに強くなったんですよね。

 今年は特にそうでしたけど、初めてレギュラーを取って、前半戦で苦しんだんです。2割5分8厘くらいまで、打率落ちて、『うわ、俺このまま自分どうなるんだろう』って。
 結果的に終わってみたら3割打てたんですけど、どん底まで落ちても、最後は上がっていくことが出来たっていうのは、自分自身の自信になるんですよね。

 人は自信を持てとか、自信をつけなさいというと、自分の持っている一番MAXのレベルを常に上げることを自信をつけることだと、とらえがちですけど、僕は“自分が出来る最低限のライン”を上げることが自信だと思っています。
 自分の体調が悪い、気分が乗らない時もある。それでも、自分はこれくらいできるっていうのが自信になる。

 その下のレベルを少しでも上げるために、今の冬の練習を頑張ったり、冬のきついことを乗り越えることにつながっていくんじゃないかなと思います。

――では、最後に高校球児へメッセージをお願いします。

内川 高校野球は今一瞬しかないので、今を大事にしてもらいたい。最後の夏が、どんな結果になったとしても、後悔しないものを残してほしいと思います

 終わった時に、『あの時、あぁしとけば良かったな。こうしたら良かったな』というのは悔いですから、悔いを残さないために、試合で負けた勝ったということではなくて、そこに行きつくまでにどれくらい頑張れたかだと思うんです。最後の夏、勝っても負けても悔いが残らないように、今を大事に取り組んでほしいなと思います。

内川選手、とても参考になるお話し、ありがとうございました。
2013年も内川選手の活躍、期待しています!

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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