Column

リコンディショニングの考え方

2014.05.31

個人のコンディションを整え、チームの戦力アップを目指す

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
 

春の地区大会も終盤にさしかかり、思うような結果が出せたチーム、「まだまだこんなはずじゃない」という悔しい思いをしたチーム、それぞれあると思います。選手の皆さんにとっても、体調が万全であれば申し分ないのですが、ケガをしたり、体調が十分ではない状態でプレーせざるを得ない場面もあったのではないでしょうか。
 このような状態ではプレーすること自体に大きなケガのリスクを背負うだけではなく、パフォーマンスレベルも下がってしまうことでしょう。今回はケガからの競技復帰に向けて、どのように計画立てて準備していけばいいのかという「リコンディショニング」の考え方を紹介したいと思います。

RICE処置から始まるリコンディショニング

 プレー中にケガをした、投げている時に肩や肘が痛くなったというときに応急処置としてまず行うのはRICE処置です。痛みの閾値(いきち:感じるレベル)を下げて、内出血などを抑える初期対応として大きな効果をもたらします(参考コラム:応急処置の基本はRICE)。
 ケガをしてから2、3日はRICE処置を中心とし、必要に応じて整形外科医の診察を受けるようにしましょう。同時に患部外トレーニングなどを行って競技復帰に必要な体力・筋力を維持するようにします(参考コラム:患部外トレーニングについて)。

 

さてここからが問題なのですが、患部をしばらく安静にしていると「固まってしまった」「動きが悪くなった」と感じることはありませんか。RICE処置は急性期の応急処置としては大きな力を発揮するのですが、安静・冷却を繰り返すことで本来の動きを制限してしまうことにもつながります。この状態ではプレーをすることはむずかしいため、段階を踏んでコンディショニングを以前の状態に戻していくこと=リコンディショニング、が必要となります。

 ケガをしてから日常生活に支障が出ない状態にまで戻ることを「メディカルリハビリテーション」、日常生活の動作から専門的なプレーが出来るようになるまでを「アスレティックリハビリテーション」と区別することもあります。
 定期的に通院したり、専門的なトレーナーの指導を受けられたりする場合は、こうした段階的なリコンディショニングに取り組むことが出来ますが、「痛みがなくなったらプレーしていいよ」と言われて以後通院などの必要がないとされた場合、どのようにすればいいのでしょう。

[page_break:柔軟性を回復させる/筋力レベルを回復させる]

柔軟性を回復させる

 患部の状態が良くなってから動き出す場合、まずは硬くなった部位の柔軟性を回復させるようにします。2、3日動かさずに安静にしているだけでもずいぶんと動きが硬くなっているものです。ゆっくりストレッチを始めてみて、伸びることによる痛みではなく、ジンジンする炎症性の痛みが出る場合はもう少し日を置いてから始めるようにしましょう。

 柔軟性を回復させることで関節の持っている本来の可動域(かどういき:動く範囲のこと)を取り戻し、正しいフォームや体に負担のない動きが出来るようにしましょう。一番簡単なチェック方法としては左右の比較です。
 もちろん左右ともまったく同じ骨格・まったく同じ柔軟性であることは少ないのですが、おおむね同じ程度の柔軟性を持つことを一つの目安としてください。

筋力レベルを回復させる

 柔軟性がある程度回復してきたら、今度は筋力レベルを以前の状態に戻すようにしましょう。ケガをした部位は痛みが軽くなっていても、筋力は低下していることがほとんどです。この状態で競技復帰してしまうと、いわゆる「かばって他の部位をケガしてしまう」ことにもつながりかねません。

姿勢をキープすることで筋力を鍛える

 体重のかかる荷重関節(足首、膝、腰等)の場合、足を地面について荷重をかけて行うトレーニングよりもマシントレーニングなど、ある程度荷重を軽減した状態から始めるトレーニングが向いています(足が浮いた状態で行う)。

 リコンディショニングの初期レベルとしては、浮力によって荷重が軽減されるプールエクササイズ、関節を動かさずにある姿勢を保持することで筋力発揮をするスタビライゼーション・エクササイズなども有効です。

 筋力のチェック方法としても左右差の比較が参考になります。太ももの肉離れなどをした場合、メジャーなどで患部の周径囲をはかってみると、かなり差があって驚くことがあるかもしれません。

 筋力の一つの目安として、同じ部位の周径囲を測るという方法もぜひ覚えておいてください。

[page_break:競技レベルの動きを取り戻すために]

競技レベルの動きを取り戻すために

実際のプレーに近い状態で動く

 柔軟性、筋力と順調に回復してきたら今度は実際の動きで不安なくプレーできるかどうかを確認していきます。ある程度筋力が回復しても、最初のうちは「力の出し方がわからない」といったことが起こります。これは神経-筋肉の促通(そくつう:神経の命令が筋肉に伝達されること)が十分に回復していないためです。

 専門的な動きに似た動作から、徐々にレベルを上げて実際のプレーに至るまで、痛みが悪化しないように注意しながら体を慣らしていくようにしましょう。このとき練習後に痛みや違和感を感じるようであれば、必ずRICE処置を行うようにします。

 リコンディショニングの段階では「石橋をたたいて渡る」くらいの慎重さが必要となります。無理をしてしまうと痛みが再発し、以前の段階に逆戻りしてしまうからです。
「ケガをした同じシーンで、同じようにケガをしないだけの筋力・柔軟性・動きの協調性を獲得すること」がリコンディショニングのゴールと考えてください。せっかくトレーニングを積むのであれば「ケガの功名」となるように、コツコツと、そして着実にレベルアップできるようにしたいものですね。

リコンディショニングの考え方


●ケガをした状態から競技復帰までコンディションを戻していく=リコンディショニング
●ケガの急性期はRICE処置で対応
●患部が安定してきたらまずは柔軟性を回復させる
●柔軟性・筋力・動きの協調性と段階的にすすめる
●左右を比較しながらチェックするとよい
●リコンディショニングの段階で痛みが残るようであればケアとしてRICE処置を行う

 (文=西村 典子

次回、第94回公開は6月15日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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