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ボールが身体に当たったとき

2011.05.15

第20回 ボールが身体に当たったとき2011年05月15日

ボールが身体に当たったときの対応

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

皆さんの中には、野球の練習や試合中に思わぬケガをしてしまった経験があるかもしれません。第1回コラム「ケガは予防できる」でも書きましたが、ケガには予防できるもの(スポーツ障害)と突発的に起こってしまうもの(スポーツ外傷)があります。特に野球はボールにまつわる突発的なケガが起こりやすいスポーツです。今回はボールが身体に当たった時の対応についてお話をしたいと思います。

ボールが身体に当たる場面でまず思い浮かぶのがデッドボールです。これは打者が投手からのボールをよけきれず当たってしまうことですが、もちろん故意ではなく突発的な出来事といえます。その多くは腕や手、膝や足付近などバッターボックスの投手側に近い側面に当たります。当たった直後にさほど痛みがなかったり、動きに支障がなかったりする場合はそのままプレーを続行させますが、歩くことが困難であったり、スムーズに動作が行えない場合は交代し(場合によっては臨時代走を起用し)RICE処置を行う必要があります。明らかな変形や激しい痛み、広範囲に及ぶ腫れや熱感が見られる場合は骨折している疑いがありますので、患部を冷却しながら動かないように固定をし、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。


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応急処置の基本はRICE

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またバッターボックス内では自分の打ったボールを自分に当ててしまう自打球もよく見られます。足元などにあたる場面が多いですが、こちらもデッドボール同様、プレーが困難な場合は交代してRICE処置を行う必要があります。特に足の甲付近は骨折をしやすい部分でもありますので、歩行に支障がある場合は骨折を疑って医療機関を受診するようにしてください。
このような打撲を避けるためにはフットガードやエルボーガードなど、身体を保護するバッティング用プロテクターが有効です。

よくファーストコーチャーがコールドスプレーを吹きかけて痛みを緩和させている場面を見かけますが、これはあくまでもその場での痛みの緩和であり、応急処置としては一時的なものです。皮膚の上から患部を冷やすことで痛みの感覚は麻痺しますが、その冷却効果は数秒程度であり、その後起こる腫れや熱感、炎症などを抑える効果は期待できません。プレーを続行する場合も、試合後には必ずRICE処置を行って患部を冷やすように心がけましょう。

頭部・頸部付近にボールが当たった場合は意識の確認を行い、必ずいったんプレーから離れるようにします。今、何をしていたのか、今日は何月何日か等、状況の説明がうまくできない場合、ふらつき感が残る、気分が悪い等の症状がみられる場合はすみやかに脳外科医の診察を受ける必要があります。頭部・頸部への激しい打撲があった場合は症状がみられなくても向こう24時間は安静にしておくこと、また一人ではなく必ず誰かが状況を確認できる体制をとるようにします。


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応急処置の基本はRICE

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守備の時にボールが当たる場面といえばイレギュラーバウンドによるものです。捕球態勢に入りながらもボールのバウンドが急に変わることで思わぬ方向にボールが跳ね、身体に当ててしまうことがあります。特に顔面は鼻骨、頬骨(頬の出っ張ったところ)、眼窩(目の下)付近は骨折をしやすい箇所であり、骨折の程度によっては手術が必要な場合もあります。顔面の打撲では形成外科のある総合病院を受診することが理想的であり、目の付近であれば眼科も合わせて受診します。病院に一度連絡を入れ、状況を説明して受け入れ可能かどうかを事前に確認すれば、スムーズに搬送、受診できます。

歯にボールが当たって抜けてしまったり、欠けてしまったりした場合などはすみやかに歯科医を受診します。このとき抜け落ちた歯は時間が経つにつれてうまく適合できなくなりますので、時間との勝負でもあります(目安は30分程度!)。歯が乾燥しないように口の中に入れた状態で唾液で保存しながら病院へ行きましょう。またこれは直接歯科医の先生に教えていただいた話ですが、自宅などで準備できるのであれば、抜け落ちた歯を卵白にひたした状態で持参するとより適合効果が高いそうです。

またボールを胸に当ててしまった場合は、すぐにプレーをとめて選手の状況を確認してください。中・高校生の成長期の選手達は心臓を守っている胸郭が成人に比べて柔らかいという特徴があります。胸(特に左胸)に激しくボールが当たることで「心臓震盪」と呼ばれる重篤な状態を引き起こすことがあります。心臓震盪が続くと心臓は止まってしまいます。このような状態は一刻を争うものであり、すみやかにAED(自動対外式除細動器)を使用しなければなりません。また同時に119番通報をして救急車を呼ぶようにしましょう。救急車が到着するまでの間は救命のための心肺蘇生を行います。


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応急処置の基本はRICE

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ボールが身体に当たる場面というのを思い起こすと、非常にいろんな状況が考えられます。選手はプレーを続行したいという気持ちや周囲を心配させたくないという気遣いから「大丈夫」ということも多いですが、「大丈夫」という言葉をそのまま受け取るのではなく、客観的な判断から適切な対応を行うように心がけてください。またいろんな部位への打撲とその対応について書きましたがあくまでも参考にとどめていただき、迷ったらすぐに医療機関を受診するということを徹底していくようにしましょう。

【ボールが身体に当たったときの対応】
●「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、腫れや変形、動きの程度など客観的に判断する
●当たった部位をまずはRICE処置
●コールドスプレーでの応急処置は一時的なものと心得よう
●頭部・頸部への激しい打撲時は向こう24時間は安静、就寝時など一人にしないこと
●顔面への打撲の場合は形成外科のある総合病院へ
●歯を損傷した場合はすみやかに歯科医へ
●胸を強打した場合はすぐに状況確認を。意識がない場合はAEDを使用してすぐに救急車を手配する

(文=西村 典子

次回、第21回公開は05月30日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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