空前の盛り上がりの中で終わった「清宮の夏」【西東京大会総括】
清宮幸太郎(早稲田実業)
前売り券は完売し、ネット上では高値で売り出された。当日券も試合開始2時間前に売り切れとなり、[stadium]神宮球場[/stadium]周辺にはチケットを買えなかった人が多くいた。早稲田実業の怪物・清宮 幸太郎が登場し、全国的に注目された西東京大会決勝は、今後も語り継がれるだろう。球場はさながら「清宮祭り」の様相を呈していた。
しかし夏の大会はお祭りムードであっても、負ければ終わりの冷酷な勝負の世界である。清宮絡みのエラーが失点につながり、早稲田実業は敗れた。それでも高校入学前から注目され、高校野球を盛り上げた清宮の功績は大きい。清宮ブームに便乗したにわか高校野球ファンの中から、どれだけの人が本物の高校野球ファンとなるかは、高校野球ファン層の拡大には重要だ。
また、雪山 幹太・野村 大樹のバッテリーなど、残った1、2年生が秋以降、どのような結果を残すかも注目される。
東海大菅生優勝の原動力になった2年生野手の成長
早稲田実業、日大三の2強対決が注目された西東京大会は、東海大菅生の優勝で終わった。春季都大会の4回戦で、東海大菅生が日大三に敗れたものの、3回以降は得点を許さなかった試合をみて、夏、2強を破るとすれば東海大菅生だという見方は広まっていた。
秋季大会は背番号1で若林 弘泰監督が「本来ならドラフト候補になれる」と語っていた松本 健吾は、内角を突ける制球力と、勝負度胸を身につけて、優勝の立役者になった。これまで守備の人の印象のあった田中 幹也が、打率5割の5盗塁の活躍。田中と同じ2年生の片山 昂星が4番に定着したのも大きかった。
早稲田実業も日大三も甲子園に行けば優勝候補だっただけに、この両校を破ったことは自信になる。複数の投手を擁しながら、西東京大会では松本に頼りがちだった他の投手がどこまで奮起するかが、上位進出のカギになる。
2本柱故障の中、力尽きた八王子
松本健吾(東海大菅生)
日大三は初戦の国学院久我山戦をはじめ、都立総合工科戦(観戦レポート)と、かみ合わないまま敗れた感じだ。投打の中心の櫻井 周斗、怪力・金成 麗生など、戦力的には充実していたが、流れをつかめないと、負けることもあるのが野球の怖さである。
秋、春と4強の国士舘も、日大二にあっけなく敗れた。逆に日大二は準決勝でも東海大菅生に善戦。打線の粘りが素晴らしかった。昨夏優勝の八王子は、甲子園を経験した2本柱の米原 大地は腰、早乙女 大輝は肘を痛めて本来の投球ができなかった。それでも、黒田 将希、山根 響、高橋 優介といった1年生が活躍し、公式戦初登板の村田 将輝が好投するなど選手層の厚さをみせた。
2本柱が本調子でない中、延長15回引き分け再試合があったことは、投手のやり繰りという面では厳しかった。早稲田実業戦(観戦レポート)で米原は、最後に残る力を振り絞って投げていた。敗れはしたが、その顔はすがすがしかった。
大会を盛り上げた都立練馬、八王子北などの都立勢
優勝を目指すうえではダメージになったが、八王子と創価の延長15回で引き分けた試合は素晴らしかった。特に八王子は、幾度もサヨナラの危機を迎えながら、1年生・高橋 優介の好守などで切り抜け、引き分けた。
秋、春と公式戦で1勝もできなかった都立練馬が、シード校の佼成学園を土俵際まで追い詰めた試合も強い印象を残した。桜美林に勝った都立八王子北、日大三を苦しめた都立総合工科、国学院久我山、東海大菅生に善戦した桐朋、33年ぶりに準々決勝に進出し、秋は大敗した早稲田実業に、後半は互角の試合をした日本学園、早大学院を破り、国士舘とも互角の試合をした都立松が谷などの戦いも大会を盛り上げた。
来年は第100回大会である。と同時に3年間大会を盛り上げた清宮のいない大会でもある。熱気を次の時代に引き継ぐためにも、質の高い熱戦を期待したい。
(文・大島 裕史)