試合を支配した94球の完封劇 奥川恭伸(星稜)はやはり次元が違う
大会2日目第3試合。早くも大会ナンバーワン右腕・奥川恭伸(星稜)が登場した。強打の旭川大高相手に3安打完封勝利。前評判通りの快投を見せた奥川を振り返る。
伝説を残す余地あり
奥川恭伸(星稜) ※共同通信
改めて難攻不落の存在だ。緊張がかかる初戦。ここまで多くの学校が甲子園の雰囲気にのまれながら、敗れる姿を見ているだけに3度目の甲子園のマウンドとなった奥川は簡単に崩れない安定感があった。
まず立ち上がりが圧巻だった。まず1番佐藤は外角へ153キロストレートで空振り三振。2番持丸は148キロのストレートで1ストライク、2球目は130キロのスライダーで2ストライク。3球目は151キロのストレートで見逃し三振。そして3番菅原は2ストライク1ボールから131キロの縦スライダーで空振り三振。おそらくフルスロットルで投げたのだろう。全く打たれる予感がしなかった。
153キロを出したことについて奥川は明確な狙いがあった。
「150キロ以上を出すことで球場が沸けば、球場全体が自分たちを味方するといいますか、自分たちに流れが持っていけると思いますので、狙いにいきました。センバツでもそれを狙いに行ったのですが、センバツの151キロより速い153キロが出てよかったと思います」
と笑顔を見せる奥川。奥川のゲームメイク能力の高さがうかがえるコメントだが、狙って150キロを出しても抑えられるわけではない。150キロ出して、切れのある変化球を投げ込んで三者連続三振を奪うあたり、次元の違いを感じる。
2回以降の奥川は9回までハイクオリティの投球を続けるために力の入れ加減を行う。140キロ中盤の速球、スライダーを投げて打たせて取る投球を見せ、要所で150キロ台の速球を投げ、打たせない。また、130キロ前後のチェンジアップ、縦スライダー、スライダーを交え、要所で三振を奪う配球も光った。
そして9回裏、一死から2番・持丸泰輝にあわやホームランの右飛があった。これにはさすがの奥川も「チェンジアップが甘く入ってしまい、まずいと思いました」と冷や汗。それでも最後の打者を抑え、危なげない投球で3安打完封。センバツに続き、初戦を完封発進した。
この試合は先行したものの、なかなか追加点を奪えず、苦しい試合展開。奥川自身も9回表に犠打失敗している。普通ならば動揺する場面だが、奥川は全く焦りがみられなかった。
「淡々と投げることを意識しました」
奥川自身、バント失敗はまずいと思っていても淡々とした投球を心掛ければ、焦ることはない。最後まで完璧さが伺えた94球の完封劇だった。
「94球で終えられたのは想定よりも少ない球数でした。まだ今日の投球については50点の投球ですし、まだ課題が多く見られた試合でした」
自身の投球に満足する様子はない。奥川は自己採点が厳しい男だ。5日でのブルペンピッチング。捕手を座らせて投げ込む奥川の投球は本当に素晴らしいストレートだった。それでも奥川は「まだ不安があります」といい、コーチにフォームを撮影してもらいながら、サイドスローで投げたり、マウンドから遠ざけて投げる工夫がみられた。自分の状態を高めるために奥川はいくつものの引き出しを持っている。そういう姿勢が今日の完封劇につながったのだろう。
「まだまだよくなると思います」
その言葉通りいけば、奥川はこの大会でさらなる伝説を残すはずだ。
(記事・河嶋 宗一)
関連記事はこちらから
◆世代ナンバーワンピッチャー・奥川恭伸(星稜)は野球頭も一流だった【前編】
◆高次元なピッチングは理解力の高さから生まれる!奥川恭伸(星稜)【後編】
◆【BIG5特集】奥川恭伸(星稜)高校生レベルを超越したテクニシャンピッチャー
◆奥川恭伸、さらなるステップアップへ。全国トップクラス・東海大相模打線と対戦して学んだこと