桐光学園vs横浜
桐光学園143キロエース・針谷隼和が横浜を封じる 敵将、指揮官も賞賛の1失点完投勝利
桐光学園先発・針谷隼和
<春季神奈川県大会:桐光学園7-1横浜>◇準々決勝◇24日◇保土ヶ谷スタジアム
準決勝最後の1枠を争って、桐光学園と横浜の神奈川の名門同士が激突。結果は初回からリードを作った桐光学園に軍配が上がることになったが、この勝利はエース・針谷 隼和投手(3年)の活躍抜きには語れない。
強打の横浜打線を相手に9回124球、被安打6、与四死球4、奪三振7、失点1とエースとして堂々たる結果。打者としても2安打1打点と、投打で活躍した。
その代償に、7回にマウンドで足がつってしまい、給水をするなど応急処置をすることになったが、最後までマウンドを守り抜いた。指揮官の野呂監督は針谷にアクシデントがあったものの、「抜ける球がなかったので、安心して見ていられました」と話し、針谷の出来に満足している様子だった。
軸足をあらかじめ曲げてセットポジションに入ると、ゆっくりと始動。遊撃方向に左足を蹴りながら体をねじって、軸足へさらにタメを作ると、開きを抑えつつも重心をきっちり前へ運んで、右腕を振り切る。全体的に力感なくコンパクトな縦回転のフォームからは、見た目以上に伸びている真っすぐが投じられていた。
野呂監督も「真っすぐが走っていたので、変化球はあまり投げなかったと思いますし、もし抜けても、真っすぐに生きるような形になっていたと思います」と針谷の状態の良さを改めて話した。
ライバル相手に好投できたのは偶然ではない。野呂監督は「この1週間くらいで、自分のフォームが固まってきました」と直近での成長ぶりを語る。その点は本人も自覚があり、重点的に意識したのは左足だという。
「ずっとフォームで悩んでいました。特にゆっくり着地できるように、監督からも指導を受けてきたのですが、それをつかんできたところがあると思います。そのおかげで制球力が高まって、ピッチングが良くなってきました」
また、これまでに比べてタメを作るようになったと思われる軸足についても、同校OBで現在は社会人野球・ENEOSでプレーする柏原 史陽投手より指導を受けて重要性を再確認してきたという。
対戦した横浜の村田監督も「直球で来ると思っていたんですが、打席の中で見逃すことが多く、振りながらタイミングを合わせるような対応ができなかった。その時点で勝負に負けていると思いますが、夏に向けてはああいう投手と対戦できたのは良かった」と好評する。
下半身の力をしっかり使えるフォームが実現したといっていい針谷。あと1つ勝てば関東大会が決まる。昨年も出場している大会で、自身も経験している。2012年の夏の甲子園以来となる10年ぶりの出場へ、貴重な公式戦の機会をつかむことができるか。最速143キロを誇る桐光学園の背番号1に注目だ。
[page_break:野手も逸材揃う桐光学園 強打の捕手に名手。期待の1年生も]野手も逸材揃う桐光学園 強打の捕手に名手。期待の1年生も
桐光学園9番・中村優太
<春季神奈川県大会 桐光学園7-1横浜>◇準々決勝◇24日◇保土ヶ谷
針谷 隼和投手(3年)の好投で桐光学園は横浜高を下したが、野手陣にも目を向けると実力者が今年もそろった。
女房役・石井 嘉朗捕手(3年)は横浜戦で3番に座ったが、初回のホームランを含む3安打1打点の結果。女房役として、針谷へ援護射撃をしてきた。
あらかじめトップは深めにとった状態でタイミングを取る。ステップした時に左肩が若干下がるところがあるが、そこが逆に強みになっていた。
初回のホームランのように低めの球を上手く、すくいあげることはもちろんだが、高めから真ん中付近の球については、バットの出し方はレベル気味に振り出して球の下半分を捉える。強烈なドライブ回転をかけるようにしてはじき返すようにして、痛烈な打球を飛ばしていた。まさにスラッガー気質のバッターだった。
そんな石井とともに、横浜戦で活躍が目立ったのは、7番二塁・米山 幸汰内野手(3年)だ。
初回から横浜高3番・玉城 陽希捕手(3年)のセンターへ抜けそうな打球を逆シングルで捕球。続く5番・板倉 寛多内野手(3年)の内野安打をすぐに二塁へ転送してアウトをもぎ取った。
その後もランナーと打球が重なる難しいプレーも、執念でアウトにするなど、終始守備で存在感を放った。
定位置は完全に芝に入るほど深くしておきながら、インパクトに合わせてスプリットステップを入れることで、打球に対して1歩目を素早く出せるように工夫しているのが見受けられた。針谷や石井のような派手さはないかもしれないが、堅実かつ確実にアウトを取る米山の存在は、桐光学園の守備には欠かせない。
そして1年生ながらスタメンに名を連ねた矢竹 開外野手と中村 優太内野手の2人も光るものを見せた。
矢竹はヒットのため全力疾走ではなかったものの、手動計測で一塁到達は4.1秒を記録した。全速力であれば、4秒を切れる脚力はあるだろう。
中村は打撃に課題はあるが、守備は軽快。7回にはイレギュラーした打球に対して反応してアウトを演出。中村の守備については野呂監督も「ここまでよく守ってくれている」とこの試合を含めて守備には一定の評価を置いている。
スラッガーに守備職人。さらに期待のルーキーとバリエーション豊かになっている桐光学園ナイン。準決勝の戦いぶりも楽しみだ。
そんな桐光学園は初回に、3番・石井のライトへのホームランで主導権を握ると、4回には4番・今井 海翔外野手(3年)のヒットでチャンスを作ると、6番・針谷の適時打と7番・米山の犠牲フライで2点を追加。3対0とリードを広げた。
6回、7回にも追加点を重ねた桐光学園は、7対1で最終回を迎えると、エース・針谷が得点圏にランナーを背負いながら0点に抑えてゲームセット。横浜高を下して準決勝へ勝ち上がった。
[page_break:成長を見せた横浜2年生エース・杉山遙希 世代No.1左腕を目指して]成長を見せた横浜2年生エース・杉山遙希 世代No.1左腕を目指して
横浜高先発・杉山遙希
<春季神奈川県大会:桐光学園7-1横浜>◇準々決勝◇24日◇保土ヶ谷スタジアム
桐光学園の前に1対7という結果で敗れた横浜。試合後半からはコールドも危ぶまれるなど、苦しい試合となってしまった。指揮官の村田監督は試合後の取材で開口一番に「力不足です」とチームの現状を振り返った。
夏の甲子園を終えてから新チームとなって迎えた秋季大会は、新型コロナウイルスの影響で辞退する形で終えた。迎えた春季大会も8強まで残ったとはいえ、球場での試合は今回で3回目だった。しかも有観客という状況で、選手とってあまり経験していない環境での試合だった。そうした点も踏まえて「経験不足ですが、若いチームなので、これを夏にどう生かすかだと思います」と敗戦を真摯に受け止め、連覇のかかる夏に向けて気持ちを切り替えていた。
ただ、今回でエース・杉山 遙希投手(2年)は成長した姿を見せ、確かな爪痕を残したといっていい。
「後ろにもピッチャーがいましたし、『行けるところまで行こう』と監督にも言われていたので、飛ばしました」という杉山は、立ち上がりに桐光学園3番・石井 嘉朗捕手(3年)に1発は浴びたものの、アウト3つはすべて三振。2、3回も危なげない投球を見せた。
ノーワインドアップから左足1本でバランスよく立つと、開きを抑えつつ内旋させた右腕でリードして体重移動。最後に胸をしっかりと張って、鋭い回転に合わせて左腕を振り下ろす。勢いあまって帽子が何度も落ちるほどだったが、本人の中では調子のよいバロメーターとのこと。それだけ杉山は準々決勝に向けて万全を期してきた。
球の角度はもちろんだが、指先にかかったときの直球には迫力があり、見ていて爽快感すらあるくらい走っていた。あくまで球の切れで勝負したいと本人は話すが、140キロ近くを計測するそうで、勢いを感じるのも納得がいく。
また、小さく変化するカットボール系の変化球もコントロールされており、早いカウントから勝負できていた。事実、3回まで打者11人に45球と、打者1人につき約4球で勝負していた結果になり、3回までテンポは良かった。
ただ4回は違う。一気に3連打を浴びるなど2失点で、突き放される形となった。杉山も「ランナーが出るとリズムが崩れ、球威が落ちたり、甘い球が増えて打たれてしまった」。変化球が甘いところに入ったところを桐光学園各打者にはじき返されていた。
投げている球に成長が見られたが、投球術に課題が残った。この春、センバツを観戦し、大阪桐蔭の同級生左腕・前田 悠伍投手に刺激を受けたが、彼と投げ合うためにも夏は勝つしかない。「エースとしての自覚を持ってやりたい」と話していたが、その成果がどんな結果を導くのか。名門・横浜高の2年生エースの今後に注目だ。
(取材=田中 裕毅)
[page_break:両校のスタメン]横浜
1番(二)緒方 漣(2年)
2番(右)岸本 一心(3年)
3番(捕)玉城 陽希(3年)
4番(中)萩 宗久(3年)
5番(三)板倉 寛多(3年)
6番(一)山﨑 隆之介(2年)
7番(投)杉山 遙希(2年)
8番(左)大坂 啓斗(3年)
9番(遊)鋒丸 蒼太(3年)
桐光学園
1番(三)篁 哲郎(3年)
2番(中)矢竹 開(1年)
3番(捕)石井 嘉朗(3年)
4番(右)今井 海翔(3年)
5番(左)磯貝 一斗(2年)
6番(投)針谷 隼和(3年)
7番(二)米山 幸汰(3年)
8番(一)小澤 勇輝(3年)
9番(遊)中村 優太(1年)