Column

ベンチワークで明徳義塾に守り勝った智辯学園

2021.08.27

ベンチワークで明徳義塾に守り勝った智辯学園 | 高校野球ドットコム
智辯学園ナイン

 智辯学園は大きな勝利を手にした。強力打線と好投手2人を擁して優勝候補の呼び声高かった。明徳義塾との大きな一番が優勝への大きな壁となると思っていた。そこで勝ち取ったサヨナラ勝ち。「優勝」への大きなステップとなる一戦だったと思う。

 9回に1点を勝ち越され、迎えたその裏。岡島 光星のサヨナラ打で劇的な勝利を収めたが、勝利のポイントはその前にあった。

 9回表、ソロ浴びた直後、智辯学園の小坂監督は、それまで好投を続けてきた西村 王雅から小畠 一心にスイッチさせた。あらゆる「危機」を取り除く決断だった。

 まずは西村の精神的な疲労からくる、その後の失点の「危機」からの回避。西村は何を仕掛けてくるか分からない明徳義塾打線を相手に、マウンドで神経を使っていた。7回は一塁走者をケアしすぎるあまり、安打を浴びて一死一、二塁のピンチを背負った。最後は内角直球を左翼フェンスぎりぎりまで運ばれた。前川のスーパーキャッチに助けられていたが、球威が落ちていた。代木に許した一発も直球。小坂監督も、それを感じ取っていたから、決断は早かったのだろう。

 さらに、明徳義塾打線を目覚めさせたくなかった。高知大会から甲子園まで、好投手を攻略してきた明徳打線は、いわゆる「かさにかかって攻める」パターンが多かった。それを防ぐために、力で押すタイプの違った投手をぶつけた。

 案の定、交代直後に山蔭がセーフティーバントを仕掛けてきた。山下主将の冷静な守備でアウトにしたが、投手交代の一呼吸がなかったら、うまくいったかどうか分からない。その後、満塁のピンチを招くがが、力で押し切った小畠が内野ゴロ併殺で乗り切った。押せ押せムードの明徳に「仕事」をさせなかった。

 今大会は表の攻撃で勝ち越しても、その裏に逆転するパターンが多い。試合途中でも1点は取られても2点目以降を防ぐことで、相手に完全に流れをもっていかれなければ、逆転するチャンスはある。守りの上での粘りが最終的に勝ちにつながっている。

 この試合も4回に明徳義塾が先制するが、その後の二死二、三塁をしのいだ。するとその裏に智辯学園が同点に追いついた。しかし、その後の一死二、三塁を、明徳義塾の守りが防いで、終盤まで互角だった。お互いにもう1点をどう取るか、どう守るか。そこがポイントだったかもしれない。

 だから智辯学園・小坂監督は9回裏に無死一塁でも送らず強行させた。捨て身の戦法ではあるが、1点を取りにいかずに2点を取りに行った。動揺したマウンドの明徳義塾・吉村にピンチを乗り切る精神力は残っていなかったのかもしれない。満塁から死球、サヨナラ安打…。智辯学園は流れに任せればいいだけだった。

 あともう一押し、ダメ押しができるかどうか。準々決勝第4試合も、神戸国際大附が9回二死から4点を奪って追いついたが、追い越すことができず、その裏にサヨナラ負けを喫した。思い起こせば、大阪桐蔭近江に逆転されたように、横浜に9回に逆転サヨナラ3ランを打たれた広島新庄のように、あと1点取っていればと悔やまれる試合は多かった。

 しかし、あと1点取れなかったから弱かったわけではない。あと1点をやらなかった方が強かっただけだ。

(記事:浦田 由紀夫

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.05

【関東】常総学院、花咲徳栄などが関東大会進出!5日の山梨準決勝で出場校がすべて決定!

2024.05.05

【春季埼玉県大会】花咲徳栄9回一挙5得点!山村学園のプロ注目左腕・西川を攻略し逆転で関東大会へ!

2024.05.05

【岩手】花巻東が第1代表掴む!大船渡、盛岡中央などが敗者復活戦で代表<春季地区予選>

2024.05.05

【福井】福井工大福井がサヨナラ勝ちで5年ぶり優勝!敦賀気比を破って北信越大会出場も決める!<春季県大会>

2024.05.05

【群馬春季大会】樹徳が10年ぶり関東大会出場!バッテリーが勝利の立役者に!

2024.05.01

春季大会で頭角を現した全国スーパー1年生一覧! 慶應をねじ伏せた横浜の本格派右腕、花巻東の4番、明徳義塾の正捕手ら入学1ヶ月の超逸材たち!

2024.04.30

大阪大などに卒業生を輩出する進学校・三国丘  文武両道を地で行く公立校は打倒・強豪私学へ「何かしてやりたい」

2024.04.30

【岩手】宮古、高田、久慈、久慈東が県大会出場へ<春季地区予選>

2024.05.01

【神奈川】関東大会の切符を得る2校は?向上は10年ぶり、武相は40年ぶりの出場狙う!横浜は6年ぶり、東海大相模は3年ぶりと意外にも遠ざかっていた春決勝へ!

2024.04.30

【山口】宇部鴻城が西京を下して7年ぶり優勝!<春季大会決勝>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>