Interview

中学時代は公式戦出場1試合のみの山口竜平(近大泉州)はいかにして通算34本塁打のスラッガーに化けたのか

2020.07.17

 中尾純一朗斎藤佳紳と好投手を二人擁する近大泉州において、打の中心選手として活躍しているのが山口竜平。1年秋から4番に座り、これまでに高校通算34本塁打を放っている。今でこそ大阪屈指の強打者として存在感を示しているが、中学時代はほとんど試合に出場することがない控え選手だった。この3年間で彼はどのようにして成長を遂げたのだろうか。

近大泉州によって身につけた確固たる技術と自信

中学時代は公式戦出場1試合のみの山口竜平(近大泉州)はいかにして通算34本塁打のスラッガーに化けたのか | 高校野球ドットコム
ティーバッティングをする山口竜平

 大阪府藤井寺市出身の山口は友人に誘われる形で、小学1年生の時に藤井寺南ビクトリーズで軟式野球を始めた。中学では藤井寺ボーイズに所属。しかし、「自分のレベルが低くて、試合にはあまり出させてもらえなかったです」と控えに甘んじた。3年間で公式戦に出場したのはわずか1試合。中学時代には全くと言っていいほど実績を残すことができなかった。

 そんな中でボーイズの指導者の勧めもあり、近大泉州に進学。「色んな人を見返してやろう」と意気込んで高校野球生活をスタートさせた。

 近大泉州に入学した山口に誰よりも早く目をつけたのが清水雅仁監督だ。指揮官は中学時代に控え選手だった山口に対して、「4番を打て」と命じたという。その言葉を聞いた山口は「本当に自分で大丈夫か?」と思ったそうだが、清水監督は山口の綺麗なスイングに可能性を見出しており、将来の4番打者として期待をかけていた。

 入学当初こそ結果を残すことができなかったが、「だんだん試合にも出させて頂いて、結果を出せたら自信に繋がりました」と徐々に台頭を始める。すると、1年秋から4番を任されるようになった。レギュラーになれたことによって、山口は新たな野球の面白さを見つけることができたという。

 「最初は自分にレギュラーが務まるか不安でしたが、先輩に『お前が打たないと勝てない』と言われて、やっと他の人に認めてもらえたのかな、と思いました。中学の時は試合に出られてなくて、あまり野球が楽しくなかったのですが、高校になって試合に出させてもらって、野球のまた違った面白さが見えてきました」

 高校で成長できた理由について、「清水先生に目をつけて頂いて、技術や考え方、自分に合った練習を教えてもらって、結果に繋がっていると思います」と話す山口。特に印象に残っている練習がタイヤ叩きだという。

 2年の夏を迎える前に清水監督は山口を真の4番として育てるために一つのタイヤを潰すように指示した。全体練習後の自主練習では、「毎日やっていて、嫌になった」と思うほど一心不乱に一つのタイヤを毎日300回叩き、約1ヶ月半で潰すことに成功した。この試練を乗り越えた山口は本塁打を量産。1年生で9本塁打だったのが、2年生では倍以上となる25本塁打を放った。

 取材日にもシート打撃で逆方向に2本塁打を放つ姿が見られた。山口の打撃は打球方向に関係なく、ムダな動きの少ないスイングで強い打球を放つことができるのが特徴だ。逆方向への打撃は流し打ちと言うよりはレフト方向に引っ張るという表現が正しいのではないかという印象を受ける。打撃での考え方について山口は次のように語ってくれた。

 「体を開かずに、我慢してギリギリまでボールを呼び込んで力強いスイングをしたら、金属バットでは飛んでいくと清水先生に言われました。タイヤを叩くときもそれを意識していました」

 体を突っ込ませることなく、自分のポイントまでボールを呼び込むことで広角に強い打球を打つことができる。軸が簡単にブレないスイングは相手バッテリーにとっても厄介なのではないだろうか。

[page_break:自分次第で道を変えることができる]

自分次第で道を変えることができる

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山口竜平

 誰もが認めるチームの主砲となった山口は最上級生になると、部員間の推薦により主将に就任。小学生の時に主将を務めた経験はあったが、「正直、自分に人をまとめる力がなくて、不安はありました」と当時の胸の内を明かす。それでも、「キャプテンが迷ってしまうと、チームがまとまらない」と堂々たる姿勢でチームを引っ張っている姿が練習を通じてみられた。

 上位進出を目指した昨年の秋は3回戦で東海大仰星を相手に0対1で敗戦。「ピッチャーが少ない失点で抑えてくれたのに、打者が応えられませんでした。無失点に抑えられると焦りが出て、いつも通りのプレーができなかったのが敗因だと思います」と打撃陣の不振を悔やんだ。

 得点力不足を解消するためにこの冬場はウエイトトレーニングや重いバットを使用した打撃練習で筋力アップに励んできた。こうした練習の成果もあり、各打者の飛距離はみるみる向上。山口はチームの成長に手応えを感じていた。

 「春先には体が一回り、二回り大きくなって、ホームランを打てるバッターが増えてきたように感じました。毎日、重いバットで振っていると、普通のバットに持ち替えた時に軽く感じて、スイングスピードが倍になったように感じます」

 春には秋と違った姿を見せるつもりだったが、新型コロナウイルスの影響でその機会は訪れなかった。4月に緊急事態宣言が出てからは実家に帰り、限られた環境の中で練習を続けてきた。

 全体練習が再開されたのは、夏の甲子園中止が決定した後だった。「みんなモチベーションは下がっているかなと思いましたが、3年生からあと1ヶ月で追い込んでやろうという気迫が感じられました」と山口の心配をよそに同級生たちはモチベーションを高く保っている。最後の夏に向けて、山口は次のように意気込みを語ってくれた。

 「あまりここまで結果を出せなかったので、この大会は結果にこだわって勝ち上がって、強豪校に勝っていきたいです。ここまでチームにあまり応えられていなかったので、最後は苦しい場面でチームを救うような一打を打ちたいと思います」

 初戦の対戦相手は強豪の大阪偕星学園に決まった。簡単に勝てる相手ではないが、3年間の集大成としては申し分ない相手だ。強敵相手にどんな試合を見せてくれるだろうか。

 中学時代にほとんど試合に出られなかった選手が努力を重ねて高校では不動の4番打者になった。彼のようなサクセスストーリーは試合に出られない中学生の希望となるだろう。最後に近大泉州を志す中学生にメッセージを送ってもらった。

 「自分もそうでしたが、中学でベンチでも、ここ(近大泉州)に来たら努力次第で成長できると思います。ここは上手い下手関係なく、努力した選手が伸びていくと思っているので、自分次第で道が変わってくると思います」

 高校野球で過去の実績は関係ないことを証明して見せた山口。結果を残せずに諦めそうになっている球児には彼の存在をぜひ覚えてもらいたい。

(取材=馬場 遼

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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