Interview

「ライバルを超えたい」156キロ右腕・岩井俊介(ソフトバンク2位) 成長の原動力は負けん気の強さと探究心の強さ<年末特別企画・ドラフト指名5投手の成長物語④>

2023.12.30


今年のドラフト会議で、ソフトバンク2位指名を受けた名城大・岩井 俊介投手(京都翔英)。最速156キロの速球、切れ味鋭いスライダー、カーブ、スラーブを持ち味とする投手で、大学日本代表にも選ばれている。

高校時代は無名の存在で、公式戦での活躍もなかった岩井がなぜここまでの投手になれたのか。そこには負けん気の強さと研究心の高さがあった。

高校、大学でも刺激になるライバルがいた

岩井俊介(名城大)

成長のきっかけには高校、大学ともに岩井を震え立たせるライバルの存在があった。

岩井は愛知刈谷ボーイズ出身。当時から強肩で、中学1年にして、最速127キロを誇るほどだった。ボーイズの監督の縁があって、岩井は愛知を出て京都翔英に進むことになった。

しかし公式戦ではほとんど登板がなかった。当時のエースは遠藤 慎也投手(亜細亜大)だった。遠藤は140キロ後半の速球を投げ、試合も作れるプロ注目右腕。岩井もそのころから最速146キロを投げており「体作りはかなり自信を持ってやっていました」と語るが、エースの座を勝ち取ることはできなかった。

その悔しさが大学野球を続ける原動力になった。

「めちゃくちゃ悔しかったですね。『大学野球で主戦投手になって抜かしたろう』と思っていました。まだその頃はプロに行きたいと思っていても実力はなかったので、行きたいなぁと憧れ程度でした」

大学は地元に戻りたいという思いから、名城大へ進学した。しかし入学すると同学年の投手が大きなライバルとして立ちはだかる。それが、DeNA2位指名の松本 凌人投手(神戸国際大付)だった。松本は高校時代、140キロ中盤の速球を投げる全国区の右サイドとして注目されていたが、1年生から活躍を始める。

「驚きました。1年生からエースみたいな活躍で、凄いなと思いました。でもこの投手を超えないとプロにいけないなと思いました。」

最初は実力差だけではなく、気持ちの強さも違うと感じていた。

「松本は本当に気持ちが強い投手で、そこはすごいなとずっと思っていました。負けられない気持ちと尊敬の気持ちがありましたね」

そんな岩井もシート打撃で力いっぱいの140キロ台の速球を投げ込んで、首脳陣のアピールに成功。ストレートの球速も150キロを超えるようになった。体作りにも励んだ。量や質にもこだわり、そしてトレーニングでも短ダッシュ、メディシンボール投げ、体幹トレーニングなどを、欠かさず行った結果、2年夏には150キロに到達した。

「短ダッシュ、メディシンボール投げは瞬発力が上がりますし、球速アップに必要なトレーニングだなと思っています。自分にとって名城大でのトレーニングは合っていたなと感じます。2年夏の強化練習で151キロを出したのですが、大台に乗ったと実感しました」

下級生から公式戦登板を経験し、2年春には大学選手権初出場。2回戦の佛教大戦に先発し、3回2失点の力投。その後も3年春の大学選手権も近大工学部戦で5回無失点の好投、3年秋の明治神宮大会でも上武大相手に5回無失点と着実に階段を登っていた。
大舞台を経験して学んだことは、メンタルが強くなったこと。

「神宮の大舞台で経験を重ねて、良い結果を出したことで自信につながった。メンタルが強くなったと思っています」
また元中日・山内 壮馬コーチのアドバイスも大きかった。

「フラットに接してくれる方ですし、選手と同じ目線で指導してくれるので、とてもやりやすいコーチでした。自分にとって大きなアドバイスだったのは『四球を出してもいいから、思い切り腕を振ってこい』といってくれたこと。下級生から全力投球ができたのは(山内)壮馬さんのおかげです」

最終学年の飛躍につなげた投球間のスローボール調整とスラーブ習得につながった東芝戦

岩井俊介(名城大)

最終学年、さらに安定した数字を残すために、トレーニングを継続しつつ、投球練習の中身を変えた。キャッチボール、投球練習でも、たまにスローボールを投げる。それを何球も続けることがある。この調整をする投手は岩井しか見たことがない。その理由をぶつけてみた。

「シンプルにコースを狙う感覚を指先に感じるためですね。ラストイヤーを迎える冬の練習で入れてみようと思いました。指先の感覚が良くなったことで、狙った通りに投げられるようになりました」

結果として4年春は8試合で4勝1敗、防御率1.57の好成績を残した。そして大学日本代表の候補合宿でアピールし、見事に代表に選ばれた。同じ代表候補だった松本が漏れ、結果として、岩井が松本を追い抜く形で注目されるようになったのだ。

代表合宿は岩井の能力の高さを大きく証明する期間になった。岩井が投げ込んだストレートの数値が他の投手と比べても突出していた。なんと2700回転以上を計測していたのだ。

「ストレートの回転数は初めて測ったので、記録の紙をみたあと、自分の回転数をみたほかの投手から『回転数エグいな!』といわれて自分のストレートは回転数が高いんだなと実感しました」

そのストレートを投げるポイントについても語ってもらった。

「リリースまで力を入れず、リリースの瞬間に100%の力をぶつける感じです」

それはキャッチボールから現れている。とにかくゆったりと投げているように見えるのだが、その球筋は素晴らしいスピンがかかっているのだ。

キャッチボールについては「リリース直前まで力を抜いています」と並外れた回転数の高いストレートは高い意識のもとで行われるキャッチボールから実現しているのだ。

また秋からスラーブを投げ始めた。取材の際の投球練習でも披露してくれたが、打者の肩口から大きく曲がるエグい軌道だった。

「高校の時からずっと投げていたんですけど、大学に入って感覚を覚えて、春のリーグが終わってから投げまくってだんだん感覚が戻ってきています」

スラーブを投げるポイントについては、インタビューでも指の動きを交えながら解説してくれた。

「最初から手を巻いた状態で握ります。感覚的なことなので難しいのですが、少しひねるような動きで、回転をかけます。ストレートはそのまま指を本塁方向に向けて離すんですけど、スラーブは回転をかけるイメージで投げます」

スラーブを投げるきっかけは、大学日本代表として臨む日米大学野球の前に行われた直前合宿の東芝戦。岩井は延長10回のタイブレークから登板した。全力投球で常時150キロ台(最速155キロ)の速球を投げ込むが、東芝の各打者が粘られ、犠牲フライを許してしまう。東芝打線のレベルの高さを痛感し、新たな武器の必要性を感じた。

「本当にレベルが高かったです。とにかく空振りが取れない。スライダーを思い切り決めにいってもファウルで打たれますし、フォークでなんとか空振りを奪えたんです。苦しかったと思っています。

日米野球で対戦したアメリカの打者は大雑把なので、それほど苦労しなかったのですが、東芝さんは本当に凄いなと思いましたし、あのレベルを圧倒できるほどじゃないとプロで勝負できないなとめちゃくちゃ思いました。スラーブがあれば三振取れると思ったので、絶対的な変化球の習得を行いました。やはりスライダーとフォークだけではきつかったですね」

スラーブを習得し、秋のリーグ戦では6試合を投げ、3勝2敗、防御率1.77の好成績を残し、優勝に貢献。春秋と1年間通して高いパフォーマンスを発揮し、2位指名という結果を勝ち取った。岩井は「先発でも抑えでも任され、三振がたくさん取れる投手になりたいです」と抱負を語った。

ソフトバンクに入れば、さらに投手陣のレベルも高まりライバルも多くなる。一軍登板の道は険しいかもしれないが、そこでも負けん気の強さと探究心の高さを武器に成り上がり、目標とする奪三振が多い投手となって勝利に貢献してもらいたい。
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この記事の執筆者: 河嶋 宗一

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