Interview

「遠投はやらない」木村優人(ロッテ3位)を3年で22キロ球速アップさせた練習方法と高い意識<年末特別企画・ドラフト指名5投手の成長物語⑤>

2023.12.31


ドラフトでロッテから3位指名を受けた木村 優人投手(霞ヶ浦)。
185センチ80キロと体格は少し細身ではあるが、最速150キロのストレートと決め球であるカットボールは超高校級。ほかにもカーブ、ツーシーム、SFFを操り、手先も器用だ。圧倒的な伸びしろ、抜群のセンスが上位指名につながった。
そんな木村が紡ぐ言葉、練習での姿勢からは高い意識が感じられる。

最後の夏に9回大逆転負けの真相

木村優人(霞ヶ浦)

木村は兄2人の影響で、1歳の時から野球で遊ぶようになる。本格的に野球を始めたのは小学校1年生になってからだ。中学は霞ケ浦附属中の硬式野球部(ボーイズに加盟)に入り、中学でも高校と同様、投手と打者でチームを引っ張っていた。中学を卒業後はそのまま附属である霞ヶ浦高校に進学した。
「お兄ちゃん2人の影響はありました。2人とも悔しい思いをして甲子園出場できなかったので、『あとは自分しかいない』と思い、霞ヶ浦高校に進学を決めました。もともと高校では投手として勝負しようと思っていたので、投手として成長できるところは霞ヶ浦高校しかないと思ってもいました。その2点ですね。霞ヶ浦高校に進学しようと思った決め手は」

中学の最速は128キロ。当時の木村は、投手として何が必要なのかも分からず「中学まではただ投げているというか、ピッチングって何?っていう状態だったのでボールの勢いだけで打者を抑えている感じ」の投手だった。

そんな木村ではあったが生来のセンスはバツグン。高校1年生春からベンチ入り、上級生と変わらない活躍を見せた。
「良い経験をさせてもらいました。試合に出る機会というのは少なかったんですけど、数少ない試合の中でも吸収できることはあったり、最高学年になった時でも自覚というのが芽生えてきたのも、1年生の時の経験があったからだと思います」

球速もぐんぐん上がった。1年生の夏には140キロを記録、入学して半年も経たないうちに球速を10キロ以上も上げることに成功したのだ。2年時で145キロ、3年春には150キロの大台を突破した。
全国に木村の名前は轟いた。スカウトたちも動き始めた。

150キロの大台を突破して気付いたことがある。
「リリースが上手くいいタイミングでハマった時、球速が出やすのがわかりました。力を入れたというより、バランスが嚙み合ってリリースが上手くハマったところで150キロを計測したんです。力ではなく体の使い方の問題なのかなと感じた」

3年夏、木村が大黒柱の霞ヶ浦は、茨城大会の決勝まで順調に勝ち進んだ。決勝も8回まで土浦日大に3対0とリード。あと1回で甲子園だ。
しかし、9回に一挙5得点され、木村の甲子園の夢は途絶えてしまう。
「見ている方の気持ちは『大丈夫だろう』だったと思うんですが、自分は、『やらなきゃいけない、打たれたらどうしよう』という気持ちが先走ってしまったんです。8回までは自分の投球ができていて、技術面でも心配することはなかった。でも、9回におかしくなり崩れてしまいました。マウンドで精神的に追い詰められ、不利な状態になってしまった。こうした状態のメンタル部分は見直さないといけないところだと思いました。
とはいえ、一つ大きな経験ができたと思っています。次、このような場面が出てきても逃げることなくチャレンジし、自分の投球をしていきたいなと思います」。

U-18で自信を深めたカットボール

木村優人(霞ヶ浦)

甲子園出場は果たせなかったが、木村は高校日本代表「侍ジャパン」に選出された。U-18W杯を経験し、1次リーグのオランダ戦では2番手で登板、3回無安打無失点6奪三振と実力を発揮する。木村はこの大会で計3試合登板で6回、1失点と初優勝に貢献した。

「日の丸を背負って戦うこともあって、責任感がある選手が多かったです。勝ちに行く姿勢、プレーに対する気持ちなど、技術面よりメンタル面で学べたことが多かったです。最後の夏ではそういったことが足りないと分かったところだったので、U-18ではとても勉強になりました」
メンバーにはソフトバンクから1位指名を受けた今年の高校生NO.1左腕・前田 悠伍投手(大阪桐蔭)がいた。
「決勝など、プレッシャーがかかる場面でも自分の投球ができていました。自分の最後の夏の決勝とは違って『動じないメンタル』が感じられました。意識というのが一つ、二つ違うのでそういったところは真似していきたいと思いました」
木村はU-18で初めて海外選手と対戦した。
「日本と違って海外の選手は積極的に振ってくる。自分の投球を変えるのではなく、自分の投球がどれだけ通用するのかを大事にしました。この大会は変化球の割合が多かったですけど、上手くタイミングを外せました。世界でこのような投球ができたってことは自信に繋がりました」
決め球のカットボールの手応えもあった。
「この大会で一番多く投げた球種ですし、三振を一番とったのもカットボール。さらなる自信に繋がりました」

中間距離のキャッチボール、身体の連動性を意識して球速アップ

木村優人(霞ケ浦)

次に霞ヶ浦での木村の練習を見てみよう。特徴的なのは、キャッチボールで遠投を行わないことだ。
「フォームのバランスを意識して投げたいので、遠投はやらないです。中間距離(60メートル)でボールの回転を意識して投げるのが自分の中であっています。無駄に遠投をやってフォームのバランスが崩れるのが嫌なので、遠投はやりません。フォームとボールの回転を意識して体を大きく使ってキャッチボールは行っています」
投球フォームでも意識している箇所があるという。
「自分は股関節が硬く、歩幅が長くなると、どうしても体重が乗りにくくなる。半歩くらい狭めて股関節に乗るように投球しています。その感覚の方が体のキレも上がりますし、体の回転も速くなるので歩幅というのは意識して投げています」
木村は、霞ヶ浦高校・高橋監督から「股関節のトレーニングをいれてみたらどうだ」とアドバイスされ、さまざまなトレーニングをこなしてきた。
「股関節が大切だと気づき、上手く使えるためのトレーニングを行ってきました。まだまだ股関節は硬いですが、もっと使えるようにトレーニングをしていきたいと思います」
アップ時からも股関節を重点的にストレッチを行うなど、練習から股関節を常に意識していることがわかった。

3年の春に150キロを記録した木村。入学時からストレートの勢いを出すためにフォームの修正を行っていた。たどり着いたのはフォームに力感を無くすこと。現在では力感のないフォームから140キロ後半から150キロ近い球を投げられるようになった。
「どうやったら無駄なく力を伝えられるかを考えていたら『連動性』にたどり着きました。力が入りすぎていると力の行き先が分散してしまうため、リリースで120%の力をもってこれなくなってしまう。結果、力感のないフォームになり自分でも成長したなと感じています」

カーブ、カットボール、スプリット、ツーシーム…多彩な変化球

木村優人(霞ヶ浦)

手元でクッと曲がり、切れ味抜群の決め球・カットボールについても語ってもらった。
「カットボールは高校に来て最初に覚えた球種です。1年生の時に当時の先輩に『球種を増やしたいです』とお願いをして、教えてもらいました。カットボールは握りだけを変えて真っ直ぐと同じような感じで、切るというか、叩くというか、手首を逆側に捻るような感覚で人差し指にかけて投げています」

投球練習を見ていると、カーブの軌道も素晴らしい。一度、浮くような軌道でキャッチャーミットに吸い込まれるため、打者はボール球だと感じ見送ってしまう。
「カーブは自分の中でのバロメーターだと思っています。カーブの調子が悪かったらフォームのバランスも悪い。カーブがバランスよく投げられたときは思った通りの投球フォーム。自信があるというか打者のタイミングを外すボールとしてはとても有効かなと考えています」

ほかにもツーシームとスプリットを操る。
「(カーブのような)曲がる球だけでは上のレベルでは通用しないと思いました。左右両方に曲げられるようにツーシームとカットボールを投げられるようにしました。落ちるボールは上のレベルに行っても投げている投手が多いですよね。自分も上のレベルで勝負したいと思っていたので、スプリットを覚えました」
木村の器用さ、感覚の良さを物語る話だ。

最後に木村にプロでの目標を聞いた。
「プロに入ったら3年後とかには、一軍のローテーションで投げたいと思っていますし、将来的には日本球界を代表するような投手になりたいと思っています。信頼される投手になりどんな試合でも任せられるような人間に成長していきます」
プロでも、この高い意識を持ち続けて大きな成功を収めてもらいたい。

取材・文/鎌田光津希(元徳島インディゴソックス、千葉ロッテマリーンズ)

<年末特別企画・ドラフト指名5投手の成長物語>はこちら
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この記事の執筆者: 鎌田 光津希

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