川越東は、オンラインミーティングの中で選手の成長と新しい側面を発見
川越東・野中祐之監督
学校としてもオンライン化のシステムが進んでいる川越東。入学の際に、教材の一つとして生徒それぞれにタブレットが(レンタルで)渡されるようになって3年目。図らずも、今回のコロナ騒動による学校の休校要請で自粛常態が続くようになっても、いち早くオンライン授業が導入された。20分授業の6限という形で進められているようだ。
ただ、野球部としての練習は、2月27日以降は全員ではやれていないという。野中祐之監督は、さっそくZoomミーティングなどを導入して、選手たちとのコミュニケーションをとっている。また、他のアプリを使用して動画を送ったり、当初は「夏の大会はある」という前提で、夏へ向けての練習内容を書いて送ったりということを行っていた。
「技術的なことよりも、理論的なことが多いですね。オンラインで座学を進めていっているというところです。そして、活動が再開したらすぐに動ける状況にだけはしておくようにということは伝えています」
実際に、画面を見ながらのミーティングなどを行っていくと、「もっと早く、活用しておいてもよかったかな」と思うくらいに発見もあったという。
「むしろ、Zoomミーティングになって、それぞれ画面を通して選手の顔を見るようになると、今まで見たことのないような、いい表情を見せる生徒もいるんですよ。自宅なので、私服でいたりすることでリラックスしているということもあるのでしょう。それと、面と向かっての監督と選手という感じではないですから、向こうも言いたいことが言いやすいんでしょうね。夏の大会が開催されるべきかどうかということも、生徒たちの方が冷静に社会状況を見つめて判断していました」
生徒たちの新たな側面を発見したことと、心が成長していることに驚きを隠せないくらいだという。
「いや、むしろ私の方がもっと勉強しておかないといけないなと感じされられました」
野中監督は、生徒たちの大人の対応と冷静さに、監督としてというよりも、教員としてもっともっと、生徒の心理や考え方についても勉強していかないといけないという気持ちになったという。
川越東・蔭山康輔投手
夏の大会の開催に関しても、ネットなどでいろんな意見が飛び交っている中で、生徒たちは、そんな記事も読んで冷静に判断してきていた。ネット上の「野球だけが特別なのか」というような批判めいた意見に対しても、「高校野球の積み重ねてきた歴史がこういう形になっているのだと思う」、という意見や、「運営する側としては、健康面や安全面を一番重要視していくのは当然だけど、そうした中で可能性を見つけていこうという姿勢を求めていけば、早急な結論にはならないはずだ」、というような捉え方を自分の意見として語っているのだという。Zoomミーティングを進めていくうちに、一方通行ではなく、語り合えるスタイルが出来るようになった。このことで、「一歩踏み出せた」と感じているのだという。
こうした生徒たちとの関係に対して、野中監督自身も、今まではLINEで書面を送る時も、スッと思ったことを書いて送っていたのだが、現在は一つの文面を発信するにも、何度も読み直してこれでいいのかと推敲するようになったという。
「時には、生徒たちから、『ボクは規則正しく、元気に過ごせているので大丈夫ですけれども、先生の方は大丈夫ですか?』なんて気を使って聞いてくる生徒もいるんですよ。そういうのを見ると、改めて、彼らは彼らなりに今回の事態の中で成長していっているんだなぁとも思います」
こうして、野球という部分だけではなく、学校生活として見えないことが見えてきたことも大きいという。そして、そうした発見に対しては、素直に嬉しい気持ちもあるという。
学校としては6月になったら授業は再開していく方向だというが、場所柄スクールバス通学生が多くなっているので、当初は分散しての授業でフルには出来ないだろうと見ている。だから、部活動としても通常に戻るのは6月中旬くらいまでずれ込んでいくのではないかと見ている。
「時に、何の用もなくても、仲のいい監督仲間で電話で話をしたりしています。そういう横のつながりでの話も、お互いの励みにはなっています。そして、そんな時に最後に話題に出るのは、今のこの経験をした世代の子たちが、やがて指導者となって、将来、野球の現場に戻ってきて、今の経験を語り継いでいってほしい、ということです。そして、指導者として甲子園の土を踏んでくれたらそんな嬉しいことはない、ということですね」
感染症拡大による大会中止という、前代未聞のことを経験している指導者としての、心からの思いでもあるのだろう。
(記事=手束 仁)
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