選手、そして周りの人たちの命と未来を考えて。福岡県高校野球連盟が下した、苦渋の決断の裏側
5月25日、福岡県高校野球連盟は中止が決まった夏の甲子園の地方大会の代替大会の開催しないことを発表した。開催を待っていた福岡県の高校球児たちにとって厳しい現実を伝えることとなった背景には何があったのか。
自分だけはなく、他人の命も大事にした決断
福岡県内では新型コロナウイルスの感染拡大の傾向が減少傾向にあった。ただ完全に感染防止するまでに至っていない。治療薬の開発もできていない中で、命に関わる問題であることを踏まえて、選手たちの命を優先したのが福岡県高校野球連盟の考えだ。
また大会を開催した際、選手たちは学校生活で一般の生徒たちと過ごすこととなるが、万が一、選手の中で関係者がいた場合、そこで感染を拡大させる可能性が考えられる。
審判員に関しても、普段の仕事で、同じ会社の中で感染を広げる可能性がある。つまり選手や審判は、自身の安心安全だけではなく周りの人たちの安心安全も背負っていることを意識しての判断だった。
また福岡県高野連はコロナ感染のリスクだけではなく、熱中症対策による準備が例年より厳しいと考えている。
例年、夏の大会開催に向けて医療関係者には相談をして準備をしてきたが、今年に限っては判別がつかず適切な処置が遅れることでの悪化など、医療の態勢が整わないことを懸念した。
あくまで選手たちの命、そして選手たちの家族や学校の健康安全までを考えた末に、開催しない方向を発表している。そして医療とともに福岡県高校野球連盟の課題となったのが、授業時間の確保である。
福岡県内では、今回の休校期間の遅れを取り戻すべく、8月上旬までを1学期として、2学期は通常よりも1週間前倒しで始める予定だ。夏休みは結果として2週間程度まで短縮するほどの日程変更となっており、教育現場は遅れを取り戻すべく授業優先の態勢となっている。その中で、公式戦で公欠を取るのは難しいと考えたのだ。
昨年の福岡大会は133試合が開催されたが、全チームが登場するまで60試合以上を開催しており、試合数が他県と比べると圧倒的に違う。そういった中でリスクを減らし、限られたスケジュールで日程を確保し、一大会を運営するには難易度が高い。
さらに高校卒業後、就職を目指す選手は就職に必要な資格をとるべく今後開催される資格試験の受験をしなければならない。その資格試験が土日に開催されることが考えられることや、1学期が期末試験のみとなることで、テストの結果が就職に直結する。そのテストで結果を残すためには、試験前にある程度準備をする必要がある。
野球部員として最後の締めくくりとして、夏の大会の重要さは理解しつつも、一高校生として学業も両立もしないといけない配慮があった。また他の部活動も大会等が軒並み中止となっており多くの仲間たちが我慢をしている。その中でともに協力して困難に乗り越えていくことで、福岡の高校球児の矜持に繋がるといった理由もある。
実は今回の決定に至るまでに連盟の方に球児から開催の願う電話が届くなど、選手たちの開催への想いは確かに届いていた。その願いを叶えるべく、甲子園が開催される予定で大会実施に向けたガイドラインを前々から作成をして準備をしてきた。感染者を出さないためにどのような大会運営をすればいいのか、模索を続けてきた。
それでも感染のリスクを完全になくすことができず、選手たちだけではなく周りの人の命。そして将来までを見据えた苦渋の決断を福岡県高校野球連盟は25日に下したのだ。
秋の大会の開催も今後の感染拡大の状況を見ながら判断する。そして練習試合の開催は可能となっている。
(取材=田中 裕毅)
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