社会人野球に復帰した元巨人ドライチ・桜井俊貴「もう一度東京ドームのマウンドに立ちたい」
JABA四国大会準決勝で力投するミキハウス・桜井 俊貴投手
それは「驚きの転籍」であった。昨年12月に社会人野球・ミキハウスから発表された元読売ジャイアンツ・桜井 俊貴投手(北須磨)の硬式野球部入部。北須磨~立命館大を経て2015年・読売ジャイアンツにドラフト1位指名を受け、7年間でNPB通算110試合に登板し13勝12敗10ホールドの実績を残した右腕の加入もさることながら、昨年は巨人の関西・中国地区担当として泉口 友汰内野手(大阪桐蔭-青山学院大-NTT西日本)をドラフト4位指名に導いたスカウト業務からの転身。2年ぶり現役復帰もその驚きを増幅させた。
では、彼はなぜ現役復帰を決意したのか?そして新たなカテゴリー・社会人野球で何を目指そうとしているのか?桜井投手にとってのミキハウス公式戦デビューとなったJABA四国大会直後に話を聴いた。
スカウト業務を通じ湧き出た「体現意欲」
「ごぶたさしております」
9回裏に2点差を追いつくも延長10回タイブレークで王子の前に力尽きたJABA四国大会準決勝後、八尾市への帰路に就こうとするミキハウスチームバス横で顔を見合わせた筆者と桜井 俊貴投手との最初の会話はこうである。
桜井投手とは「巨人・桜井スカウト」だった昨年、一度球場でご挨拶させて頂く機会があった。その時も新人スカウトらしく一心に試合を見つめていたところを見るに、この一年間の経験が今回の現役復帰にも大きく起因しているのではないかと感じた。
「スカウトとして都市対抗予選とかを見るうちに、もう一度選手として挑戦したいと思ったので、立命館大野球部とのつながりがあってミキハウスに進みました」
現役復帰のきっかけとミキハウスを選択した理由を説明した桜井投手に、さらに問う。
「それは1年間のスカウト生活を経験したからこそ、感じたことではないですか?」
意を得たように桜井投手の唇が微笑みをたたえたまま動く。
「そうですね。野球を後ろから見る機会はこれまでなかなかなかったのですが、そこで野球の面白さを知って。そこをマウンド上で表現したいと思ったんです。まだまだ身体は動かせるので、そこを今年はやっていきたいです」
かくして今年1月、自身初となる社会人野球に身を投じて3ヶ月あまり。幸いにも「ここまで投げられるとは想像していなかったし順調に来ている」と本人も語ったように、JABA四国大会ではローテの柱として予選リーグ・明治安田生命戦、準決勝・王子戦の2試合に先発。JABA大会初勝利はお預けとなったものの、140キロ後半のストレートと130キロ前半でチェンジアップ、スプリット、スライダーを操るスタイルは巨人時代同様に健在。
ここにスカウト時代に培った洞察力を表現できる術が加われば、横浜ベイスターズで8年を過ごした後、古巣・JFE東日本で2019年・都市対抗でMVPにあたる橋戸賞に輝いた須田 幸太投手(土浦湖北-早稲田大)のような飛躍も十分感じさせてくれる投球であった。
目指す場所は赤い「mikihouse」ユニフォームでの東京ドーム帰還
今後は「打者との駆け引きをもっと上げる必要がある」と、先発登板への慣れや決勝トーナメント戦に入ると負けられない緊張感がある社会人野球に対応する緩急のつけ方も考えながら、JABA京都大会、さらに群雄割拠ひしめく中、5枠を争う都市対抗近畿地区予選へと挑んでいく。「投げる体力や技術面を充実させ、都市対抗本戦も見据えて質の高さを追求していきたい」と今後の成長ビジョンもしっかり視野に入っている。
最後にミキハウスを4年連続5度目の都市対抗へと導くキーとなる右腕へ振ってみる。
「都市対抗に出て、東京ドームのマウンドに戻らないといけないですね」
「そうですね。そこで投げてこそだと思うので」
2016年、巨人入団時と同じ「21」を背負いつつ、大阪府八尾市の市章を右袖に付けた赤い「mikihouse」ユニフォームでの東京ドームマウンドへ。「ピッチャー・さくらい」のアナウンスが拍手と共鳴する瞬間を手にする闘いは、ここからが本番だ。
(取材構成:寺下 友徳)