Column

松井秀喜が“ゴジラ”と称せられて甲子園に上陸していた時代

2018.08.22

怪物として名をはせた高校時代


星稜時代の松井 秀喜氏(写真提供 手束仁)

 メジャーリーグの舞台で活躍した二人の日本人選手、イチロー松井秀喜だが、その二人は学年にして1学年しか違わない。イチローは高校2年夏と3年春に甲子園に出場している。松井は1年夏、2年夏と3年春夏と4季出場しているが、二人が重なったのは90年夏のみである。イチローの愛工大名電、松井の星稜と共に1回戦で敗退していたということもあり、両者の対決はなかった。それに1年生から星稜の4番を任されているということで注目はされていた松井はともかくとして、イチローに関しては愛工大名電の打撃もいい鈴木という投手という程度で、甲子園ではそれほどの印象はない。

 この時代、星稜としては松井が2年の時の91年夏にベスト4に進出している。しかし、何といっても松井がメディアを含めてスポットを浴びたのは92年である。この年、星稜は春夏連続出場を果たしているが、話題としてはこの年から甲子園球場のラッキーゾーンが撤去されたということである。だから、甲子園での本塁打数はガクッと減少するのではないかとも言われていたし、その第1号を誰が打つのかということも注目された。

 そんなセンバツの大会初日に登場した星稜は、宮古との試合で松井が2打席連続本塁打して、大会タイ記録にも並ぶ7打点を挙げて「やっぱり、松井はすごい。怪物だ」という認識を新たに示すこととなった。松井は、2回戦の堀越戦でも本塁打して怪物ぶりは十分に魅せつけた。

 星稜はベスト8に進出して、天理と対戦。1対5で敗れるが、この大会のベスト4はその天理の他には東海大相模帝京浦和学院の関東勢3校が残った。決勝は吉田道(近鉄)を擁する東海大相模と、三沢興一(早大を経て巨人→近鉄)を擁する帝京との首都圏決戦となり、帝京が3対2と勝利して春は85年以来の決勝進出で初優勝を果たしている。帝京は89年夏以来の全国制覇となったが、95年夏にも全国制覇を果たすなど、この10年前後は帝京が甲子園で最も君臨した時代でもある。

 それは、83年春に当時全盛を誇っていた徳島池田に0対11と大敗したことで、「金属バットに対応できるパワーをつけなければ甲子園では勝てない」と判断した前田三夫監督が、徹底した筋力トレーニングと、いわゆる“帝京ドカ弁メシ”といわれている食事トレーニングでの身体づくりによるパワーアップの成果でもあった。
 また、怪物松井の登場も、そんな時代の流れにハマっていたのかもしれない。

 松井の怪物ぶりが神格化されていくのが、この年の夏である。石川大会を順当に勝ち上がってきた星稜は初戦で長岡向陵と対戦する。星稜は先発全員の17安打で11点を奪って大勝した。松井は本塁打こそなかったものの、強烈な三塁打を放って存在を示している。星稜の山口哲治投手も3安打で完封した。


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[page_break:5打席連続敬遠される松井秀喜の凄さ]

5打席連続敬遠される松井秀喜の凄さ


甲子園で活躍した松井秀喜(写真=共同通信社)

 そして迎えた2回戦。49番目に登場した明徳義塾との対戦となったが、初戦を観戦した明徳義塾の馬淵史郎監督は、松井の存在は抜けていると判断して、1点差以下であれば、すべて勝負はしないということを事前に決めた。その背景には、松井以下の打者は自軍の投手陣で抑えられるであろうという判断もあったからだ。松井は初回を含めて奇数回に5度打席に立ったものの、1球もバットを振ることなく、20球を見送って5敬遠ということになった。ことごとく無得点の初回以外は、すべて1点差という場面でもあったので、明徳義塾河野和洋投手はベンチの指示通り、すべての投球を意図的に外した。これが、その後物議を醸しだす大騒動となり、高野連は緊急記者会見まで開くこととなった。しかし、いずれにしてもこの5敬遠で松井の凄さを証明することとなったのだ。

 松井はこの年のドラフトで、4球団から1位入札を受け、抽選の結果巨人が当たりくじを引いて入団した。そして、その後にメジャーにも進出して活躍することは今更、ここで語るまでもあるまい。

 松井の5敬遠でことのほかスポーツマンシップが取り沙汰され、高校野球らしさを求めるという曖昧な表現が大手を振った感もあったこの年の高校野球だったかもしれない。そんな中で、優勝したのは5試合をすべて一人で投げ切った森尾和貴投手を擁していた西日本短大附だった。5試合を通じて失点は準々決勝の北陸戦の1点のみというものだったが、森尾は終始冷静な投球だった。そして、リードが広がった場面でも西日本短大附の浜崎満重監督は森尾に託しきった。

 これに対して決勝の相手となった拓大紅陵の小枝守監督は富樫富夫紺野憲治ら4人の投手を使い分けて戦っていった。「一人の投手だけでは、地区大会から甲子園までの10試合以上の戦いを見据えたときには戦いきれない」という考え方が徐々に浸透してきて、全国的にも広がってきた時代でもあった。拓大紅陵は、そんな「新たな時代の高校野球」のスタイルを具現化したかのようなものでもあった。

 なお、ラッキーゾーンが撤去された大会だったこともあり、本塁打は前年の37本から激減して14本と半分以下となった。しかし、現在では、そんな記録も忘れたかのように、いつしかまた本塁打の飛び交う高校野球となっていくことになるのである。その背景には金属パットの進化とともに、帝京が徹底して取り組んでいった筋力アップとレーニングや食事(米)をしっかり摂って身体を作っていくという考え方も定着するようになってきたということもあった。それに、この頃から徐々に、脱水症状となることを防止するためにも、適宜水分を補充していこうということや、身体づくりのためには、練習中の補食も大事な要素であるといった考え方も出始めてきた時代でもある。
 確実に、高校野球が変わろうとしていた時代でもある。

 ゴジラ松井の出現は、そんなタイミングでもあったのだ。その松井が最後の試合で1度もバットを振ることなく甲子園を去ったこと、振らせてもらえなかったことが、今になって思えば…ということではあるが、何となく次の時代の高校野球の形を暗示していたかのようにも感じられるのだ。

 この時代に変わり始めたのは高校野球だけではない。ミズノが出していたバットにも大きな変化が訪れたのだ。それは先端をキャップにするということだった。

 そして時代は1990年代に入ると用具の機能は全体的に大きな変化が生まれた。特にバットは先端を今のようにキャップ式にするといった変更がなされたのだ。

 これは、イチローが選抜に出場した1991年に金属バットの音響の規制が導入されるようになったことが背景にある。ミズノは先端まで一体化した金属バットから、先端にキャップをつけるようにした今のような金属バットに変えた。こうすることで、導入された音響規制への対策を練っていたのだった。

 さらにこの時代の金属バットのトレンドは軽さだった。各スポーツメーカーはバットの軽量化に走り、メーカー同士による軽量化合戦が始まっていったのだった。

 王貞治からイチロー松井秀喜までの40年でバットには大きな変化がもたらされてきた。木製から金属、そして今のようなキャップ式の採用といった既に今の金属バットにかなり近い形状に成長を遂げた。さらにスパイクにも変化が生じるなど、この時代は用具の視点から居ても大きな転換期であった。


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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