試合レポート

大阪桐蔭vs履正社

2017.07.29

日本一ハイレベルな準決勝

 甲子園で優勝するより、大阪で優勝する方が難しい。

 古くから言われている言葉を示すように今春選抜決勝大阪桐蔭履正社の大阪勢対決で、近畿大会はベスト4の内3校が大阪代表。しかもこの夏はに他県の優勝校を破った東海大仰星と大体大浪商でさえ、準決勝の舞台に上がることなく姿を消した。そんな全国屈指の激戦区において、決勝進出を懸け大阪桐蔭履正社が激突。選抜決勝の再戦となった大阪大会準決勝は、一進一退の攻防となった。

 履正社の先発マウンドに上がった竹 田祐(3年)は初回を三者凡退。この日に懸ける意気込みが見て取れる投球で大阪桐蔭の上位打線を封じこめた。

 大阪桐蔭の先発・徳山 壮磨(3年)は立ち上がりに走者を2人背負ったが、先制点は許さない。2回の攻撃では先頭の山本 ダンテ武蔵(3年)が安打で出塁するも三振ゲッツーが響き、結果的には3人で攻撃終了。履正社も徳山の前に三者凡退。まだ得点こそ入っていなかったが、どちらも打線に力があり、凡打でも打球が速い。どの打者も強いプレッシャーを相手守備陣にかけていた。爆発力を持った打線がそのまま終わるはずもなく、3回からは攻撃をする度に流れが変わるような展開となった。

 3回表、大阪桐蔭は二死二塁から1番・藤原 恭大(2年)がレフト前に適時打を放ち1点を先制。しかしその裏、履正社は一死から1番・石田 龍史(3年)がセンター前に安打を放ち出塁すると、2番・西山 虎太郎(2年)が左中間を真っ二つ。打球がフェンス際まで転がる間に石田は一気に生還を果たし、すぐさま試合を振り出しに戻す。さらに二死後、4番・若林 将平(3年)の放った打球は高いバウンドで三遊間を越えてレフト前に抜け、西山が勝ち越しのホームイン。片山 悠(3年)にも適時打が飛び出し、準々決勝までの6試合全てをコールドで勝ち上がってきた勢いそのままに試合をひっくり返した。


 履正社の竹田は気持ちの込もった力投を続けていたが、大阪桐蔭は4回に中川 卓也(2年)、山本の連打からチャンスを作って根尾 昂(2年)の内野ゴロの間に1点を返す。5回には徳山が自らのバットで同点本塁打を放つ。スライダーに泳ぎ気味となったが、レフトスタンドまで運んだ。

 同点とされた履正社は6回にも二死一、三塁のピンチを背負う。この場面で徳山に一、二塁間を抜けようかという打球を打たれるがセカンド・溝辺 冬輝(3年)が飛び込んで難しいバウンドの打球をつかみ一塁へ送球。ファインプレーで4点目を防いだ。その裏に一死から片山の二塁打と竹田の安打で一、三塁と勝ち越しのチャンスを作ると岡田龍生監督は代打・白瀧 恵汰(2年)を打席に送った。履正社と言えばバントを交えた攻撃を得意とする。スクイズもあり得た場面で、徳山は長めのセットポジションからアウトコースへストレートを投げ込むが、これを白瀧が捉える。鋭いライナー性の打球が伸び、レフト・山本が下がりながら捕球するも、三走・片山は悠々生還。勝ち越しの犠飛となり再び履正社がリードを奪った。

 残り3イニングで1点ビハインド、やや苦しくなった大阪桐蔭だが、1番から始まった7回の攻撃で藤原、福井 章吾(3年)、中川が3者連続で二塁打を放つ。序盤から飛ばしていた竹田を捉え逆転に成功。この日初めて大阪桐蔭がリードを奪う。

 その裏の履正社の攻撃も打順良く1番から。先頭打者は倒れるが、一死から西山が3本目の安打を放ち、走者を置いた場面で西日本最強スラッガー・安田 尚憲(3年)が打席に向かう。この時点での成績は3打数1安打1三振。大阪桐蔭バッテリーは安田に対して徹底的にアウトコースを攻めていた。第1打席はストレートのみで3球三振に仕留め、第2打席は一死二塁からレフトフライ。第3打席は2ストライク1ボールと追い込みながらストレートにうまく合わされレフト前に弾き返されたが、被害としては最小限。強打者を封じるには強気にインコースを突くことが有効だとされているが、引っ張りで強い打球を飛ばす安田に対してはおそらくそれは通じない。球威が足りなかったり少しでも甘く入ればスタンドまで運ばれるし、ストライクからボールゾーンに逃げる低めやアウトコースの変化球で誘っても日大三のエース左腕・櫻井 周斗(3年)のスライダー並みのキレがなければ見極められる。安田の驚異的な四球数がその証だ。しかし、一発が出れば逆転のこの場面で、大阪桐蔭の捕手・福井は体を安田の方に寄せる。その初球、この日初めて自分のゾーンに来た獲物をスラッガーのバットは逃さない。安田の放った、鋭いというよりは豪快でいかつい、という表現が当てはまるライナーがセンター方向に一閃。そのままスタンドまで届くかと思われたが、深く守っていたセンター・藤原がそこからさらに下がりながらフェンス手前でジャンピングキャッチ。続く右の大砲・若林もショートゴロも打ち取り大阪桐蔭が終盤の山を乗り切った。

 大阪桐蔭は9回にも代打の切り札・西島 一波(3年)の安打などで一死一、三塁とすると根尾の2点適時二塁打、坂之下 晴人(3年)の犠牲フライで加点しダメ押し点を奪う。4点を追う履正社は最終回の攻撃で期待の1年生・野口 海音が代打で安打を放ち、打順が上位に回ったが俊足の石田が併殺打に倒れ、試合終了。互いに2桁安打を放ち、どちらもビッグイニングになってもおかしくない攻撃が何度かあったが、そうした場面では必ず守備陣が好プレーで凌ぎ、スコア以上に緊迫、拮抗した内容の展開が繰り広げられていた。大阪桐蔭にとっては相手が履正社でなければ、履正社にとっては相手が大阪桐蔭でなければコールドで勝利していたのではないかと思わせるほど攻守共に密度が濃かった。そんな日本一ハイレベルな準決勝を制したのは春夏連覇を狙う大阪桐蔭。決勝では今大会、旋風を巻き起こしている大冠を迎え撃つ。

【試合経過はこちら 】

(文=小中翔太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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