2013年夏、2年生エースとして前橋育英(群馬)を初出場で優勝に導き、2014年ドラフトでは埼玉西武ライオンズからドラフト1位指名を受けた髙橋 光成投手。プロ1年目の昨年は一軍登板8試合で5勝2敗。特に一軍デビュー月の8月は5試合に登板し4勝1敗でプロ初完封もマーク。史上最年少18歳6ヶ月で「8月度日本生命月間MVP賞」受賞と「夏男」の名をほしいままにした。
では、その原動力はどこにあるのだろう?今回は2年目のシーズンを終えた髙橋投手に高校時代とプロとして体験した夏の乗り切り方やコンディショニングに対する意識、そして3年目に向かう今の思いを聞いた。
目の前の戦いに集中し「暑さに弱い」を克服
2013年夏の第95回全国高校野球選手権優勝。昨年8月の日本生命月間MVP受賞。この実績を見れば誰もが思うはずだ。「髙橋 光成は夏場に強い投手」。しかし、当人はそんな周囲の見方を真っ向から否定した。
「夏の甲子園で優勝したので、夏に強い投手と思われがちですが、実はそうではなくて暑さには決して強いわけではないんです。だけどそれを気にしていたら勝負ができない。僕は暑いとは思わないぐらい、目の前の戦いに集中して投球をしていました」
確かに2年の夏、髙橋の投球は鬼気迫るものがあった。甲子園では初戦の岩国商(山口)戦で9連続含む13奪三振で5安打完封すると、2回戦の樟南(鹿児島)戦でも6奪三振で連続完封。3回戦では浅間 大基、高濱 祐仁(ともに北海道日本ハムファイターズ)といった強打者を擁する横浜(神奈川)にも、1失点完投勝利。
その後も準々決勝・常総学院戦はリリーフで延長10回を制し、準決勝・日大山形(山形)戦、そして決勝の延岡学園(宮崎)も連続完投。50回で687球を投げ、防御率0.36。最速148キロ。直後のチャイニーズ・タイペイ開催・第26回18U世界野球選手権にも2年生にして選出。準優勝に貢献している。
その要因を「暑さ対策は水分補給などを欠かさずにやったぐらいで、特別な対策をしたわけではないです」と改めて話す反面、「投球においては日ごろの基礎練習を大事にしていました。自分がやってきたことを試合の中でできただけ」と語る髙橋。基本となる暑さ対策は行いながらも、基礎を大事に練習し、試合では最大限集中する。「暑さに弱い」と自認する高校球児の皆さんにも、これは大いに参考になる話だ。
[page_break:髙橋 光成が創り上げる「一流投手への調整法」]
髙橋 光成が創り上げる「一流投手への調整法」
そんな三要素と同時に投手にとって大事なのは登板後のケア。ただここで、高橋 光成投手は「これはあくまでぼく個人の調整法なので、参考程度に留めてください」とはっきり告げた上で、こんな話を切り出した。
「僕はアイシングをしません」
その理由とは?
「僕の個人的な感覚ですけど、あれをやるとあまり感触が良くないんです。もちろんクールダウンやストレッチはやりますけど、高校の時からアイシングはやっていません」
自分にとって一番コンディションが良い状態で試合に臨めるケアとは?髙橋は前橋育英時代から考え、調整法を確立してきたのである。
事実、その考え方はプロの舞台で開花のベースとなった。プロ1年目、8月に一軍昇格を果たした髙橋は、先輩投手たちから水分補給の大事さを教わり、トレーナーと相談して飲みやすいドリンクを作ってもらい夏場を乗り切ったのだ。
睡眠も然り。「プロに入って本当に寝る大事さを実感しました」と語るように、シーズン中、ナイトゲームの場合には深夜1時~2時に寝た後、11時に起きるように。8時間から9時間は睡眠を確保している。もちろん「精神的な休息」も。休みの日は近場の温泉に浸かってリラックスをして、次の登板日へ向けて準備をしている。
それでも「まだ僕は、1試合ごとの調子の上下が激しいので、しっかりと疲労を取ったりするなど、今のやり方を大事にしながら、ケアの仕方を考えていきたいです」と、満足感はない髙橋 光成。一流投手への調整法は、日進月歩で進化している途中である。
[page_break:投手の基礎は「まっすぐに立ち、開きを遅く、体重移動でプレートを活用する」]
投手の基礎は「まっすぐに立ち、開きを遅く、体重移動でプレートを活用する」
ここまでメンタル面では「試合での最大集中」、体力面では「自ら考え、調整法を確立する」ことをポイントとして教えてくれた髙橋 光成投手。最後に技術面で前橋育英の荒井 直樹監督から教えを請い、プロに入っても引き継いでいるポイントを明かしてくれた。
「真っ直ぐに立って、できるだけ横を向いたまま体重移動をして前の肩の開きを遅くする。これだけです。今も意識していることです」
加えてプロ1年目には「右足の外側全体をプレートにかけて体重移動を行って投げる」指導を受けた。最初は意識的にやらないとできなかったが「今では特に意識しなくてもできるようになりました」と髙橋は話す。もちろん、プロ入り後に行った肉体強化も、ここに加わっている。
今季は高卒2年目にしてローテーションの一角を担い、150キロ越えのストレートを軽々と投げている髙橋 光成投手。その陰にはこのような「心・体・技」が含まれていたのだ。
獅子のエースへの勝負の3年目。そして「2020・東京五輪」の柱へ
髙橋 光成の今シーズン成績は22試合に登板し19先発・4勝11敗・118回を投げ、89奪三振・防御率4.42。高卒2年目としては十分な数字。ただ、長年日本球界の盟主を張り、近年でも西口 文也、松坂 大輔、涌井 秀章、岸 孝之と続いてきた埼玉西武ライオンズの「エース右腕」を継ぐものとしては決して満足いくものではない。
「今までやっていることは特に変えていないですが、何かつまづいたとき、やり方を考えていきたいと思います」
本人もその意識は十二分に持っている。
来季、辻 発彦新監督の下で巻き返しを図る埼玉西武ライオンズにとって、髙橋 光成は当然柱になる投手。獅子のエースへ。そしてその先にある24歳で迎える2020年・東京五輪の柱へ向かって。光り輝く存在と成るべく、ライオンズの背番号「17」は今日も右腕を振る。
(文=河嶋 宗一)

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