Interview

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「大事なのはトレーニングではなく、思考の積み重ね」【後編】

2016.11.08

 侍ジャパン強化試合では5番レフトで出場し活躍中の筒香嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)。今シーズンは44本塁打、打点110をマークし、本塁打王と打点王に輝いた。そんな筒香選手に、前編では、シーズンオフの期間のトレーニング計画について、さらに後編ではオフの期間に挑むウインターリーグについてなど語っていただいた。

ウインターリーグ挑戦の真実

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「大事なのはトレーニングではなく、思考の積み重ね」【後編】 | 高校野球ドットコム

筒香 嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)

 だが、ここで終わらないのが筒香選手だ。打撃2冠を達成した今シーズンにつながる2015年のシーズンオフには、ドミニカ共和国で行われているウインターリーグに参加して話題になった。

 筒香選手の2015年シーズンの成績は打率.317、24本塁打、93打点。またも大きく成績を伸ばしていた。だが、日本ではプロの若手が修行の場として挑戦するウインターリーグに参加するという。2015 WBSCプレミア12でサムライジャパンの4番を務めたほどの選手が参加するというのは前代未聞だった。

「前例がないので、実際に行くという時も大変でした。球団の方々に心配する声もありましたし。でも、普通に考えたら行った方がいいんです。レベルは高いですし、日本でオフだからといってゴロゴロしているより野球は確実に上手くなる。結果、僕が昨シーズンオフに行って今シーズン結果を残したことで、これからはウインターリーグに行った方がいい、という風潮になるかもしれません」

 周囲からすれば慣れない環境で体調を崩したり、ケガをしたりするリスクを心配したりするかもしれない。だが、筒香選手はそういったリスクも考えつつ、得られるメリットと両天秤にかけて、メリットを得られる可能性の方が高いと判断すればためらいなく飛び込んでいく。

 このウインターリーグでは、海外特有のムービングファーストボールに対応すべく、すぐにフォーム改造に着手したことでも話題になった。このように、「変わることを恐れない」のだ。しかも、実際の話は報道されていることと少し違うらしい。
「ウインターリーグに行ってすぐにフォームを変えましたが、行っていなくてもあのフォームになっていたはずです。場所がドミニカでウインターリーグ中だっただけで。即興で変えて打てるようになるような、そんな簡単な話ではないですから。6年間かけてやってきた形が、たまたまあのタイミング、あの場所で現れただけなんです」

[page_break:うわべではない「思考」の積み重ねと継続]

うわべではない「思考」の積み重ねと継続

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「大事なのはトレーニングではなく、思考の積み重ね」【後編】 | 高校野球ドットコム

筒香 嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)

 筒香選手を筒香選手たらしめているものは「積み重ね、継続」であることは間違いではない。だが一方で「変わることも恐れない」。一見、矛盾する考えのように見えるが、本人の頭の中はいたってシンプルだ。
「オフを迎えて何をするか、を考える時、“振り返る”ということはしません。過去は関係ない。今シーズンがどうだった、ではなく、シーズンが終わった瞬間にそこから自分の能力をどう上げていくか。そのことしか頭にないです」

 自分の能力を向上させるために、いいと判断したことを取り入れていく。それが中学時代から続けているトレーニングである場合もあれば、前例のないウインターリーグへの参加という場合もある。結局のところ、筒香選手の言う「積み重ね、継続」とは、トレーニング、というよりも思考の部分に当てはまる言葉なのだろう。このスタンスは、高校時代にはなかったものだという。

「僕も幼い頃から何かをやっていたかと言えば何もやってないですし、プロに入って責任感が出るようになってからこういう考え方になってきたので。いろんな知識を頭に入れていって、考え方もまた変わっていきます。ですから、今もこのようなことを言っていますが、今感じていることを発しているだけなので、来年になったらまた考えも言うことも違ってくると思います」

 ここまで研ぎ澄まされたプロフェッショナリズムを持っているからこそ、今の筒香選手の立場がある。正直、高校球児がすぐに取り入れるのには難しい領域の話かもしれない。本人が語っているとおり、今回の話は高校時代にはなかったスタンスでもある。

「高校生は冬もチームで練習するので、個人で練習するプロ野球のようにはいかないと思います。何か伝えることがあるとすれば…自分がウインターリーグに参加して、ドミニカやアメリカといった、メジャーリーガーを多く輩出する国の選手と接したり比べたりして感じたことでしょうか。システムの違いもありますが、練習の仕方は考えた方がいいな、と。

 やっぱり意味のある、質の良い練習を繰り返すことが重要だと感じました。ただ数をこなすだけでは意味がないというか、野球は上手くならないんです。まず優先すべきはどうやって野球を上手くなろうか、と考えることだと思います。高校球児は、将来スーパースターになっていく選手たち。将来を考えて練習してほしいですね」

[page_break:ハイパフォーマーを手本とする]

ハイパフォーマーを手本とする

横浜DeNAベイスターズ 筒香 嘉智選手「大事なのはトレーニングではなく、思考の積み重ね」【後編】 | 高校野球ドットコム

筒香 嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)

 オフに行うことを考える際、過去を振り返らない筒香選手は、長期的視点で物事を考えるという。10年先とまではいわないが、来シーズンだけを見据えて取り組むことはないという。来年2017年にはWBCがあるが、筒香選手はこの大会に向けて数年前から準備していたことがあるはずだ。これは推測に過ぎないが、そう考えると、国際試合の感覚を養うためにウインターリーグへ参加したことも――周囲は唐突のことに驚いただろうが――辻褄が合う。

 一つ、高校球児の参考になるかもしれないのは、筒香選手は「ハイパフォーマー」に対して非常に興味がある、ということだ。
「僕は、野球はもちろん、頭の中も人間的にも進化していきたいと考えていて。そのためにいろいろ本も読みますし、勉強していく中で今の考えがあるのですが、特にハイパフォーマーには、どの業界の方でも興味あります。

 どの業界でも飛び抜けている人には、やはり飛び抜けるだけの理由があるので。例えばアメリカで本当にヒットしている日本人は、多くの歌手の方、俳優の方もいらっしゃいますが、イチローさんだと思うんです。ですから、イチローさんがどのような言葉を使っているのか、といった点から興味を持っています」

 ここまでのインタビューで、筒香選手に抱いたイメージは「ストイック」というものだった。だが、たしかにハイパフォーマーと評される人物は、世間一般がストイックと感じることを当たり前のこととして受け止めている。筒香選手もまたしかり。そして、この強靭なメンタルを獲得した手本があったということだ。

 物事を小さな範囲を見渡しただけで判断せず、より広く、より上を見てみる。すると、それまでは気付きえなかった領域に気付かされることもある。もしこのオフに自分を変えたり、もう1ランクも2ランクも実力をアップさせたい――そんな覚悟を持っている選手がいたら。がむしゃらに自分を追い込むことと同時に、自分が思うハイパフォーマーの本や話に積極的に触れてみるのも一つの選択肢かもしれない。何かのきっかけをもたらしてくれる可能性は、きっと小さくないはずだ。

(インタビュー・文/伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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