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大阪ガス投手陣の育成メソッド「大会でベストピッチングができるための調整法とトレーニング」(1)

2016.06.20

 昨夏の都市対抗決勝では延長の末、惜しくも日本生命に敗れるも、チーム2度目となる準優勝を成し遂げた大阪ガス。都市対抗出場22回、日本選手権大会出場19回を誇る社会人野球界屈指の強豪だ。そして6月10日に23回目の都市対抗出場を決めた大阪ガスは、若手の育成に定評があり、質の高い投手陣を毎シーズン作り上げてくる点も大きな特長だ。そんな名門チームに特集テーマをぶつけるべく、兵庫県西宮市に位置する硬式野球部グラウンドを訪ねた。

都市対抗で勝ち抜くことしか考えていない

大阪ガス・竹村 誠監督

「チームの最大の目標は都市対抗に出場し、日本一になること。そこしか考えていないといっても過言ではないです」
オープン戦後にバックネット裏の一室で行われたインタビュー。名門を率いて4年目を迎えた竹村 誠監督はきっぱりとそう言った。

「5月末から行われる都市対抗予選と7月後半に行われる都市対抗の本戦。ここにチームのピークをもってくるために、大会から逆算し、強化期間や休養期間を設け、メリハリをつけながら、年間の練習スケジュールを組んでいます。時には公式戦と強化期間がかぶってしまうこともありますが、優先するのはあくまでも都市対抗にチームの調子のピークを合わせるための逆算スケジュールです」

 ただし、これはあくまでもチームという単位での考え方。選手全員がピークの時期を合わせる必要はないという。
「実績のある主力投手は都市対抗の予選にピークを合わせる発想でいいと思いますが、都市対抗で投げるためのアピールが必要な立場の選手はもっと早い段階でピークを持ってきたいでしょうからね。どこにピークを合わせて調整をするのかは、厳密にいえば選手によってさまざまと言えます。

 それに社会人の場合は、30歳過ぎのベテランもいれば、高校を出たばかりの18歳の選手もおり、年齢幅が大きい。そこへ体格や体力、筋肉のタイプ、投手としての課題といった要素も加わる。そのため、日々の練習の強度やメニューはひとりひとり異なるべき、という考え方に基づき、練習プログラムを作成しています」

 その時、部屋の扉が開いた。登場したのは萩原 健吾投手コーチだ。
「投手陣の練習プログラムを作成しているのは萩原です。投手指導に関してはすべてを一任しているので、調整に関する具体的な話は彼にバトンタッチします」

 そう話すと、萩原コーチと入れ替わる形で部屋を後にした竹村監督。最も大切にしている大会を勝ち抜くため、大阪ガスが実践している投手調整法とはいったいどのようなものなのだろうか。

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[page_break:5月に練習の強度を落とす理由とは / 追い込み式調整法の落とし穴]

5月に練習の強度を落とす理由とは

野球部員の心得

 我々が年間を通じて最大の目標としている都市対抗への出場を決める予選が5月末より始まります。ここにチームとしての調子のピークを持ってくるために毎年必ず行っているのが、練習の強度をぐっと落とす期間を本番の1か月以内に設けることです。具体的には、ゴールデンウィークが明けた5月上旬から5月中旬にかけての約1週間。この期間は基本的にあまり走らず、負荷をかけず、肩もあまり使わない。ジョギングやストレッチ、キャッチボール程度にとどめます。

 1週間ほどこの状態を続けると、体が少しなまった感じが生まれて、無性に体を動かしたいという欲求が湧き上がってくるものです。その上で今度は本番に向けて負荷を再びかけていく。走るメニューでいえば短距離ダッシュを繰り返し、汗をかきながら体をきゅっと締めていくイメージ。1週間しっかり休んでいるので、体力を落とすことなく、体にキレが宿ったベストの状態で5月末の予選を迎えることができるんです。

 もちろん前提となるのは、しっかりとトレーニングを積んだ上で強度を下げる期間を設けることです。我々は5月末の都市対抗予選から逆算したトレーニングを前年の最後の公式戦が11月上旬に終わった時点から開始しています。1月中旬頃までは強度の高いメニューを中心に組み、その後、強度を少し下げ、シーズンに入っていく。体が出来上がった状態を作ったうえで、本番直前で強度を大きく落とすからこそ、いい頃合いで本番を迎えることが可能になる。

 ポイントとなるのは強度を下げる期間を1週間設けることだと思います。本番が迫った時期に1週間、体をなまらせる行為は勇気がいる行為かもしれませんが、週末の土日に休んだ程度ではこの効果は得られない。体を動かしたくなる欲求が高まるまで強度を落とすところがあくまでもミソであり、そのためには1週間が適宜期間かなと感じています。

追い込み式調整法の落とし穴

 高校野球界では、5月~6月のどこかで冬トレ並みのメニューで体を追い込む期間を作り、いったん体力を落とした上で、夏の予選本番に向けて再び上げて行く方式を採用するチームが少なくないという話を聞いたことがあります。しかし、私自身はこのやり方は失敗する確率が高い調整法だと思っています。

 一番の理由は季節です。気温が日々上がっていく季節の変わり目であり、梅雨という疲れがとれにくい時期でもある。汗のかき方も冬場とは異なります。そのため、思うように体力が戻りきらないまま、本番を迎えてしまい、肝心な時に一年間頑張ってきた力をフルに発揮できなかった、というケースが案外多いんです。

 負荷をかけて体をある程度追い込んでから再び上げて行く、という発想自体はいいと思うのですが、体力を落とすレベルを回復可能な段階にとどめることが大切。同じトレーニングメニューを行い、同じ回復期間を設けても、冬場と夏場では体力が戻る時間が異なることをしっかりと認識しておく必要があります。

 ちなみにうちのチームでは、冬場に行うような強度の高いトレー二ングは5~6月にはやらず、やるとするなら、せいぜい1月中旬頃までです。本番前に体を追い込むことを考えるよりも、前述したように、本番前に体を楽にする期間を設けることを重視した方が、調整法としては本番の成功を呼び込みやすいと私は考えます。

 第2回では、大阪ガス投手陣流のランニング&投げ込みメソッドをお伝えしていきます!お楽しみに!

(取材・文/服部 健太郎


注目記事
【5月特集】大会から逆算した投手調整方法

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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