Interview

東北楽天ゴールデンイーグルス 松井 裕樹投手【後編】「順応性とプロフェッショナリズムと」

2015.11.10

 前編では松井裕樹投手の高校時代の取り組み、変化球習得のポイントについて伺った。後編では、クローザー投手としてどんな調整を送っているのか。その日々の過ごし方は高いレベルで活躍した意図と願う球児は必見!そして甲子園を目指す大事さを教えていただきました。

コンディショニングに見る「プロフェッショナリズム」

 次に特筆すべきは「プロフェッショナリズム」だ。20歳といえば、まだまだ体に無理がきく年齢。だが松井 裕樹投手は、コンディショニングにもきちんと気を遣っている。
「リリーフで投げた翌日は、試合前に経験の豊富なトレーナーさんに肩を見てもらえるので、調整に関しては相談しています。『今日はチューブを多めに入れておいて』といったアドバイスをいただけるので」

松井 裕樹投手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 高校野球と違い、プロ野球は1シーズンが長い。さらにホームとビジターの違いもある。そういった異なる環境でも、常にハイパフォーマンスを続けるためには、地道なコンディショニングがものをいう。
「遠征のナイターだと、ホテルからの出発が15:00ぐらいになります。するとホームの時と時間の過ごし方、サイクルが変わってきます。遠征時は朝の7:00に起きてしまうと少しきつさを感じるので、前夜はちょっと無駄に遅くまで起きておいて睡眠時間を調整したりしています」

 毎日登板する可能性のあるストッパーにとっては、休養もコンディショニングの重要な一要素になる。
「楽天の場合は、ビジターでもみんな畳めるような薄めのマットレスを持っていっています。それを宿泊先のベッドの上に敷いて寝るのですが、効果を感じています。だからいつも同じマットレスで寝られるようにしていますね。移動ゲームになると、先に荷物を次の遠征先に送ってしまうこともあるのですが、マットレスだけは送らないで使用して、別に郵送したりもするんです」

 体調維持にはビタミンのサプリメントを使っている。
「一度体調が良くなかった時にトレーナーさんに勧められて摂取しだしてから、身体の調子が良くなったんです。以来、今も摂り続けています。プロテインももちろん飲んでいますが、最近効果を感じるのは飲むタイプのR-1ヨーグルト。最近チームの食堂に置かれるようになったのですが、毎日飲んでいます」

 まるでベテラン投手のようなケアのしようだ。話によると、一度マウスピースを自作して試したこともあるらしい。

 松井投手の能力に疑いの余地はない。しかし、それだけを今シーズンの活躍の理由にするには無理がある。能力のある者たちばかりが集うプロ野球の世界で、さらに抜けた活躍や前人未到の記録を作るには、能力とは別に、プラスαの理由があるはずだ。松井選手の場合、順応性と同時に自分にプラスをもたらす効果と効率を突き詰めようとするプロフェッショナリズム、これが既に備わっていることが大きいのではないか。

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[page_break:高校時代の財産をフル活用して]

高校時代の財産をフル活用して

桐光学園時代の松井 裕樹投手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 ここまでの話しぶりからも察しがつくであろうが、受け答えもはっきり、しかも自分の言葉を持っている。見た目は好青年なのだが、ともすると、目の前にいる選手が20歳だとは思えないくらい落ち着いた雰囲気を醸し出す。客観的に見て、社会人として立派だと感じさせるものがある。高校時代よりさらに大きくなった下半身を見ても、表には出ない陰の努力が感じられる。

 こういったプロフェッショナリズムが、どうして身に付いたのか。それは、甲子園で活躍してからの1年間、常に注目を浴び続けていたことと関係しているかもしれない。
「高校の時が一番注目してもらえましたね(笑)。注目してもらえるのは嬉しいことなのですが、大変は大変でした。投げていなくても取材に呼ばれたりしたのは、ちょっと意味がわからなかったですね…。今は試合で投げなければ記者の皆さんは素通りですから。その方がいいです(笑)」

 野球を離れれば一高校生の松井投手が、1年間好奇の目にさらされた経験は――本人にしか分からないことではあるが――窮屈な面もあっただろう。だが、その辛さも含んだ経験をプロ野球の世界に持ち込んでいるのではないか。高校時代のうちから、冷静に、客観的に、平常心を保ってプレーするためのノウハウを得て活用している気がしてならない。

 そしてもう一つ、「勝ちにこだわる」姿勢もプロフェッショナリズムに通じている。
「高校時代は、甲子園に行きたい行きたいと言っていても、いったいどんなところで、どんな景色で、打席に立ったらお客さんはどう見えるのかとか、まったく分からず漠然としていました。それが、一度知ることで全然変わりました。試合ももちろん、甲子園期間中にホテルで誰かの部屋に行ってゲームをしたりといった暮らしも、たくさんのお客さんも、すごく印象に残って素晴らしかった。

 だから、“また行きたい!”と1年間、より野球に打ち込めました。『甲子園を知る』ためには、勝つことでしか叶えられません。すると、何よりも勝つことが最優先になってきます。だから、高校生の人たちも勝ちを目指してもらいたいんです」

 松井裕樹投手は、高校時代の経験を100%いかして今を戦っている。プロとしての経験がこれからさらに上積みされていくことを考えると…これから先のピッチングがたまらなく楽しみになってくる。

(インタビュー・文/伊藤 亮


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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