Column

スラッガー逆風時代… 清宮 幸太郎が評価されるスラッガーになるには

2015.11.03

 気が早い話になるが、今年のドラフトの情勢を見て、清宮 幸太郎早稲田実業)の評価が気になった。秋季大会で見せてきたパフォーマンスは別格だったが、清宮は一塁手。一般的に評価されにくいポジションだ。だがそれでも清宮は十分にドラフト上位に指名される可能性を持ったスラッガーといえる。今年のドラフト情勢を振り返りつつ、清宮の長所と課題を考察してみた。

オコエ、吉持、重信…俊足系野手が上位指名される時代に

重信 慎之介(早稲田大)・巨人2位

 今年のドラフト指名の傾向としては、スピード系の野手が上位に指名されていることが挙げられる。阪神のドラフト1位の髙山俊明治大2015年インタビュー)は、東京六大学の安打記録を更新し、走攻守三拍子揃ったプレースタイルが評価されている選手。
また驚異的な脚力を持つオコエ瑠偉(2015年インタビュー【前編】 【後編】は東北楽天1位。

 この2人がドラフト1位指名を受けるのは事前に予想されていたが、サプライズだったのは東北楽天が2位にオコエ並みの脚力を持つといわれる吉持 亮汰大阪商業大)、さらに巨人は東京六大学通算38盗塁の重信 慎之介早稲田大)、オリックス3位は東京六大学通算36盗塁の大城 滉二立教大2015年インタビュー)と俊足型の選手が軒並み上位で指名を受けたことだ。その一方で、スラッガータイプの横尾 俊建(慶應大2015年インタビュー)が北海道日本ハム6位指名となっており、スカウトの評価の尺度が変わってきていると言える。

 分かりやすく言えば、赤星 憲広(元阪神)のような選手が上位で指名されるになった時代ということである。15年前、赤星選手は驚異的な俊足が評価されていたが、打撃に関しては非力でプロで通用する選手なのかと疑問を投げかける声が多かった。だが当時の監督だった野村 克也氏の強い推薦で、阪神タイガース4位指名となった。その後、赤星選手は現役9年間で381盗塁を記録する名選手となったが、もし野村 克也氏の一声がなかったならば、プロ入りすることはなかっただろうという選手である。

 このような一芸に秀でた選手というのは、今までは下位指名されるイメージがあったが、今年のドラフト情勢を見ると、球界全体がそういう選手を求めている傾向が強くなったといえるだろう。実際に足が速い選手が多いことで、攻撃のバリエーションは広がるからだ。高校野球もそういう流れになってきている。

 前置きが長くなったが、今はスラッガー逆風の時代である。今年のドラフトはスラッガータイプが下位指名、指名漏れになっているケースも少なくない。そんな中、2017年度のドラフト候補に挙がる清宮 幸太郎早稲田実業)は、話題性を抜きにして、上位指名できる選手になれるか?というのが今回のテーマだ。

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[page_break:打者・清宮が評価される最大の理由 打撃に柔軟性があること]

打者・清宮が評価される最大の理由 打撃に柔軟性があること

清宮 幸太郎(早稲田実業)打撃

 今の清宮は高校生レベルでは手がつけられない選手となっている。秋季大会ではブロック予選本大会を含め、3試合連続本塁打と圧倒的な打棒を見せているが、その要因として1年生ながらU-18ワールドカップを経験したことが大きいといえる。

 大会期間中、清宮が木製バットでフリー打撃をしているのを見たことがある。柵越えは少なかったが、鋭いライナー性の打球を連発し、これが1年生なのかと思わせる打球を見せていた。そして大会期間中はハイレベルな投手と対戦してきた。その経験を積んだことで、本人は口にしていないが、打席内の様子を見ると、かなり余裕が出てきたように感じる。

 秋季本大会都立小平戦(試合レポート)での本塁打は弾丸ライナーで、あっという間にスタンドインした。打った瞬間、本塁打と確信できる当たりだった。また二松学舎大附戦(試合レポート)では、東京都屈指の左腕・大江竜聖2015年インタビューから適時打も放っている。多くの東京都の打者が大江を打ち崩すのに苦労している中でも、しっかりと適時打を打った実績は評価できるだろう。

 入学当時から1年秋までの打撃を見てくると、清宮はミートするのが非常に上手い。いわゆる「柔らかさ」を持っている選手である。この柔らかさというのは、打撃に確実性が出るてくるためとても重要だ。金属バットで本塁打を量産しているような選手でも、確実性に欠く選手は評価されにくい。そういう選手は木製バットの対応に時間がかかるケースが多いからだ。さらにこういうタイプは一塁手に多く、起用法が限定されるので、低評価につながりやすい。

 それならば、複数のポジションを守れる俊足型の選手を起用して、攻撃のバリエーションを広げたほうが良いと考えるのは当然である。今年のドラフトも、豪打を見せているけれどどこか脆さを感じさせ、対応に時間がかかるだろうと思わせるスラッガータイプの選手が指名漏れになった。そんな中、上位指名されたスラッガータイプはやはりミートが上手く、確実性が高い選手だ。

 例えば2014年、巨人からドラフト1位指名を受けた岡本 和真智辯学園2014年インタビュー)。
高校通算73本塁打を放った岡本は、その年、侍ジャパン18U代表に選出された。代表期間中、公式戦での本塁打はなかったが、他の代表選手と比較しても別格の打球を放っていた。軸がぶれず、綺麗な打撃フォームで打ち返していたのである。そして何よりも「強く」振れていた。その姿をスカウトは高く評価。またプロ入り後も、巨人のコーチが「欠点が少ない」と絶賛するように、シーズン後半から一軍入りし、プロ初本塁打も記録している。

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[page_break:評価を上げるには木製バットで結果を残して、三塁を守れること]

 現在三塁手の岡本は、高校時代のポジションは一塁手と評価がされにくいポジションではあったが、打撃面での素質が認められ、プロ入りした選手である。つまり順応が速いスラッガーは評価されやすい。
清宮は岡本に負けずボールを捉える感覚が非常に優れており、完全に打ち取られた打席内容は少ない。さらに選球眼も良い。その姿を示す限り、清宮は評価されやすいタイプと言えるだろう。

評価を上げるには木製バットで結果を残して、三塁を守れること

清宮 幸太郎(早稲田実業)守備

 スラッガータイプは本塁打を打ちたいために強引な打撃になる傾向があるが、清宮はじっくりとボールを待って、打てるボールを確実に打ち返している選手だ。これは最大の強みであり、今後も確実に打ち返せることにこだわってほしい。

金属バットで打つ限り、清宮は本塁打を量産するだろう。高校3年生になる頃には通算70本~80本も見えてくるのではないだろうか。

 さらに清宮が評価を上げるポイントは「木製バット」で結果を残せるかどうかだろう。昨年1位の岡本も、そして今年1位指名を受けたオコエ瑠偉平沢大河2015年インタビューも、木製バットを使う国際大会で結果を残したことで、評価が一気に上がった。まず2年後はカナダでワールドカップが開催されるが、大きく成長した姿を見せることが重要になる。また清宮は三塁手挑戦を視野に入れているが、絶対に守れる選手になった方が良い。複数ポジションを守れると起用の幅が間違いなく広がるからだ。

 再び岡本を例に出すが、プロ入りしてから三塁手をメインに守るようになり、ファームでは三塁手として57試合に出場している。初年度で15失策なのは及第点といえるだろう。実際、プロ入り前に比べて想像以上に動きが良くなっている。

 清宮も、打撃面を追求すると同時に、守備面も深く追求してほしい。守備は上達する方法を知ることができれば、確実に上手くなるスキルである。打撃面で別格の力量を示し、一塁手だけではなく、三塁手を守れる選手になれれば、目玉選手になる可能性はぐっと高くなるだろう。

 残り2年間、甲子園を目指すだけではなく、選手として可能性を広げることをテーマにより大きくなることに期待したい。

(文=河嶋 宗一


注目記事
・2015年ドラフト特設ページ
・2015年秋季大会特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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