Column

特徴を伸ばすオフシーズン

2015.11.05

遠藤友彦の人間力!

 11月いっぱいまで練習試合ができますが、長い冬の期間を迎えようとしています。試合のできない期間に自分をどのように確立していくかは大切なことです。来年を決めるといっても過言ではありません。

方向性を決めて、集中特化した計画を立てる

方向性を決めて、集中特化した計画を立てる(写真はイメージ)

 前回のコラムでは発想の転換について書きました。タイムリーなことに、チーム指導していると発想の転換が求められている選手と出会いました。

「特徴ある選手になりたいです。でもどのような投手になればいいのか迷っています」

 ある公立高校をチームレクチャーしたときの選手との会話です。困り果てた顔で、真剣な眼差しで質問をしてきました。チームとしての大きな目標はあるでしょうが、その前にチーム内の競争に自分が勝てるかどうかです。

 投手として球が遅い、コントロールもあまり良くない・・
厳しい現状の中、どのようにチーム内の競争に勝っていくのか・・。このコラムを読んでいる高校野球児も同じような悩みを抱えているはずです。

 シーズン中は目先の結果を追って大胆な自分リニューアルは難しいですが、これからの時期はじっくりと腰を据えて取り組もうと思えばできます。その投手が迷っている「どのような投手になればいいのか」を決めることが最も重要です。

 何となく練習をしていても今までの自分を大きく変えることはできません。今までに大きな変化がなかったように、これからも期待できません。思い切って「これにする」という方向性を決めて、それに集中特化した計画を立てるべきです。

 野球は「遠くに飛ばす」「速い球を投げる」といった誰しもが追いかけることを目指せば、タイプ的に違う選手はうまくいかずに時間を浪費していきます。

 可能性のあることに挑戦することは意義のあることですが、可能性の乏しいことに対して時間を費やすのは時間の浪費です。

 私が言いたいのは「諦めろ」ということではなく、自分が生きる道を決めて邁進せよということです。発想の転換で人と違う道を極めて確立していくことが、結果的に「お前にしかできないこと」に繋がっていきます。

 野球は確率のスポーツと言われます。私の打撃理論も無駄な動きをしないでシンプルにすることで成果をあげていきます。今の自分を考えながら、現実的にどんな方向に進めば競争に勝てる自分になるのか。じっくり考える必要があります。

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[page_break:他の人にない特徴を伸ばすことが大切]

他の人にない特徴を伸ばすことが大切

他の人にない特徴を伸ばすことが大切(写真はイメージ)

 例えば、質問してくれた彼はスピードも無ければコントロールもイマイチです。新チームスタートしたときに彼を見る機会がありましたが、スピードはありませんが特徴ある変化球を投げていました。

「いいカーブ投げるね」

 曲がりの良いカーブを投げます。リリースしてから捕手までイライラするくらい球が来ないカーブです。しかし、まだまだカーブを操る段階までではありません。彼には「このカーブを生かすといいね」と話しましたが、それ以降、カーブに重点を置いて磨いていたと思いきや驚きの現在だったのです。

「あのカーブは高めに抜けていたので、今はストレートとスライダーを投げています。カーブはほとんど投げていません」

 一番の特徴だった球を捨てて、今は周囲と同じようなスタイルを追求しています。周囲に速い球を投げる投手がいれば、自分も投げられるように力んで投球する。スライダーが切れる投手が三振を取っている姿をみて、スライダーを練習する・・。

 自分にしかできない何かを追求していくというよりも、周囲と同じようなスタイルでやりたがる選手たち。投手じゃなくても打者としても同じことがいえます。これではチーム内で競争の土台にすら立てないことでしょう。

 そもそも投手としては、突き出たものがあるというよりは、そこまで能力が高くない選手です。この出発点から普通の投手を目指せば、追い抜かすどころか平凡な投手になって埋もれていくのは残念ながら目に見えています。

 やればできると思いたいのですが、まずは、自分の力の範囲で、周囲とは違う具体的な特徴を持つ。
「おっ」という周囲と違うものを持っていても、操ることができる前に捨てている(諦めている)選手が多いことを残念に思います。

 今年(2015年)の日本シリーズでソフトバンクとヤクルトが対戦しましたが、第一戦にソフトバンクで登板したのは武田 翔太投手です。2012年、宮崎日大高校からプロの世界に入った武田投手は、初戦で9回まで無失点、最終回に被弾しましたがヤクルト打線を沈黙させて勝利に貢献しました。

 武田投手は魔球と言われるドロップカーブを投げます。一度浮き上がり最高到達点から鋭く縦に落ちるカーブは、昔「ドロップ」と言われていた軌道です。ヤクルト打線の反応を見ていると、明らかにカーブによってストレートを打ち損じていたり、多投してくるのでカーブを打ちにいけば凡打を繰り返すような感じでした。

 遅い球を打つのは難しい・・

 速い球よりも遅い球の方が打つのは簡単に思いますが、カーブのような遅い球を打つのはじつはかなり難しいのです。強豪私学の打線が公式戦で軟投派投手に沈黙するケースも珍しくありませんが、遅い球を操ることができれば大きな武器になります。

 ストレートが遅くても、もっと遅いカーブを操る投手になれればアウトに取れる投手に変身できます。

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[page_break:人と違う特徴は自分の未来を切り開く絶好の道具]

人と違う特徴は自分の未来を切り開く絶好の道具

「速い球もなく、コントロールもイマイチ・・」という彼に持ってこいのコンセプト(方向性)です。ストレートにばらつきがあっても、緩急という武器があれば打者を抑えることも可能です。1、2回痛打されても粘り強く緩急を貫けば最少失点で切り抜けることも可能です。

 軟投派投手が力んで投げている姿を見ていると、自分を分かっていないと思います。特徴のない選手にわざわざなる必要はないのです。他の選手と違うことは恥ずかしいことではなく、自分の未来を切り開く絶好の道具になっていきます。

「一度は回り道をしたけど、カーブを諦めることなく使いこなせるように特徴のある投手になればいい。ただカーブを投げるのではなく、どんな下半身の使い方をして、腕をどのように回せばいいのかは日々研究するといい。自分の感覚で『これだ』というものが見つかれば徹底してその感覚を磨いていく。練習試合が解禁される3月まで4ヵ月弱の時間でフォームを固められればいいぞ」

 来年3月からの練習試合で、固定されたフォームで試して微調整していけばいいのです。

「●●な特徴を持つ!!!」

 こだわることで新しい自分が作り上げられていきます。目指す方向が決まれば、自分なりの研究が始まります。例えば、日本シリーズをテレビで見ていれば、投げている同じスタイルの投手をじっくり観察することでしょう。

 なりたいと思えば、誰に言われることなくアンテナは高くなるはずです。ユーチューブで同じタイプの投手を観察して、体重のため方、腕の回し方、リリースの瞬間をスローモーションで見る・・便利なネットを活用したいものです。

 迷っていた彼は、目指す方向が決まり明るい表情になりました。

【球は遅いけど、遅い球を自由自在に操れる投手】が彼の今冬の目指す方向です。自由自在に操れるということは、打者が打ってこないときには簡単にカーブでストライクを取り、狙ってきたらストライクからボールの低めにカーブを投げる。打者に合わせて投げ分けられる投手になることです。

 大胆に自分を作り上げる時期がきました。「冬はモチベーションが上がらない」なんてことを言って時間を浪費していてはいけません。自分で自分を作り上げる期間、大切にしていきましょう。

(文=遠藤 友彦


注目記事
・2015年秋季大会特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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