Column

木更津総合高等学校(千葉)【前編】

2015.06.03

激戦千葉大会の「勝ち抜き方」

 2014年の参加校は170校・ノーシードから勝ち抜くには8連勝が必要な激戦・千葉大会。しかも各校の実力が拮抗していることで、2000年からの15年間(2008年は第90回記念大会のため東千葉西千葉大会分割開催)で出場したのは10校と分散している。

 ただ、その中で実に4度の夏甲子園出場を果たしている学校がある。今回紹介する木更津総合だ。2003年夏、現在木更津総合のコーチで、当時は4番打者として活躍した大島 吉雄氏を中心とした強力打線で夏初出場を果たしたあとは、2008年2012年2013年と甲子園出場。では、強さの源はどこにあるのか?木更津総合高校グラウンドには激戦千葉大会を勝ち抜くエキスがいっぱいに詰まっていた。

「つながれば止まらない打線」が夏になる理由

 木更津総合の代名詞は「つながれば止まらない打線」である。特に2013年夏は圧巻だった。

 千葉県大会5回戦流通経済大柏戦では6回まで無安打という展開から7回表に一挙6点を先制。その勢いで2年連続となる甲子園に歩を進めると、初戦上田西(長野)戦でも0対2の2点ビハインドで迎えた5回裏、一気に7点を奪って逆転に成功。アンビリーバブルな出来事を2回も起こした。

 が、五島 卓道監督はまずその成り立ちを一笑に付する。
「ウチはいつも仕上がりが遅くて、ようやく打線が出来上がるのが夏なんですよ」

 しかしながら、その指導手腕は誰もが認めるところ。1989年、野球部を強化し始めた暁星国際監督に就任すると、2006年・2009年・WBC日本代表として連続世界一に貢献、2011年にはNPB2000本安打を達成し、現在は中日ドラゴンズ・代打の切り札として活躍する小笠原 道大(2015年インタビュー【前編】【後編】)など数多くの好選手を輩出。そして1998年に木更津総合の監督に就任し、5年で甲子園出場に導いた名将である。

 その五島監督にさらに真意を探っていくと、打線が出来上がるのに夏まで時間がかかるには2つの理由があるという。1つ目は軟式から硬式への順応。
「うちは伝統的に軟式出身者が多いんですよ。2003年に木更津総合ではじめて甲子園に行ったときも、スタメンは全員軟式出身。今でこそ中学時代に硬式野球をやっている子が多くなっていますけど、基本的に軟式の子が多い。硬式に慣れるまでに時間がかかるでしょうね」

 ただ、それ以上に指揮官が苦慮することがある。これが2つ目の理由であり、前編における大きなテーマである。

[page_break:「初球から打つ」ための指導法]

「初球から打つ」ための指導法

どの選手も初球から積極的にスイング(木更津総合高等学校)

「初球から打てない選手が多いんです。初球を見逃してしまうと2球目以降は打つのも厳しいボールが多く、結局振り返ると、初球が一番打ち易いボールだったということがほとんどなんですよね」
確かに五島監督の言う通りである。「初球から打ってこないだろう」。投手の警戒心が最も甘くなるのはそういう時。高校野球やプロ野球を見ても初球が一番甘いケースは無限にある。

 が、皆さんも少年時代を思い出してほしい。初球から打って凡退した時、ベンチからどんなことを言われたかを。「なんで初球から打っているんだ!」この刷り込みが選手に初球から打つことを躊躇させているのだ。

 だから、木更津総合では初球から打って凡退になっても決して怒らない。
「こちらが求めていることなので、怒ってしまったら萎縮してしまって何もできなくなってしまいますからね」(五島監督)。

 同時に空振りすることも怒らない。逆に当てただけの安打はダメだと語る。これも少年時代の刷り込みが影響していると五島監督は分析する。
「新入生に多いのはヒットを打つことにこだわるあまり、当てただけのヒットになることが多いこと。それでは強い打球を打てない。強いスイングができない。空振りを恐れずにしっかりと振ることも教えています。
ですから私は空振り三振になっても怒りません。『空振り三振は何も恥ずかしいことじゃないよ』と選手たちに言い聞かせていますね」

 もちろん選手によってタイプは異なるので、アプローチの仕方は変えているが、基本的な考えは「初球からフルスイングをして捉える能力を身に付けること」。今年の選抜岡山理大附戦(試合レポート)で3ランを放ち、ドラフト候補として注目される檜村 篤史(2015年インタビュー【前編】【後編】)も、この指導法によって、徐々に積極的なスイングを身に付けている。

[page_break:タイトな日程を克服する様々な「体力強化」 / 地獄の「御宿合宿」経て、不利な状況打ち破る]

タイトな日程を克服する様々な「体力強化」

砂場の上を走る選手たち(木更津総合高等学校)

 木更津総合の夏の千葉大会における強さの一面がようやく見えてきた。だが、それだけではタイトな千葉大会を乗り切れないはず。そこで筆者は五島監督に聞いてみた。「夏に強い選手とは、どのような選手ですか?」
返ってきたのはこうである。
「やっぱり体力ですね。それがないと勝ちきれないですからね」

 昨年の千葉大会でいえば7月11日開幕・7日26日に決勝戦春の千葉県大会ベスト8でシード入りし、夏の甲子園初出場を果たした東海大望洋ですら7月15日の初戦(2回戦)からわずか12日間で7試合を行っている。指揮官の言うように絶対にタフネスでなければならない。では、グラウンドには雨天練習場も、トレーニング場もない木更津総合は、どのようにして体力を付けるのか?様々なアプローチが実はなされている。

 まず幸いにも同校野球部グラウンドは学校の敷地内ではなく、4キロ離れた場所にある。選手たちは毎日自転車をこぎながらグラウンドに向かうことで、必然的に下半身を鍛える。
球場横のグラウンドでは器具を使わない腹筋、背筋など体幹を鍛えるトレーニングも行われていた。そしてそこには……砂場があった。選手たちはそこを鬼の形相で走り抜けていく。これぞ木更津総合名物「砂場ダッシュ」である。

 2007年、選手の親に農業をやっている人がいた。御宿合宿を行う砂場での走り込みの成果を実感していた五島監督はそこで協力を依頼。トラック何十台の砂を入れて砂場を作った。木更津総合では例年5月末から6月にかけて走り込みの数を増やして、夏場に耐えられる体力を身に付けるが、「砂場での走り込みはグラウンドの上で走るよりも、ケガが少ないですよね」と指揮官も効果を実感している。

 では12月下旬に行われる千葉県・御宿市で行われる強化合宿の中身とは……。聞いて絶句する壮絶な量だった。

地獄の「御宿合宿」経て、不利な状況打ち破る

 朝8時半から御宿の砂浜で3時間も走る。昼食後は夕方まで技術練習。夕食後に1分間スピーチを行って自己主張する能力を磨き、就寝まで素振り。このサイクルが丸1週間続く。選手が口を揃えて、「最もきついです」と答えるものだ。そして走り込み。これが夏の木更津総合を戦う土台を築き上げたのだ。
 

 2013年夏千葉県大会準決勝専大松戸戦もそうだった。延長13回の死闘を制し、グラウンドに戻ったのは20時。翌日の10時試合開始まで12時間しかない。世間の見方は当然「木更津総合不利」である。しかし決勝戦は6対5の接戦の末に習志野を破り、2年連続の甲子園出場を決めたのだ。五島監督も、青山 茂雄部長も、「日頃の走り込みが生きたね」と口を揃えるように、取り組みの正しさを実感する年でもあった。

 だからこそ、木更津総合は今もそのスタイルを変えない。「打撃、粘り強さ、強靭なスタミナ」を日々、彼らは磨き上げている。

 後編では木更津総合の強さをもたらす「選手たちのメンタリティ」について迫ります!

(取材・写真=河嶋 宗一

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 夏に強いチームから学ぶ
僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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