Column

松阪大輔、斎藤佑樹から吉田輝星へ 球数制限から見た高校野球の変化

2023.05.05

松阪大輔、斎藤佑樹から吉田輝星へ 球数制限から見た高校野球の変化 | 高校野球ドットコム
吉田 輝星、中森 俊介

 高校野球はプロがプレーしないからこそ、感動に繋がるコンテンツであることは間違いない。その中で、データが普及して球数制限などの制度も、でき始めている。

 高校野球は「プロ」でも「ビジネス」でもなく「教育の一環」だ。しかし、90万人を集める大イベントである以上は、やはりそこにマーケティング的な「お客を知る」発想が必要なのだろう。また、高校野球というコンテンツは、年代関係なく甲子園出場までの各校のストーリー性、トーナメントの儚さ、意外性、高校時代という青春の共感、ヒーロー誕生、ドラマや感動といったものが数えきれないほどあり、多くの国民が見てしまう「野球イベント」に違いない。

 ただ、高校野球の甲子園で投げた球数において、「球数を投げる」=「美徳」のような報道も、ケガ防止はもちろんのこと、プロ野球という夢見る選手達への模範的な意味も考えると、今後は変えていかなければならない点に違いない。

 具体的に言うと、従来の高校野球は1998年の松坂 大輔投手(横浜高)や2006年の斎藤 佑樹投手(早稲田実業)のようなエースが、延長戦を含めて完投した上で評価されていた。また、その多くの球数を費やして投げ切ることが、メディアや大衆を含めて感動的なシーンとなったため、「美德」される風潮があった。しかし、これは「美徳」ではあるが、球児の選手寿命を短くする懸念材料でもある。

 それにより、制度化もされた。2020年のセンバツ大会(新型コロナウイルスにより中止)から「球数制限」が設けられ、高校野球も転換期に入りつつある。その中で、戦略や戦い方も必然的に変わっていくのは間違いないだろう。今回の球数制限によって、これまでも勝ち進む際によく言われていた「投手の枚数」が非常に重要になっていく。これは、ただ枚数が重要となってくるわけではない。近年勝ち上がるのは投手の枚数が多い高校はもちろんのこと、その高校のほとんどが私立高校なのだ。

 例えば、吉田 輝星投手(現・日本ハム)を擁して2018年夏甲子園で準優勝し、旋風を巻き起こした金足農(秋田)や、中森 俊介投手(現・ロッテ)を擁して2019年春夏にベスト4まで勝ち進んだ明石商(兵庫)はいずれも公立高校だった。近年は公立高校も一部だが、甲子園でも勝ち上がれるぐらい私立高校との差も縮まっている中、今回の球数制限によって私立と公立の選手層から生まれる物量の差が以前のように開く可能性はある。

 以上のことを踏まえると、選手や指導者から見た高校野球における試合の重要度は以前と比較すれば下がりつつある。球数制限によってベンチ入りの割合を投手に割いていくことはもちろんだが、選手の健康面の配慮をしていくことからベンチ入りの上限人数も今後はさらに増加していくと推測している。

 これにより名場面や感動的な場面は減る可能性もある。花形の投手だからこそ、育成やエンターテイメントとしても出てくるだろう。

 これは未成年でありながら、高校の部活である高校野球だからこそ、難しい問題でもある。さらに感動と制度化はトレードオフの部分もある。時代錯誤の部分もあるが、育成の部分で考えても、若い時に身体に多少の負荷をかけることも必要な時もある。多少の負荷をかけることにより、自分自身がレベルアップできるのではないだろうか。現在は球数による極端な事例や悪いイメージだけが先行しすぎるが故に、選手の育成にも大きく影響していくと見ている。上記のように連投している状況で、多くの球数を投げさせたことが問題であり、過保護にすることが正解なわけではない。

 制度化されてから期間が浅いため、バランスが上手く整っていない状況ではあるが、感動と制度化をいいバランスで開催できれば、さらに素晴らしいスポーツになるのだろう。

(記事=ゴジキ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.18

【秋田】明桜がサヨナラ、鹿角は逆転勝ちで8強進出、夏のシードを獲得<春季大会>

2024.05.18

【岩手】一関二、盛岡誠桜などが初戦を突破<春季大会>

2024.05.18

【関東】昌平・山根が2発5打点、東海大相模・4番金本が2ランなどで初戦を快勝、東海大菅生は山梨学院を完封<春季地区大会>

2024.05.18

【長崎】長崎西、島原中央などが初戦を突破<NHK杯地区予選>

2024.05.18

【春季関東大会】白鷗大足利・昆野が最速152キロを計測!前橋商の剛腕・清水はまさかの5失点…。チームもコールド負け!

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.17

「野球部や高校部活動で、”民主主義”を実践するには?」――教育者・工藤勇一さん【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.5】

2024.05.14

大阪体育大の新入生に兵庫大会8強の145キロ右腕、金光大阪の1番センター、近大附の4番打者など関西地区の主力が入部!

2024.05.16

【宮城】仙台一、東北、柴田、東陵がコールド発進<春季県大会>

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?