トレーニングを中断するとどうなる?
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
早いもので今年も残り半月となりました。選手の皆さんはオフシーズンの体づくりを中心に、日々汗を流していることと思います。汗をかいた後は濡れたウエアを着替えるなどして、風邪などひかないように注意してくださいね。さて今回はまとまった休みなどによってトレーニング効果はどのくらい影響を受けるのかについて考えてみたいと思います。トレーニングをしない期間が続くと今までの苦労はどうなってしまうのでしょう?
ディトレーニングとは
トレーニングの中断は全身持久力をはじめ、さまざまな体力要素を減少させることがある
皆さんは「ディトレーニング(脱トレーニング)」という言葉を聞いたことがありますか。これは単にトレーニングを中止、もしくは一時的に休むことという意味だけではなく、今まで続けてきたトレーニングによる効果が部分的あるいは完全に失われてしまうことを指します。長期休暇をはじめ、病気やケガなどによって体を動かさない期間が長くなると、体はディトレーニングの影響を受けると考えられています。
全身持久力と筋力はどのように変化する?
さまざまな研究からディトレーニングは全身持久力や筋力に大きな影響を及ぼすことが明らかになっています。全身持久力の指標としては、単位時間あたりに組織が酸素を取り込む量の最大値である最大酸素摂取量(VO2max)が主に用いられます。全身持久力は運動中断による変化が早く、継続してトレーニング行っている選手がトレーニング中断すると2週間以内の短期間であってもVO2maxが有意に低下するという研究報告があります。お盆休みや冬休み、テスト明けの練習再開時の練習で、スタミナが続かずすぐに息が上がってしまうような経験した選手も少なくないと思いますが、これはディトレーニングによる全身持久力の低下が一因と考えられます。
一方、筋力は全身持久力に比べるとトレーニング効果はある程度維持できると考えられています。トレーニングを継続的に行っている人を対象にした研究では、2週間以内の中断期間があっても最大筋力は有意に低下しなかったことが報告されています。しかしトレーニング中断によって筋肉量は少しずつ減っていくため、4週間のディトレーニングでは筋力が3~14%減少したという報告もあります。短期間ではあまり大きな影響を受けないものの、それが長期にわたると筋力も次第に低下していくと考えられます。
スタミナをつけるためには「継続は力」
スタミナを強化するためには全身持久力系のトレーニングを継続する必要がある
野球選手にとって全身持久力を鍛えることはどのような意味があるのでしょうか。野球は比較的短い距離を速く走る能力が求められますが、その一方で長時間(2時間~)にわたってある一定のパフォーマンスを維持するためのスタミナが求められます。試合開始直後は素晴らしいパフォーマンスであっても、試合中盤から終盤にかけて疲労が蓄積し、思うようなプレーができなくなってくることは避けたいところです。特にピッチャーはスタミナを求められるポジションであり、このような体力要素を鍛えるためには全身持久力の強化も必要になると考えられます。
ところが全身持久力はディトレーニングの影響を受けやすいため、オフシーズンのみに限定してしまうと、そのトレーニング効果はやがて低下してしまうことになります。冬休みで全体練習などがない場合も時間を見つけて各自でランニングを行う等、全身持久力を維持するためのトレーニングが必要になります。
ディトレーニングの影響を最小限にするために
ウエイトを用いたり、グランドで行ったりする筋力強化を目的としたトレーニングは短期間であれば中断しても大きな影響は受けにくいと考えられますが、こちらも長期にわたるとやはり筋肉量が減って筋力が低下する傾向にあるため、オフシーズンに限定せず、継続的に行うことが良いでしょう。冬休みやテスト期間に伴う練習中断などであればさほど筋力低下を心配する必要はありませんが、このタイミングでトレーニングを行う場合は、トレーニング強度を維持したままトレーニング量を減らすようにしていつもよりも短い時間で行い、筋力維持をはかります。この他にも、いつもとは違ったスポーツや運動を行うクロストレーニングなども筋力維持に貢献します(参考ページ:「クロストレーニングのメリットとは」)。ケガで長期離脱を余儀なくされた選手は、医師と相談の上患部外トレーニングを中心に全身持久力や筋力を維持するようにしましょう。
トレーニングの原則の一つに「反復性の法則」があります。どんな素晴らしいトレーニングであっても継続しなければその恩恵に預かることはできません。特にスタミナに大きく影響する全身持久力は「休むと効果が低下する」ことを理解し、地道にコツコツと続けるようにしてみてくださいね。
参考書籍)スポーツ科学の教科書/谷本道哉 編著 石井直方 監修/岩波ジュニア新書
参考ページ)
ディトレーニング:スポーツでも「継続は力なり」/ハイパフォーマンススポーツセンター
ディトレーニング/NSCAジャパン HPCスタッフコラム/
【トレーニングを中断するとどうなる?】
●ディトレーニングとはトレーニングの中断によってトレーニング効果が失われること
●長期休暇やケガで離脱したときなどはディトレーニングの影響を受けやすい
●全身持久力は短期間でもディトレーニングによって低下しやすい
●筋力は短期間では大きな変化は見られないが、長期にわたるとトレーニング効果が減少する
●筋力維持のためにはトレーニング強度を維持し、トレーニング量を減らす
●スタミナをつけるためには日頃から全身持久力のトレーニングを続けること
(文=西村 典子)