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仙台育英が2年連続で頂点に立った宮城大会を総括!好投手続々登場、“仙台城南旋風”も

2023.07.31


第105回全国高校野球選手権記念宮城大会は、昨夏の甲子園優勝校・仙台育英の2連覇で幕を閉じた。66校62チームにより繰り広げられた夏の熱戦を振り返る。

仙台育英、圧巻の51得点2失点でV

「戦うということは、常に『勝ち』の裏に『負け』がある。負ける覚悟をしよう。負けた時にどんな振る舞いができるかを考えて戦いに臨もう」

仙台育英の須江航監督は、大崎中央との初戦の前日、選手たちにそう言葉をかけた。今夏は全国各地の有力校が地方大会で姿を消した。センバツ優勝の山梨学院(山梨)、準優勝の報徳学園(兵庫)はともに甲子園切符をつかめず。明徳義塾(高知)、東海大菅生(西東京)など優勝候補も続々と敗退し、智辯和歌山(和歌山)や創志学園(岡山)は1勝も挙げることができなかった。それが夏の、トーナメントの怖さであり、宮城においても例外ではない。ただ仙台育英はプレッシャーをはねのけ、圧倒的な強さで頂点に立った。

5試合で計2失点。その2失点はスクイズと内野ゴロの間の得点で、適時打は打たれていない。チーム防御率は驚異の0.23を記録した。湯田 統真投手(3年)、田中 優飛投手(3年)が3試合、高橋 煌稀投手(3年)、仁田 陽翔投手(3年)、武藤 陽世投手(2年)が2試合に登板する盤石な投手運用。湯田が完投した東北戦以外は継投で相手打線を封じ込んだ。

一方の打線も計51得点と機能。5試合で32得点だった昨夏の県大会以上に攻撃力の高さが際立った。また昨夏の県大会では一本も出なかった本塁打を、今夏は初戦から準決勝まで4試合連続で一本ずつマーク。中でも齋藤 敏哉内野手(3年)は大崎中央戦で今大会チーム初得点となるソロ本塁打、東北戦で1対0の8回に好投手・ハッブス 大起投手(3年)から満塁本塁打を放ち、強打者ぶりを発揮した。

甲子園連覇への道のりは、甲子園出場への道のりより遥かに険しい。それでも今の仙台育英には、2004、05年の駒大苫小牧(南北海道)以来の夏連覇を予感させるほどの強さがある。「負ける覚悟」は持ったまま、聖地へ向かう。

巻き起こった“仙台城南旋風”

今大会を大いに盛り上げたのが、準優勝校の仙台城南だ。昨秋は2回戦敗退、今春は1回戦敗退でノーシードながら、東北工大電子工時代の1992年以来31年ぶりの4強入り、そして創部初の決勝進出を果たした。しかも破った5校のうち仙台商古川学園利府の3校はシード校で、昨夏準優勝の聖和学園相手にも11対1で6回コールド勝ちを収めた。

快進撃の立役者となったのが、エース右腕の安住 馨祐投手(3年)。決勝を除く全試合に先発し、計39回、573球を投げ防御率1.15とまさにエースの仕事を全うした。直球の最速は130キロ台ながら、スライダーやツーシームなど精度の高い変化球を駆使した緩急自在の投球で幾度となくピンチをしのいだ。決勝は疲労を考慮して登板回避したものの、宮城の高校野球史に名を刻むほどの活躍ぶりであったことは間違いない。

打線は聖和学園戦で11得点した爆発力だけでなく、接戦を勝ちきる粘り強さも兼ね備えた。古川学園戦、利府戦はいずれも2対1で勝利。タイブレークまでもつれた仙台商戦は10回表に2点を勝ち越されるもその裏3点を奪い、サヨナラ勝ちで今春準優勝校を下した。柿崎創外野手(2年)、植野広大内野手(2年)ら攻守ともにレベルの高い2年生野手も多いチームだっただけに、秋以降の躍進にも期待がかかる。

140キロ超えの速球派投手が続出

今年から試合会場の一つである仙台市民球場にスピードガンが設置されたこともあり、今夏は速球派投手の存在感が光った。

仙台育英の「150キロトリオ」に負けじと、古川学園のエース・今野 一成投手(3年)は最速151キロを計測。古川学園は今野以外にも岡本 祥希投手(3年)、富永 尋斗投手(3年)、加藤 和投手(3年)、岩本 樹投手(3年)の4投手が140キロ以上をマークした。東北進藤 愛輝投手(2年)も3回戦の東北学院戦で140キロ台後半を連発し、大きなインパクトを残した。

古川学園・今野と2回戦で投げ合った日本ウェルネス宮城大内 誠弥投手(3年)、2番手で好投した新沼 櫂我投手(2年)も140キロ台の直球で駆けつけたスカウト陣を唸らせていた。大内はその直球こそ本調子ではなかったものの、プロ注目投手とあって変化球の使い方も抜群。敗れはしたが将来性を感じさせる投球だった。

仙台市民球場のスピードガンは設置されたばかりで、正確性には未知数な部分もある。また球速だけが投手の良し悪しを決める指標ではない。ただ選手のモチベーションを向上させ、球場の盛り上がりを増幅させる意味では、必要な要素なのかもしれない。

今夏も見せた公立校の意地と強さ

近年勢いのある公立校は、今大会も存在感を示した。昨夏4強、今春8強の仙台南、今春3位の仙台一は3回戦で敗れ、昨秋4強の仙台三も仙台南に初戦敗退を喫するなど実力校が苦戦する中、利府古川工塩釜の3校が8強入り。利府は公立校で唯一4強に名を連ねた。

利府は正捕手の一條 洸太捕手(2年)を3回戦以降欠く中、外野手も兼ねる太田 眞斗捕手(3年)が懸命なリードで投手陣をまとめた。小酒井 凱人投手(3年)、曽我 颯人投手(3年)も満身創痍の状態で与えられた役割を果たし、正遊撃手の亀谷 晋之介内野手(3年)は3試合に登板してチームを救った。準決勝は1点差で敗れ惜しくも決勝へ駒を進めることはできなかったものの、公立校の意地、そして利府の強さは十分すぎるほど見せつけた。

古川工はエースの佐藤 颯真投手(3年)が全4試合を一人で投げきった。計599球を投じる鉄腕っぷり。8強入りを決めた仙台一戦では1失点完投した上に決勝点となる2点適時二塁打を放つなど、文字通りチームを引っ張った。塩釜もエースの大槻 周也投手(3年)が投げては全5試合で先発、打っては本塁打を含む打率5割超えと投打で牽引。9年ぶりの8強入りをたぐり寄せた。

頂点に立てなかった65校61チームにとって、仙台育英の壁はあまりにも高かった。ただシーズンごとに上位進出校がめまぐるしく変わるように、宮城の高校野球は日々進化を続けている。「打倒・仙台育英」という大きな目標が、秋も、来年の夏も、球児たちの意欲をかき立てるはずだ。

(取材=川浪康太郎)

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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