試合レポート

坂出vs高松

2012.07.12

エースが「後悔」を糧に誓った次への決意

この夏、負けを知らずに終わるのは参加した3985校中1校のみである。
すなわち他の3984校の球児たちは、大なり小なり何らかの悔いを残して高校野球の舞台を去っていくのであるのだ。ましてやそれが地方大会となれば、悔いの数はより大きく、多くなるもの。
この試合で敗れた高松の右腕・坂枝賢(3年)もその1人である。

今秋のドラフト候補遊撃手の兄・裕史(法政大4年)譲りのフルスイングに徹する多木裕介(3年)を切り込み隊長とし、香川大会屈指の強打線を擁する坂出相手に、130キロ前半のストレートと切れ味鋭いスライダーで対峙し、143球を投げ7安打4失点に封じた坂枝。
4回裏には失策で先制された直後に相手先発の辻優人(2年)にレフトオーバーの二塁打を許し、6回と8回には二番手投手の田内晴規(2年)に2つのスクイズを許すなど搆口秀敏監督が仕掛けた適材適所作戦に屈した形にはなったが、自責点はわずか1。
「調子が悪い中、粘り強く投げた」馬場博史監督の評価を聞くまでもなく、彼は持てる力を十分に発揮した。

それでも、試合後の坂枝は「夏は結果が全て。負けたら意味がないんです」と、ひたすら涙に暮れていた。
その訳は「中学生のとき(高松市立紫雲中)から秋季四国大会に出ていたのに憧れていて、入学してからも短い間だったけど、いろいろなことを学んだ」
辰亥由崇(現:東京大学野球部1年投手)から体得した「コースで抑える」持ち味を出し切れなかったことへの後悔から。そして彼はもう1つ、後悔の言葉を口にした。


「開会式で秦監督から『待っているぞ』と言われたのに・・・」

そう、2回戦でこの試合の勝者を待っていたのはこの4月から監督復帰した秦敏博監督が率いる高松北だった。
2011年3月まで15年間率いた高松監督時代は、松家卓弘(東京大→横浜→北海道日本ハム)を輩出し、05年の選抜大会では21世紀枠で72年ぶり(夏を含めれば71年ぶり)出場の偉業を達成。
甲子園では宇部商(山口)に2対6で敗戦するも、高松に中興の祖を築いた知将であることには変わりない。

加えて坂枝ら3年生にとって秦監督は高校野球のいろはを学んだ恩師である。その恩師と約束した場所に到達できなかった後悔。この言葉を口にした瞬間、坂枝の瞳からはまた涙がこぼれ落ちた。

「今後は僕も辰亥さんのように東京六大学野球でプレーしたい。そこで活躍することが、みなさんへの恩返しになると思うので、この悔しさを活かして大学では頑張りたいです」

帰り際に涙の中で新たな決意を誓った坂枝。ともすると「次はない」ことが多い現代社会にあって、後悔を糧に次への希望を語れるのは高校生の特権。
今は彼の決意が現実になることを願わずにはいられない。

(文=寺下友徳)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.10

【京都】昨年秋2回戦敗退の鳥羽が京都国際と対戦、昨年秋Vの京都外大西は西城陽と対戦<春季大会>

2024.05.10

【香川】昨夏甲子園Vの慶應義塾を招待!春4強が迎え撃つ<招待試合>

2024.05.10

【宮城】5大会連続V狙う仙台育英は名取北と白石工の勝者と対戦、東北とは同ブロック<春季大会組み合わせ>

2024.05.10

【和歌山】2季連続Vを狙う耐久と10大会連続決勝進出を狙う智辯和歌山が対決<春季大会>

2024.05.10

【大阪】「2強」撃破の大阪学院大高が決勝まで突き進むか、興國は45年ぶりの決勝進出に挑む<春季大会>

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.06

【2024年夏 全国地方大会シード校一覧】現在27地区が決定!

2024.05.06

センバツV・健大高崎は夏も強い! Wエース抜きで県大会優勝、投打に新戦力が台頭中!

2024.05.06

【関東】山梨学院と常総学院がそれぞれ優勝、出場校の対戦が確定<春季大会>

2024.05.06

【春季埼玉県大会】花咲徳栄4回に一挙10得点!20得点を奪った花咲徳栄が昌平を破り優勝!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>