試合レポート

大体大浪商vs市岡商・天王寺商・ビジネスフロンティア

2012.07.08

ユニフォームはそれぞれ違っても、チームは一つ

スコアは0対10の5回コールド負け。
「今までの僕らとは違うところを見せつけてやりたかった」と意気込んだ初戦だったが、古豪・大体大浪商の壁は厚かった。

ビジネスフロンティア

大阪市内の商業高 3校の統合により、合同チームとして結成されたチームだ。

大阪市は平成14(2002) 年に「大阪市教育改革プログラム」を策定。新しい形の商業高校を設立することを決め、天王寺、市岡、東の3商業高校が統合することになった。そして今年 4月、3 校を一つに統合した学校が「大阪ビジネスフロンティア」という新校名でスタートした。

生徒数の少ない学校が一つになり、大所帯になる。学校経営やクラブ活動など、さまざまな面において、プラスになる統合だった。しかし、この統合には難しい要素をはらんでいた。
というのも、新1年生は「大阪ビジネスフロンティア」の生徒だが、2、3年生は天王寺商市岡商東商の生徒たちが、一つの学校に集まっていたからだ。この2年間はそれぞれの学校に登校していた生徒たちが、この春から、同じ学校の門をくぐったのである。違和感を覚えて、当然である。
この合同チームのキャプテンを務めている市岡商平田有也(3年)は言う。
「それぞれの学校の文化があったので、戸惑いがありました」
特に、団体で活動する部活は、部の歴史も違えば、規律も異なる。東商には野球部員がいなかったから二校の統合で済んだとはいえ、それを一つにしなければならなかったのだ。平田は言葉を続けた。

「みんなこうしたいと思う気持ちがそれぞれにあったので、 2年生も含めて、それを一つにまとめるのは大変でした」

結局、キャプテンの平田が「俺が動いて見せる」と誓いチームを一つにした。それぞれの意見を主張するのではなく、話し合いで決めていく。ぶつかりあっていた意見をキャプテン自らが、吸い上げる形で取りまとめたのだ。

この日の試合、着用するユニフォームはそれぞれ異なっていたものの、チームは一つだった。



 

1回裏、2死からの失策がらみでいきなり4失点。しかし、2回はきっちり守りきった。
特に成長の跡を見せたのは外野守備だ。
天王寺商の跡地に建設された大阪ビジネスフロンティアには、現在、グランドはないのだが、旧市岡商のグランドを使用。統合したことを生かし、守備力を高めてきたのだ。試合では8個の飛球をしっかり捕った。
中禮佳考監督は言う。

「想像していた以上にちゃんとした試合ができた。レフトのファインプレーもありましたし、練習でやってきたことが出せたかなと思います。点差は空きましたけど、いい試合でした」

部員総数14人。決して多い方ではないが、集めるだけで精いっぱいだった単独校時代よりかは遥かに充実している。部員がおり、練習ができるだけのグランドもある。統合したことの良さをしっかり生かしてきた。大敗だったとはいえ、 3校合同チームはしっかりとした足跡を記したと言える。
現チームを中心として引っ張った中村賢人(3年)は言う。
「ずっとみんなが笑顔やったんで、一つになれたんだなと思った。ほんと、試合が楽しかった。自分のエラーもあったし、みんなもエラーして課題もあったけど、 3年間やってきて、本当に良かった」

試合後は涙にくれたキャプテン・平田もそれをぬぐい、すがすがしく語った。
「9回まで戦いたかったなというのはありますけど、最後まで楽しんでやれたのはうれしかった。みんなの覇気がすごくて、エラーをしてもしっかり切り替えてやっていた。きょうは、どんな展開になっても、最後まで諦めずにやろうと決めていたのですが、それができた」

天王寺商の持っている夏の初戦 39連敗の不名誉な記録(全国1位)を今年も止めることはできなかった。しかし、統合校としての戦いはまだ、始まったばかりだ。大阪大会のメイン会場である舞洲ベースボールスタジアムのオープニングゲームに彼らが登場したという奇縁が何かの始まりを予感させる。

この夏で引退する平田も、中村も、「連敗記録のことは気にしないでほしい」と言った。「初戦連敗記録」の負の遺産を背負いこんで欲しくないと後輩たちを気遣っているのだ。「OBF(大阪ビジネスフロンティア)としてスタートしたので、新しくやってほしい」というのが3年生の願いだ。

2年生はどう受け止めるか。
相手の12得点を一番傍で見つめたであろう捕手・川南幹雄が、新チームに向けて、こう誓った。
「3年生は統合して、合同チームになってがまとまらない中、話し合いで解決して、一つになって戦った。僕たちも、どんな困難になっても、先輩たちを見習いたいと思います。勝って先輩たちを喜ばせたい。初戦の連敗は僕たちの世代で止めます」 

来年も、まだ合同チームとしての戦いが続くが、大阪に新しく吹く風『大阪ビジネスフロンティア高校』は、確かなスタートを切った。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.10

【京都】昨年秋2回戦敗退の鳥羽が京都国際と対戦、昨年秋Vの京都外大西は西城陽と対戦<春季大会>

2024.05.10

【和歌山】2季連続Vを狙う耐久と10大会連続決勝進出を狙う智辯和歌山が対決<春季大会>

2024.05.10

【香川】昨夏甲子園Vの慶應義塾を招待!春4強が迎え撃つ<招待試合>

2024.05.10

【宮城】5大会連続V狙う仙台育英は名取北と白石工の勝者と対戦、東北とは同ブロック<春季大会組み合わせ>

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.06

センバツV・健大高崎は夏も強い! Wエース抜きで県大会優勝、投打に新戦力が台頭中!

2024.05.06

【関東】山梨学院と常総学院がそれぞれ優勝、出場校の対戦が確定<春季大会>

2024.05.06

【春季埼玉県大会】花咲徳栄4回に一挙10得点!20得点を奪った花咲徳栄が昌平を破り優勝!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>