女性監督、自主性重視、文武両道…進学校・洛南の夏への挑戦
進学校であり、スポーツ名門校としても知られている京都の洛南。昨年の東京五輪には、陸上競技の丸尾知司、桐生祥秀、三浦龍司、男子バスケットボールの比江島慎、男子バレーボールの大塚達宜と5名のOBが出場した。
2008年創部の野球部はスポーツ推薦で入学してくる選手がおらず、附属中からの内部進学者と一般入試を経て入学した生徒で構成されている。一流大学の進学を目指しながら野球に取り組む彼らの素顔に迫った。
野球には考える時間がある
山村 真那監督
グラウンドは京都市伏見区の向島にある。授業を終えた選手たちは最寄りの東寺駅から近鉄電車で向島駅まで移動して、グラウンドにやってくる。移動に30分以上かかるため、コロナ禍で短縮授業になっている現在でも練習開始は午後5時から。通常ならもっと遅くなってしまう。一日の練習時間が約2時間という制約の中で選手たちは文武両道に励んでいる。
そして、洛南の大きな特徴といえば、監督が女性であることだろう。山村真那監督は大学までソフトボールをしていたが、野球経験はない。大学卒業後に介助職員として2年間勤務していた山城で野球部の指導を手伝うようになり、その後、赴任した洛南で2年目から監督を務めている。野球とソフトボールの違いについて、山村監督は次のように語ってくれた。
「野球は凄く遅いなと思っていました。ソフトボールは7回しかないし、距離も短いし、牽制もない。そういう意味ではソフトボールは試合の展開が速かったり、打球が速かったりというイメージがあるんですけど、野球に初めて携わった時には凄く遅い、考える時間がたくさんあるスポーツだなと思っていましたね」
野球とソフトボールは似ているように見えるが、異なる点も多くある。野球経験のない自分が監督になったことで、「子どもたちに申し訳ない」と就任当初は思っていたそうだ。だが、コーチ陣の励ましもあり、「できることだけやろう」と気持ちを切り替えることができたという。
就任してしばらくは勝てない時期が続いたが、就任5年目の夏に念願の公式戦初勝利。秋には敗者復活戦を含めて3勝を挙げている。
[page_break:選手主導のメニュー]選手主導のメニュー
練習メニュー
山村監督は練習メニューを選手に決めさせるなど、選手主導のチーム作りを行ってきた。現在は主将の畑下 修輝(3年)を中心に練習メニューを考え、気になることがあれば、監督がアドバイスを送るというスタンスをとっている。こうしたチーム運営ができるのも選手たちの考える力や人間性が優れているからだと山村監督は感じているようだ。
「考えてできる子たちだと思うので、私の仕事はわからせてやるというか、諭してやるという方がこの子たちには合ってるかなと思っています。自分たちでまず考えて、もうちょっと効率良くできるんじゃないかなということをちょっと口出ししてという形ができているのは、学力もあるからなのかもしれないですけど、子どもたちの人間性の良さもあるんじゃないかなと思っています」
選手が練習メニューを考えることについて、「ただ指導者から教えられるだけじゃなくて、自分が教える側に回ることで、これまで自分も気づいてなかったことにも気づけるようになったのは大きいです」と畑下は話す。
洛南は附属中に野球部がないため、中学時代に野球部だった選手は2、3年生10名のうち外部生の3名しかいない。中学3年間のブランクがある選手もいれば、高校から野球を始めた選手もいる。そのため、上級生が下級生に対して基礎を教え込まないといけないというチーム事情があるのだ。
取材日も副主将で正捕手の伊藤 暁(3年)が捕手志望の1年生に対して、捕手のイロハを教えていた。「人数が少ない中、自分たちで一生懸命考えて、自分たちでチームを作っていくことができているチームだと思うので、団結力というのは凄くあると思います」と山村監督も学年を超えた繋がりの強さには自信を持っている。
一体感のある洛南だが、秋、春ともに初戦でコールド負けと公式戦の結果には繋がっていない。春はエースの畑下が右肋骨の疲労骨折で出場できないのが響いた。ベンチから試合を見ていた畑下はチームの課題をこう分析する。
「ここぞという場面でのエラーが秋、春と目立っていたので、まずは春から夏にかけて短い期間ですけど、もう一度、守備はノックの本数を増やして、場慣れしていくという風に考えています」
こうした反省もあり、取材日は守備練習が中心だった。特に球際の強さを鍛えている印象があり、課題を明確にしながら夏に向けて強化を進めている。
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伊藤暁副主将(左)と畑下修輝主将(右)
夏の目標は3年ぶりの初戦突破だ。チームを引っ張る畑下と伊藤にそれぞれ意気込みを語ってもらった。
「日頃、遅くまで練習させて頂いている顧問の先生方、そして、私立でお金がかかるにも関わらず、野球をさせて頂いている保護者の方々にも感謝の気持ちはありますし、それを返すためにも夏1勝で返せるようにしていきたいと思います」(畑下)
「お母さんが朝早くに起きて朝ごはんや弁当を作ってくれたりしているので、そこには感謝したいですし、実はまだ公式戦でヒットがないので、夏の大会では打てるように頑張りたいと思います」(伊藤)
自ら考える野球で悲願の公式戦勝利を目指す洛南。夏の大会ではどんな戦いぶりを見せてくれるだろうか。
(取材=馬場 遼)