師と仰ぐコーチと二人三脚で歩んだフォーム改造、そして144キロ。林優樹(近江-西濃運輸)の決意【後編】
今年、アマチュア野球ファンの間で密かに話題になっているのが西濃運輸・林 優樹の急成長だ。近江のエースとして甲子園に3度出場した林。侍ジャパンU-18代表にも選ばれるなど、高校野球界を代表する技巧派左腕として活躍した。
一昨年にプロ志望届を提出したが、NPB球団からの指名はなく、社会人の名門・西濃運輸に入社。ルーキーイヤーの昨年は左肘を痛めた影響で実戦登板はなく、体作りに専念していた。
今年は対外試合での登板を果たすと、デビュー戦で自己最速を7キロ更新する144キロをマーク。その後の登板でも安定して140キロ台を計測しており、高校時代から明らかにスケールアップした姿を見せている。
高校野球ファンを驚かせる着実な進化を見せた林優樹。後編では覚醒のきっかけとなったフォーム改造の秘密に迫る。
進化を促したフォーム改造の背景

高校時代の投球フォーム(左)と現在の投球フォーム(右)
今回、高校野球ドットコムから配信した動画で、現在の投球フォームの変化に驚いた方も多いと思う。
高校時代は右足を高く上げて、大きく振り下ろす投球フォームだったが、今では大きい右足の上げ方は変わりないが、二段モーションからスリークォーター気味で投げたものになっている。佐伯コーチとのトレーニングの要素を取り入れた中で、現在のフォームにたどり着いたそうだが、「体の負担が凄く大きかったですし、上の世界を目指すのは無理なんじゃないかなと思っていました」と最初は足を上げるフォームをやめることも考えていたそうだ。
小さな体を大きく使うフォームで投げていたことで、登板後には下半身の張りを感じることも多かった。そこで、林は佐伯コーチに足を大きく上げないフォームに変更したい旨を伝えた。佐伯コーチも「そっちの方が良いボールが簡単に投げられるのかな」と思ったそうだが、あえてそれを拒んだ。それは高校時代の投球が強く印象に残っていたからだ。
「たまたまテレビをつけた時に見たのが彼のピッチングで、その姿を見た時に凄い投げ方をするなと思いました。なかなかこういう投げ方をする子はいないですし、それが彼の特徴だと思います。その特徴を消さずによりレベルアップする方法はないのかなという風に二人で話し合いながらやれたんじゃないかなと思いますね」

右足を大きくあげる林の投球フォーム
個性を殺さずにレベルアップを目指した結果、見事にそれが成就した。林の独特なフォームに影響を受けた選手は少なくなく、林平太郎(都立城東)、三尾倖平(京都翔英)、安土慶(星稜)のように投球フォームを真似る投手まで現れるようになった。そのことについて、林は次のように話す。
「野球は体が小さくてもできるスポーツだと思います。自分は野球を始めた頃から体がずっと小さい方でした。でも、体が大きい選手に負けたくないとずっと思っていたので、参考にしてもらっているのは凄く嬉しかったです」
体が大きくなくても活躍できる一つの成功モデルとなった林。今年に入ってから段階を踏んで本格的な投球を再開し、2月に実戦登板を果たすまでになった。
[page_break:対外試合で140キロ連発。今年は戦力になりたい]対外試合で140キロ連発。今年は戦力になりたい

住谷湧也と林
対外試合初登板となった2月25日の愛知東邦大戦では3回を投げて、被安打0、奪三振5、無失点の好投。スピードも144キロを計測し、周囲を驚かせた。
「今まで自分が投げていたボールと一回りも二回りもよくなっているのは自分でも感じました。この1年間やってきたことは嘘をつかなかったと思いますし、この環境を作ってもらったチームには感謝しないといけないと思います。色んな人にアドバイスを頂いて、ここまで来ることができて、まずは良かったです」
林の投球に変化が見えたのは球速だけでなく、投球内容にもあった。「変化球に頼るピッチングではなくて、ストレートがどこまで通用するのかというのを確認して、この時期はピッチングしていこうと思っていました」と3月6日の近畿大戦では投球の8割以上がストレートを占めていた。それでも3回1安打無失点と関西を代表する強豪大学を抑え込んでおり、ストレートでも勝負できることを印象づけた。
「西濃運輸にいる他の選手にも引けを足らない」(佐伯コーチ)というレベルまで到達した林だが、今でもオープン戦で登板した後にはシャドーピッチングで修正を行うなど、更なる高みを目指して、地道な鍛錬を続けている。
そんな林の取り組む姿勢はチームメイトにも好影響を与えている。自主練習では近江高からの同期である住谷湧也と林のどちらかが、最後まで残っているそうだ。「ポジションは違うけど、良いライバル意識で競争し合っています。本当に野球が好きなんでしょうね。それが野球選手にとって一番大事だと思います」と林監督も二人の野球に対する姿勢を高く評価している。
昨年は住谷が3番に定着した一方で、林は戦力になれなかった。今年は二人でチームに勢いをつける活躍が期待されている。林もその期待に応えて見せるつもりだ。
「去年はチームの戦力になれなかったので、今年こそはしっかりと投げて、チームの戦力になりたいと思っています。チームとしても今年は必ず全国に行かないといけない年なので、死ぬ物狂いで戦っていきたいと思います」
目標である来年のドラフト指名に向けて、2年目の今年は重要な年となる。1年間の充電期間を経て、大きくパワーアップした林を公式戦で見るのが楽しみだ。
(記事=馬場 遼)