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プロ注目右腕も急成長。大阪桐蔭を破った智辯和歌山ナインのメンタル改革【後編】

2022.08.04

 2年連続の夏の甲子園優勝を狙える戦力になってきたと言っても過言ではない。今回はそんな智辯和歌山を訪問した。今年は大阪桐蔭の連勝を止めたことで大きく話題となったが、そこにはある改革があった。

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さらに進化を遂げる智辯和歌山。思考力が高い高ポテンシャルの選手をどう育成しているのか?【前編】

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夏の甲子園の組み合わせ

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思考力の高さが高いパフォーマンスを生む

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智辯和歌山の練習模様

 智辯和歌山の選手はグラウンド上では豪快なプレーを見せる選手が多いが、近年では思考力が高い選手が出てきている。それこそが智辯和歌山の選手たちの高いパフォーマンスにつながっている。

 黒川 史陽内野手(楽天)らがいた19年世代は野球ノートを付け始めた世代で、日々の練習の振り返りをノートにまとめてきた。ただ、それだけではなく、中谷監督への質問も綴った。そういうやり取りを1年間、そして3年間やり抜いていくと、上辺だけではない思考力を持った選手に育っていく。19年のエース・池田 陽佑投手(立教大)の高校3年時の取材では、細かい技術的なポイントに気づいて、修正を行い、140キロ後半まで到達した話をしてくれたが、日頃から考えて取り組む習慣がなければ、技術的に突き詰めることはできないし、急激な成長もできない。

 また、イチロー氏が訪問した時、大きな話題となったが、個人的に感心したのは、20年の主将であった細川 凌平内野手(日本ハム)が積極的に質問をしていたことだ。20年1月、細川を取材した時、攻守のプレーに対して、根拠を持って説明できていたのが印象的であった。だからイチロー氏に質問した姿は細川らしさが出ていた。

 こうした思考力の高い選手たちが集まったからこそ、安定した全国での実績、甲子園優勝につながった部分もあるのだろう。中谷監督に話ができる選手が多いと触れると、「そうやって言ってもらえるのはとてもありがたいことです」と語る。

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ビノベーションレポートの導入

 中谷監督としては野球を通じての人間教育で、さらに学びを入れたいと今年3月からビノベーションレポートの導入を行った。

 このレポートは140項目の質問に答えることにより、人が生まれ持つ資質を14軸2対28項目に分類・データ化するもの。自分は外向的なのか、内向的なのかが分かり、自分を客観視できるもので、中谷監督の考えにマッチするものであった。

 中谷監督は星川太輔氏の紹介を受け、鶴巻翔平氏がチームの練習に参加し、選手たちと個人面談を行った。鶴巻氏の加入は選手たちにとって大きかった。
「練習試合で全く打てていなかった選手が急激に打つようになって、『お前どうしたんだ?」と聞いたら、『鶴巻さん、星川さんに話を聞いてもらって』と答えるんです。ようは個人の悩みでも、監督、部長に打ち明けられないものがあります。物事の考え方の整理をしてもらえますので、僕自身、助けになっています。人間的に成長した選手も多く、今年の2、3年生はどういう科学反応が起こるか楽しみです」

 うまく行かない時はどうすればいいか、自分の考えが整理されていないことが多い。ふとした時、悩みが吹っ切れ、考えに明確になり、次のステップに向かっていくこともあるが、そのアドバイスができるのは指導者だけではない。選手にとってお兄さん的な存在が良き相談役になることもある。中谷監督は組織を円滑化させるためには。こういう方の存在は、今の時代にとてもマッチしていると考えている。

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ビノベーションレポート

[page_break:主力選手3名に訪れた精神面、取り組み面の成長]

主力選手3名に訪れた精神面、取り組み面の成長

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ビノベーションレポートの導入

 選手たちはどう変わったのか。主将の岡西はこう振り返る。
「やる前とやった後では考え方が大きく変わりました。自分の場合、他人と比較したり過去の自分と比較したりが多かったので、そう言ったところを指導してもらって、考え方が変わって、打席での考え方にも影響していきました」

 今やるべきことに集中する。そのためパフォーマンスも変わってきた。
「自分の性格上、過去はこうだったなとか、こう打ってたなというのがあって、秋に打てなくて、その時にずっと過去のことを引きずっていたのでそれを春のビノベーションレポートをやって、気づいてちょっとずつ変わっていきました過去は過去で、全てのことにおいてですが、過去は過去、今は今で、今を全力でやることを意識しています」

 その結果、春季近畿大会では12打数4安打ながら、3打点を挙げ、そして夏の大会・向陽戦では、満塁本塁打を放ち、主力打者にふさわしい活躍を見せている。また、正捕手の渡部 海選手は「楽観的で物事を深く考えない。振り返るのが苦手なタイプでした。試合ごとに振り返ったり、物事をこういう理由でこうなってるのかをしっかり考えて理由付けするようになりました」

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武元 一輝の投球練習模様

 渡部もリードの内容が良くなり、投手とのコミュニケーションも円滑に取れるようになったという。そして最速148キロ右腕で、高校通算20本塁打を誇る二刀流・武元 一輝投手も変わった。中谷監督は「武元が一番変わったんです。練習の取り組み方、物事の考え方がかなりよくなって、ポテンシャルの高さを実戦でも発揮しつつあります」というぐらい精神面で成長を見せた。
「自分のために頭の中が整理できて、日ごろ監督から言われていることを再認識できたりだとか、優勝するためにどうすればいいのかというの考えられるようになりましたし、継続というのを2年生の時はできていなかったので、一つ一つ積み上げていくことが成長に繋がるので日々の練習や毎日の取り組みは大事になってくるかなと思います」

 武元に取材をすると、色々なことに興味があり、知識量も豊富。ただ、何を取り組むべきなのか、積み重ねるべきなのか、取捨選択できず、思うようにいかない選手はいる。以前の武元はその1人であったが、鶴巻氏での出会いで変わっていった。
「深く考えることであったり、そういったところが苦手で、行動力はあると言われていたのですが、深く考えて追求することが欠点だったので、監督の意見を聞きながら、自分のレベルを上げるためにどうすればいいのか考えました」

 こうしたメンタル改革もあり、武元は主にリリーフとして活躍し、近畿大会決勝戦では大阪桐蔭相手に好リリーフを見せ、優勝に貢献した。日に日に評価は上がっている。取材日の投球練習では中谷監督と対話をしながら、自身の投球スタイルを確立している姿があった。

徹底マークをされても目の前の一戦に集中し、夏連覇へ

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主将・岡西佑弥

 智辯和歌山は取り組みをアップデートしながら、レベルアップしていることがわかる。そして夏の大会がスタートした。中谷監督、選手たちも徹底マークをされる中、勝利をしないといけない立場であることは自覚をしている。主力3名はこう意気込んだ。

「目の前の相手を一戦一戦倒していって、まずは甲子園出場というところなので、目標は日本一ですが、そこを見過ぎずに目の前の相手を倒していきたいです」(岡西)
「投打でチームの勝ちに導けるような、ピッチングやバッティングというのと、チームの勝ちのためのプレーをしたいです」(武元)
「全国制覇を目指す中で、必ず難しい試合はたくさんあると思うので、そこで勝ち切る力が今のチームにあると思うので、点差が開いても粘って諦めずに戦いたいです。」(渡部)

 チームは見事和歌山大会を制して甲子園出場が決定。6日からの甲子園では、全国制覇へ向けて厳しい戦いが続くが、日々の練習で積み重ねてきた実力を最大限に発揮し、04年、05年の駒大苫小牧以来となる夏連覇を目指していく。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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