試合レポート

愛知産大三河vs知多翔洋

2022.07.02

明暗を分けた2回の攻防、「明」と出た愛知産大三河がリードを守って逃げ切る

<第104回全国高校野球選手権愛知大会:愛知産大三河8-0知多翔洋>◇2日◇1回戦◇刈谷

 この春は、夏のシード権を得られるベスト8決めとなる3回戦で、優勝した東邦に屈してしまった愛知産大三河。最後までリズムに乗り切れなかった戦いだったが、その後の全三河大会では優勝を果たして、やはり力のあることは示した。そして夏の初戦を迎えることとなった。

 結果としては、スコアだけを見ると大差という印象の試合になってしまったけれども、内容としては引き締まっていた。というのも、随所に好プレーもあって、知多翔陵の各選手が元気よく声を出して打席に入っていくなど、気持ちも高めていって自分を鼓舞していた姿も印象的だったからでもある。それに、2人目として登板した高橋が気迫のこもった投球で、食い下がっていく姿もよかった。

 愛知産大三河はエースナンバーを背負っている豊田 英志投手(3年)、知多翔洋は背番号10の益永 歩夢投手(3年)が先発。初回はお互いに三者凡退に抑えていい滑り出しとなった。

 ところが、結果的に試合の行方を分けたのは試合序盤、2回の攻防だった。愛知産大三河は4番清水 友睦外野手(3年)がチーム初安打を放つと、すぐに盗塁で無死二塁。さらには、ここのところは打撃が不調だという籠谷 颯人外野手(3年)が送りバントの構えから、バスターではないけれどもそのままちょっと強く振ってこれが二塁への内野安打となって一、三塁。ここで、6番田中 健太捕手(3年)が三遊間を破って愛知産大三河が先制。知多翔洋ベンチは次の村上将吾(3年)に3ボールとなったところで益永と右翼手として先発出場していた高橋 優惺投手(3年)とを入れ替えた。愛知産大三河は四球で満塁後、中犠飛と白瀬羽駆斗内野手(3年)のスクイズで追加点を挙げてこの回3点とした。試合後に櫻井春生監督も言っていたが、ここで大きかったのは籠谷の機転を利かせたバントからのプッシュ打法での安打だった。これで、試合の流れを一気に持ってこられることにもなった。

 そしてその裏、反撃したい知多翔洋は4番二村蒼太捕手(3年)と続く池戸瑛紀内野手(3年)が連打して一、二塁。6番益永も送りバントを決めて1死二、三塁。一気に追いつけるくらいの勢いを示していた。そして、7番矢野 新之介外野手(3年)は追い込まれながらもスクイズで一塁線に転がした。これが巧妙だったのだが、愛知産大三河の野手は間に合わないと判断した瞬間から打球を見送った。コロコロと転がった打球は一塁ベース手前で右へそれてファウルとなり、打者はバント失敗三振。走者は戻されて、2死二、三塁となって、次打者を豊田が打ち取って、結局、知多翔洋はこの回無得点。まさに、試合の流れを左右する2回の攻防の2つのバントだったのだ。そこで明暗が分かれてしまい、結局それが最後まで試合を支配した。


 愛知産大三河は、5回にも4番清水の左前打で追加点を挙げる。そして、豊田は、決してスピードはあるわけではないのだけれども持ち味のチェンジアップなどを駆使して緩急のよさで、巧みに相手打者を交わしていく投球術はさすがだった。投手はスピードではなくて、制球と投球術だということを、改めて認識させてくれるような投球だった。

 9回にも田中の2点適時打や代打毛受 漸捕手(3年)の左翼線二塁打などで4点を追加した愛知産大三河。その裏には、豊田を下げて丹羽 勘介内野手(3年)に登板機会を与えることもできた。櫻井監督は、「夏の大会ですから、何があるからわからないので、投手として投げられる選手は5人入れておいた」と言うだけに、豊田が中心になっていくではあろうが、別の投手に大会に馴らさせておくことができたということでも大きかったのではないだろうか。

 結果的には、本塁が遠く、完封負けということになってしまった知多翔洋。しかし、中盤までの戦いとしてはほぼ互角だった。2回のバントの明暗が大きかったけれども、守りでは再三のように好プレーも出ていた。

 「去年から出ている選手も多く、チームとしてもいい形でまとまってきていたし、十分に手ごたえのあるチームに仕上がってきたと思っていました。それだけに、もう少し上の舞台でも戦わせてあげたかった」と、伊藤仁監督は悔しがった。スタンドには歴代の校長先生4名が勢ぞろいして声援を送っていた。「いいチームを作ってくれて、嬉しい」と、試合には敗れたものの、伊藤監督が作り上げていった野球部としての歴史も評価していた。

 伊藤監督は、この夏で監督としてのチーム指導は退き、山本夏輝現部長に引き継ぐ意向だという。

 1974年(昭49)に創設された知多とその9年後に創立した知多東がやがて、統合して2009年(平19)に創設されたのが知多翔洋。東三河の強豪公立校の成章出身の伊藤監督は、半田商を経て知多翔洋に赴任してきて、地道にチーム作りをしてきた。名古屋市内の強豪校にも対等に戦えるチームを作っていきたいという思いで指導を重ねてきた。今年のチームは、その集大成にも近い形で仕上がっていた。コロナで入学時から、不自由な練習環境だった世代でもある。だけど、生徒たちが一生懸命に練習に取り組んでいく姿に、自身の意気込みも注いでいった。

 その夏の最後は初戦敗退という結果にはなってしまった。それでも、チームとしては、描いていたイメージに近いものになっていたのではないだろうか。

(取材=手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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