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体幹トレーニングの進め方

2022.02.15

体幹トレーニングの進め方 | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 新型コロナウイルス・オミクロン株の流行により、地域差はあるものの全体練習への影響が懸念される状況が続いています。時間制限のあるところ、部活動が一時的に休止しているところなどさまざまあると思いますが、春のシーズンに向けて「今、できること」に目を向けて、お互いがんばっていきましょう。さて今回は体幹トレーニングの進め方についてお話をしてみたいと思います。野球に限らずさまざまな動きの中で重要な役割を果たす体幹をどのように鍛えていけばいいのでしょうか。

体幹の筋肉は表層(浅層)から深層まで

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腹部の筋肉は何層にも重なって存在する

 体幹とはどの部分を指すのかについておさらいしておきましょう。体幹は首から上と四肢(左右の腕と足)をのぞいた、いわゆる胴体部分のことを指します。体幹トレーニングというと腹筋や背筋を思い浮かべることが多いと思いますが、背中や胸、股関節などお尻周辺部を含み、姿勢を保つために重要な役割を果たしています。

 体幹には脊椎、胸郭、骨盤といった骨性のものと、その周辺にある筋肉群が含まれます。特に骨の支えが少ない部分は筋肉が何層にも重なってその役割を担っています。皆さんは体幹を強化するために腹筋や背筋のエクササイズを行うと思いますが、こうした筋肉群は表層部分から深層部分にまで重なっており、姿勢を維持するために特に重要となるのが体幹の深層部にある筋肉(インナーマッスルとも呼ばれます)であると言われています。

 腹部の筋肉を例に挙げて見てみましょう。体の表面近くには体をひねる動作を担う外腹斜(がいふくしゃ)筋(ポケットに手を入れた状態で筋線維が走行する)があります。その下には腹直筋(いわゆる「腹筋の割れ」が見られるのはこの筋肉)や内腹斜(ないふくしゃ)筋があり、最も深いところには腹横(ふくおう)筋があります。動きの中で「今、腹横筋が動いた!」と感じることはむずかしいのですが、あらゆる動作に関連する大事な筋肉です。

バランスを取るときに反応する腹横筋

 皆さんは電車やバスの中で揺れたときに足で踏ん張った経験はありませんか。体が倒れないように足で踏ん張っていますが、これは重心の移動を察知した脳からの指令によって、腹横筋をはじめ体幹部分の筋肉が体の倒れる方向と反対方向に力を発揮して倒れないように体を支えているからです。これと同じことがスポーツ動作でも見られます。ピッチングの始動時、バッティングの始動時にまず最初に動く筋肉はどこでしょうか。足から始動する、お尻から始動する等、それぞれ感覚的に思うところはあると思いますが、「体を動かそう」という脳からの指令は、今ある体の重心が移動することになるため、その前に体幹部の腹横筋などが体を支えるために最初に反応すると言われています。

[page_break:安定性を高めるためのスタビリティトレーニング/筋力、パワーの養成と積み上げていこう]

安定性を高めるためのスタビリティトレーニング

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スタビリティトレーニングでは脊椎や骨盤が動かないように体を保持することが大切

 パフォーマンスアップを目指すトレーニング計画では、まず筋肉量を増やすことから始め(筋肥大期)、その筋肉がより大きな力を発揮できるようにトレーニングを行い(筋力向上期)、大きな筋力にスピードを加えることで爆発的なパワーを生み出す(パワー養成期)ように段階的に進めていくことが理想的です。体幹トレーニングにおいても同じように段階を踏んで強化していくのですが、最初の段階では姿勢を維持するために欠かせない体幹の深層部を強化することが必要となります。

 皆さんは体を保持した状態で行うスタビリティトレーニングを行ったことはあるでしょうか。腹横筋をはじめとする深層筋群、背筋では脊柱に付着する多裂(たれつ)筋、骨盤に付着する骨盤底(こつばんてい)筋などが関与しながら、安定した姿勢を保つことができるようにするトレーニングです。両肘を地面について体を支えるプランク(フロントブリッジ)は代表的なエクササイズの一つですが、このときに背中が丸まったり、反ったりしないように気をつけながら姿勢を維持しましょう。できる人は片足を挙げて三点支持にするとバランス要素も刺激を受けることになります。

 スタビリティトレーニングでは脊椎や骨盤をできるかぎり動かさない状態で体を保持することを心がけましょう。

筋力、パワーの養成と積み上げていこう

 安定してスタビリティトレーニングができるようになったら、腹筋・背筋のトレーニングを行っていきます。この時は表層にある外腹斜筋や腹直筋、背筋群では広背筋や脊柱起立筋などが関与し、より大きな力を発揮できるように鍛えていきます。自重でできるものが多いので自宅でも時間を決めて取り組むようにすると良いでしょう。シットアップやバックエクステンションなど前後の動きだけではなく、回旋動作や横方向への動きなども取り入れながらさまざまなエクササイズを選択してみてください。

 さらにスピード要素を加えてパワーアップをはかるときに使いやすい用具の一つにメディシンボールがあります。重さによって負荷の調節ができ、ボールを投げる時に体幹を素早く回旋させることでパワーをつけることができます。パートナーがいる場合は相手に投げてもらったボールでより大きな伸張性(エキセントリック)収縮を得るようにしてからボールを投げ返します。さながらゴムを大きく引き伸ばすように腹筋を伸ばしたところから、ゴムが短い時間で縮むことをイメージしてもらえればわかりやすいと思います。メディシンボールのサイドスローが安定してより遠くまで投げられるようになると、おのずとバッティングのスイングにも変化が見られるようになると思います。

 体幹を鍛えることは姿勢や動作の改善にもつながります。コツコツと地道に続けてみてくださいね。

参考書籍)「眠れなくなるほど面白い体幹の話」木場克己著/日本文芸社

【体幹トレーニングの進め方】
●体幹には脊椎、胸郭、骨盤といった骨性のものと、その周辺にある筋肉群が含まれる
●体幹の筋肉は表層(浅層)から深層にかけて重なって存在する
●姿勢や動作の安定に貢献するのは深層部にある腹横筋など
●バランスが崩れそうになったときや動作始めには腹横筋が反応する
●スタビリティトレーニングでは脊椎や骨盤をできるかぎり動かさない状態で体を保持すること
●深層筋群が安定した上で表層にある筋肉を鍛え、筋力強化、パワー向上と順に行う

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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